外国等に対する我が国の民事裁判権に関する法律


第一章 総則

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(趣旨)

第一条
この法律は、外国等に対して我が国の民事裁判権(裁判権のうち刑事に係るもの以外のものをいう。第四条において同じ。)が及ぶ範囲及び外国等に係る民事の裁判手続についての特例を定めるものとする。

(定義)

第二条
この法律において「外国等」とは、次に掲げるもの(以下「国等」という。)のうち、日本国及び日本国に係るものを除くものをいう。
一 国及びその政府の機関
二 連邦国家の州その他これに準ずる国の行政区画であって、主権的な権能を行使する権限を有するもの
三 前二号に掲げるもののほか、主権的な権能を行使する権限を付与された団体(当該権能の行使としての行為をする場合に限る。)
四 前三号に掲げるものの代表者であって、その資格に基づき行動するもの

(条約等に基づく特権又は免除との関係)

第三条
この法律の規定は、条約又は確立された国際法規に基づき外国等が享有する特権又は免除に影響を及ぼすものではない。

第二章 外国等に対して裁判権が及ぶ範囲

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第一節 免除の原則

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第四条

外国等は、この法律に別段の定めがある場合を除き、裁判権(我が国の民事裁判権をいう。以下同じ。)から免除されるものとする。

第二節 裁判手続について免除されない場合

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(外国等の同意)

第五条
  1. 外国等は、次に掲げるいずれかの方法により、特定の事項又は事件に関して裁判権に服することについての同意を明示的にした場合には、訴訟手続その他の裁判所における手続(外国等の有する財産に対する保全処分及び民事執行の手続を除く。以下この節において「裁判手続」という。)のうち、当該特定の事項又は事件に関するものについて、裁判権から免除されない。
    一 条約その他の国際約束
    二 書面による契約
    三 当該裁判手続における陳述又は裁判所若しくは相手方に対する書面による通知
  2. 外国等が特定の事項又は事件に関して日本国の法令を適用することについて同意したことは、前項の同意と解してはならない。

(同意の擬制)

第六条
  1. 外国等が次に掲げる行為をした場合には、前条第一項の同意があったものとみなす。
    一 訴えの提起その他の裁判手続の開始の申立て
    二 裁判手続への参加(裁判権からの免除を主張することを目的とするものを除く。)
    三 裁判手続において異議を述べないで本案についてした弁論又は申述
  2. 前項第二号及び第三号の規定は、当該外国等がこれらの行為をする前に裁判権から免除される根拠となる事実があることを知ることができなかったやむを得ない事情がある場合であって、当該事実を知った後当該事情を速やかに証明したときには、適用しない。
  3. 口頭弁論期日その他の裁判手続の期日において外国等が出頭しないこと及び外国等の代表者が証人として出頭したことは、前条第一項の同意と解してはならない。

第七条

  1. 外国等が訴えを提起した場合又は当事者として訴訟に参加した場合において、反訴が提起されたときは、当該反訴について、第五条第一項の同意があったものとみなす。
  2. 外国等が当該外国等を被告とする訴訟において反訴を提起したときは、本訴について、第五条第一項の同意があったものとみなす。

(商業的取引)

第八条
  1. 外国等は、商業的取引(民事又は商事に係る物品の売買、役務の調達、金銭の貸借その他の事項についての契約又は取引(労働契約を除く。)をいう。次項及び第十六条において同じ。)のうち、当該外国等と当該外国等(国以外のものにあっては、それらが所属する国。以下この項において同じ。)以外の国の国民又は当該外国等以外の国若しくはこれに所属する国等の法令に基づいて設立された法人その他の団体との間のものに関する裁判手続について、裁判権から免除されない。
  2. 前項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない。
    一 当該外国等と当該外国等以外の国等との間の商業的取引である場合
    二 当該商業的取引の当事者が明示的に別段の合意をした場合

(労働契約)

