国際連合安全保障理事会決議第千八百七十四号等を踏まえ我が国が実施する貨物検査等に関する特別措置法

本則 編集

(目的)

第一条
この法律は、北朝鮮による核実験の実施、大量破壊兵器の運搬手段となり得る弾道ミサイルの発射等の一連の行為が国際社会の平和及び安全に対する脅威となっており、その脅威は近隣の我が国にとって特に顕著であること、並びにこの状況に対応し、国際連合安全保障理事会決議第千七百十八号が核関連、弾道ミサイル関連その他の大量破壊兵器関連の物資、武器その他の物資の北朝鮮への輸出及び北朝鮮からの輸入の禁止を決定し、同理事会決議第千八百七十四号が当該禁止の措置を強化するとともに、国際連合加盟国に対し当該禁止の措置の厳格な履行の確保を目的とした貨物についての検査等の実施の要請をしていることを踏まえ、我が国が特別の措置として実施する北朝鮮特定貨物についての検査その他の措置について定めることにより、外国為替及び外国貿易法(昭和二十四年法律第二百二十八号)、関税法(昭和二十九年法律第六十一号)その他の関係法律による措置と相まって、北朝鮮の一連の行為をめぐる同理事会決議による当該禁止の措置の実効性を確保するとともに、我が国を含む国際社会の平和及び安全に対する脅威の除去に資することを目的とする。

(定義)

第二条
この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
一 北朝鮮特定貨物 次のいずれかに該当する貨物(我が国から輸出しようとする貨物で外国為替及び外国貿易法第四十八条第一項の規定による許可を受けなければならないもの及び同条第三項の規定による輸出の承認を受ける義務を課せられているもの並びに我が国から輸出した貨物で当該許可又は当該承認を受けたもの並びに我が国に輸入しようとする貨物で同法第五十二条の規定による輸入の承認を受ける義務を課せられているもの及び我が国に輸入した貨物で当該承認を受けたものを除く。)をいう。
イ 北朝鮮を仕向地とする貨物のうち、国際連合安全保障理事会決議第千七百十八号、同理事会決議第千八百七十四号その他政令で定める同理事会決議により北朝鮮への輸出の禁止が決定された核関連、ミサイル関連その他の大量破壊兵器関連の物資、武器その他の物資であって政令で定めるもの
ロ 北朝鮮を仕出地とする貨物のうち、国際連合安全保障理事会決議第千七百十八号、同理事会決議第千八百七十四号その他政令で定める同理事会決議により北朝鮮からの輸入の禁止が決定された核関連、ミサイル関連その他の大量破壊兵器関連の物資、武器その他の物資であって政令で定めるもの
二 船舶 軍艦等(軍艦及び各国政府が所有し又は運航する船舶であって非商業的目的のみに使用されるものをいう。以下この号において同じ。)以外の船舶であって、軍艦等に警護されていないものをいう。
三 船長等 船長又は船長に代わって船舶を指揮する者をいう。
四 日本船舶船舶法(明治三十二年法律第四十六号)第一条に規定する日本船舶をいう。

(検査)

第三条
  1. 海上保安庁長官は、我が国の内水にある船舶が北朝鮮特定貨物を積載していると認めるに足りる相当な理由があるときは、海上保安官に、次に掲げる措置をとらせることができる。
    一 検査のため当該船舶の進行を停止させること。
    二 当該船舶に立ち入り、貨物、書類その他の物件を検査し、又は当該船舶の乗組員その他の関係者に質問すること。
    三 検査のため必要な最小限度の分量に限り試料を収去すること。
    四 検査のため必要な限度において、貨物の陸揚げ若しくは積替えをし、又は船長等に貨物の陸揚げ若しくは積替えをするよう指示すること。
  2. 海上保安庁長官は、我が国の領海又は公海(海洋法に関する国際連合条約に規定する排他的経済水域を含む。以下同じ。)にある船舶が北朝鮮特定貨物を積載していると認めるに足りる相当な理由があるときは、海上保安官に、次に掲げる措置をとらせることができる。
    一 船長等に、検査のため当該船舶の進行を停止するよう求めること。
    二 船長等の承諾を得て、前項第二号又は第三号に掲げる措置をとること。
    三 検査のため必要な限度において、船長等の承諾を得て貨物の陸揚げ若しくは積替えをし、又は船長等に貨物の陸揚げ若しくは積替えをするよう求めること。
  3. 税関長は、我が国の港にある船舶又は我が国の空港にある航空機(軍用機及び各国政府が所有し又は運航する航空機であって非商業的目的のみに使用されるものを除く。以下同じ。)が北朝鮮特定貨物を積載していると認めるに足りる相当な理由があるときは、税関職員に、次に掲げる措置をとらせることができる。
    一 当該船舶若しくは当該航空機に立ち入り、貨物、書類その他の物件を検査し、又は当該船舶若しくは当該航空機の乗組員その他の関係者に質問すること。
    二 検査のため必要な最小限度の分量に限り試料を収去すること。
    三 検査のため必要な限度において、貨物の陸揚げ若しくは積替えをし、又は当該船舶の船長等若しくは当該航空機の機長若しくはこれに代わってその職務を行う者(次条第二項において「機長等」という。)に貨物の陸揚げ若しくは積替えをするよう指示すること。
  4. 税関長は、保税地域(関税法第二十九条に規定する保税地域をいい、同法第三十条第一項第二号の規定により税関長が指定した場所を含む。次条第二項において同じ。)に置かれている貨物のうちに北朝鮮特定貨物があると認めるに足りる相当な理由があるときは、税関職員に、貨物、書類その他の物件を検査させ、所有者、占有者、管理者その他の関係者に質問させ、又は検査のため必要な最小限度の分量に限り試料を収去させることができる。
  5. 海上保安官及び税関職員は、前各項の規定による検査をするときは、国土交通省令・財務省令で定めるところにより、制服を着用し、又はその身分を示す証票を携帯し、関係者の請求があるときは、これを提示しなければならない。
  6. 第一項から第四項までの規定による検査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解してはならない。

(提出命令)

第四条
  1. 海上保安庁長官は、前条第一項又は第二項の規定による検査の結果、北朝鮮特定貨物があることを確認したときは、当該船舶の船長等に対し、その提出を命ずることができる。海上保安官が海上保安庁法(昭和二十三年法律第二十八号)その他のこの法律以外の法律の規定による立入検査の結果、船舶において北朝鮮特定貨物を発見した場合において、当該海上保安官からその旨の報告を受けたときも、同様とする。
  2. 税関長は、前条第三項又は第四項の規定による検査の結果、北朝鮮特定貨物があることを確認したときは、当該船舶の船長等若しくは当該航空機の機長等又は当該北朝鮮特定貨物の所有者若しくは占有者に対し、その提出を命ずることができる。税関職員が関税法第百五条の規定による検査の結果、船舶、航空機又は保税地域において北朝鮮特定貨物を発見した場合において、当該税関職員からその旨の報告を受けたときも、同様とする。

(保管)

第五条
  1. 海上保安庁長官又は税関長は、前条の規定により提出を受けた北朝鮮特定貨物(以下この条において「提出貨物」という。)を保管するものとする。
  2. 海上保安庁長官又は税関長は、前項の規定により提出貨物を保管したときは、当該提出貨物の内容その他の国土交通省令・財務省令で定める