第九条
  1. 外国等は、当該外国等と個人との間の労働契約であって、日本国内において労務の全部又は一部が提供され、又は提供されるべきものに関する裁判手続について、裁判権から免除されない。
  2. 前項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない。
    一 当該個人が次に掲げる者である場合
    イ 外交関係に関するウィーン条約第一条(e)に規定する外交官
    ロ 領事関係に関するウィーン条約第一条1(d)に規定する領事官
    ハ 国際機関に派遣されている常駐の使節団若しくは特別使節団の外交職員又は国際会議において当該外国等(国以外のものにあっては、それらが所属する国。以下この項において同じ。)を代表するために雇用されている者
    ニ イからハまでに掲げる者のほか、外交上の免除を享有する者
    二 前号に掲げる場合のほか、当該個人が、当該外国等の安全、外交上の秘密その他の当該外国等の重大な利益に関する事項に係る任務を遂行するために雇用されている場合
    三 当該個人の採用又は再雇用の契約の成否に関する訴え又は申立て(いずれも損害の賠償を求めるものを除く。)である場合
    四 解雇その他の労働契約の終了の効力に関する訴え又は申立て(いずれも損害の賠償を求めるものを除く。)であって、当該外国等の元首、政府の長又は外務大臣によって当該訴え又は申立てに係る裁判手続が当該外国等の安全保障上の利益を害するおそれがあるとされた場合
    五 訴えの提起その他の裁判手続の開始の申立てがあった時において、当該個人が当該外国等の国民である場合。ただし、当該個人が日本国に通常居住するときは、この限りでない。
    六 当該労働契約の当事者間に書面による別段の合意がある場合。ただし、労働者の保護の見地から、当該労働契約に関する訴え又は申立てについて日本国の裁判所が管轄権を有しないとするならば、公の秩序に反することとなるときは、この限りでない。

(人の死傷又は有体物の滅失等)

第十条
外国等は、人の死亡若しくは傷害又は有体物の滅失若しくは毀損が、当該外国等が責任を負うべきものと主張される行為によって生じた場合において、当該行為の全部又は一部が日本国内で行われ、かつ、当該行為をした者が当該行為の時に日本国内に所在していたときは、これによって生じた損害又は損失の金銭によるてん補に関する裁判手続について、裁判権から免除されない。

(不動産に係る権利利益等)

第十一条
  1. 外国等は、日本国内にある不動産に係る次に掲げる事項に関する裁判手続について、裁判権から免除されない。
    一 当該外国等の権利若しくは利益又は当該外国等による占有若しくは使用
    二 当該外国等の権利若しくは利益又は当該外国等による占有若しくは使用から生ずる当該外国等の義務
  2. 外国等は、動産又は不動産について相続その他の一般承継、贈与又は無主物の取得によって生ずる当該外国等の権利又は利益に関する裁判手続について、裁判権から免除されない。

(裁判所が関与を行う財産の管理又は処分に係る権利利益)

第十二条
外国等は、信託財産、破産財団に属する財産、清算中の会社の財産その他の日本国の裁判所が監督その他の関与を行う財産の管理又は処分に係る当該外国等の権利又は利益に関する裁判手続について、裁判権から免除されない。

(知的財産権)

第十三条
外国等は、次に掲げる事項に関する裁判手続について、裁判権から免除されない。
一 当該外国等が有すると主張している知的財産権(知的財産基本法(平成十四年法律第百二十二号)第二条第一項に規定する知的財産に関して日本国の法令により定められた権利又は日本国の法律上保護される利益に係る権利をいう。次号において同じ。)の存否、効力、帰属又は内容
二 当該外国等が日本国内においてしたものと主張される知的財産権の侵害

(団体の構成員としての資格等)

第十四条
  1. 外国等は、法人その他の団体であって次の各号のいずれにも該当するものの社員その他の構成員である場合には、その資格又はその資格に基づく権利若しくは義務に関する裁判手続について、裁判権から免除されない。
    一 国等及び国際機関以外の者をその社員その他の構成員とするものであること。
    二 日本国の法令に基づいて設立されたものであること、又は日本国内に主たる営業所若しくは事務所を有するものであること。
  2. 前項の規定は、当該裁判手続の当事者間に当該外国等が裁判権から免除される旨の書面による合意がある場合又は当該団体の定款、規約その他これらに類する規則にその旨の定めがある場合には、適用しない。

(船舶の運航等)

第十五条
  1. 船舶を所有し又は運航する外国等は、当該船舶の運航に関する紛争の原因となる事実が生じた時において当該船舶が政府の非商業的目的以外に使用されていた場合には、当該紛争に関する裁判手続について、裁判権から免除されない。
  2. 前項の規定は、当該船舶が軍艦又は軍の支援船である場合には、適用しない。
  3. 船舶を所有し又は運航する外国等は、当該船舶による貨物の運送に関する紛争の原因となる事実が生じた時において当該船舶が政府の非商業的目的以外に使用されていた場合には、当該紛争に関する裁判手続について、裁判権から免除されない。
  4. 前項の規定は、当該貨物が、軍艦若しくは軍の支援船により運送されていたものである場合又は国等が所有し、かつ、政府の非商業的目的のみに使用され、若しくは使用されることが予定されているものである場合には、適用しない。

(仲裁合意)

第十六条
外国等は、当該外国等(国以外のものにあっては、それらが所属する国。以下この条において同じ。)以外の国の国民又は当該外国等以外の国若しくはこれに所属する国等の法令に基づいて設立された法人その他の団体との間の商業的取引に係る書面による仲裁合意に関し、当該仲裁合意の存否若しくは効力又は当該仲裁合意に基づく仲裁手続に関する裁判手続について、裁判権から免除されない。ただし、当事者間に書面による別段の合意がある場合は、この限りでない。

第三節 外国等の有する財産に対する保全処分及び民事執行の手続について免除されない場合

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(外国等の同意等)

第十七条
  1. 外国等は、次に掲げるいずれかの方法により、その有する財産に対して保全処分又は民事執行をすることについての同意を明示的にした場合には、当該保全処分又は民事執行の手続について、裁判権から免除されない。
    一 条約その他の国際約束
    二 仲裁に関する合意
    三 書面による契約
    四 当該保全処分又は民事執行の手続における陳述又は裁判所若しくは相手方に対する書面による通知(相手方に対する通知にあっては、当該保全処分又は民事執行が申し立てられる原因となった権利関係に係る紛争が生じた後に発出されたものに限る。)
  2. 外国等は、保全処分又は民事執行の目的を達することができるように指定し又は担保として提供した特定の財産がある場合には、当該財産に対する当該保全処分又は民事執行の手続について、裁判権から免除されない。
  3. 第五条第一項の同意は、第一項の同意と解してはならない。

(特定の目的に使用される財産)

第十八条
  1. 外国等は、当該外国等により政府の非商業的目的以外にのみ使用され、又は使用されることが予定されている当該外国等の有する財産に対する民事執行の手続について、裁判権から免除されない。
  2. 次に掲げる外国等の有する財産は、前項の財産に含まれないものとする。
    一 外交使節団、領事機関、特別使節団、国際機関に派遣されている使節団又は国際機関の内部機関若しくは国際会議に派遣されている代表団の任務の遂行に当たって使用され、又は使用されることが予定されている財産
    二 軍事的な性質を有する財産又は軍事的な任務の遂行に当たって使用され、若しくは使用されることが予定されている財産
    三 次に掲げる財産であって、販売されておらず、かつ、販売されることが予定されていないもの
    イ 当該外国等に係る文化遺産
    ロ 当該外国等が管理する公文書その他の記録
    ハ 科学的、文化的又は歴史的意義を有する展示物
  3. 前項の規定は、前条第一項及び第二項の規定の適用を妨げない。

(外国中央銀行等の取扱い)

第十九条
  1. 日本国以外の国の中央銀行又はこれに準ずる金融当局(次項において「外国中央銀行等」という。)は、その有する財産に対する保全処分及び民事執行の手続については、第二条第一号から第三号までに該当しない場合においても、これを外国等とみなし、第四条並びに第十七条第一項及び第二項の規定を適用する。
  2. 外国中央銀行等については、前条第一項の規定は適用しない。

第三章 民事の裁判手続についての特例

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(訴状等の送達)

第二十条
  1. 外国等に対する訴状その他これに類する書類及び訴訟手続その他の裁判所における手続の最初の期日の呼出状(以下この条及び次条第一項において「訴状等」という。)の送達は、次に掲げる方法によりするものとする。
    一 条約その他の国際約束で定める方法
    二 前号に掲げる方法がない場合には、次のイ又はロに掲げる方法
    イ 外交上の経路を通じてする方法
    ロ 当該外国等が送達の方法として受け入れるその他の方法(民事訴訟法(平成八年法律第百九号)に規定する方法であるものに限る。)
  2. 前項第二号イに掲げる方法により送達をした場合においては、外務省に相当する当該外国等(国以外のものにあっては、それらが所属する国)の機関が訴状等を受領した時に、送達があったものとみなす。
  3. 外国等は、異議を述べないで本案について弁論又は申述をしたときは、訴状等の送達の方法について異議を述べる権利を失う。
  4. 第一項及び第二項に規定するもののほか、外国等に対する訴状等の送達に関し必要な事項は、最高裁判所規則で定める。

(外国等の不出頭の場合の民事訴訟法の特例等)

第二十一条
  1. 外国等が口頭弁論の期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面を提出しない場合における当該外国等に対する請求を認容する判決の言渡しは、訴状等の送達があった日又は前条第二項の規定により送達があったものとみなされる日から四月を経過しなければすることができない。
  2. 前条第一項及び第二項の規定は、前項に規定する判決についての判決書又は民事訴訟法第二百五十四条第二項の調書(次項及び第四項において「判決書等」という。)の当該外国等に対する送達について準用する。
  3. 前項に規定するもののほか、判決書等の送達に関し必要な事項は、最高裁判所規則で定める。
  4. 第一項に規定する判決に対して外国等がする上訴又は異議の申立ては、民事訴訟法第二百八十五条本文(同法第三百十三条同法第三百十八条第五項において準用する場合を含む。)において準用する場合を含む。)又は第三百五十七条本文(同法第三百六十七条第二項において準用する場合を含む。)若しくは第三百七十八条第一項本文の規定にかかわらず、判決書等の送達があった日又は第二項において準用する前条第二項の規定により送達があったものとみなされる日から四月の不変期間内に提起しなければならない。

(勾引及び過料に関する規定の適用除外)

第二十二条
外国等については、民事の裁判手続においてされた文書その他の物件の提出命令、証人の呼出しその他の当該裁判手続上の命令に従わないことを理由とする勾引及び過料に関する民事訴訟法その他の法令の規定は、適用しない。

附則

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附則

(施行期日)
1 この法律は、公布の日から起算して一年を超えない範囲内において政令で定める日[1]から施行する。

(経過措置)

2 この法律の規定は、次に掲げる事件については、適用しない。
一 この法律の施行前に申立てがあり、又は裁判所が職権で開始した第五条第一項に規定する裁判手続に係る事件
二 この法律の施行前に申立てがあり、又は裁判所が職権で開始した外国等の有する財産に対する保全処分及び民事執行に係る事件

脚注

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  1. 外国等に対する我が国の民事裁判権に関する法律の施行期日を定める政令(2010年(平成22年)1月22日政令第2号)により、2010年(平成22年)4月1日



 

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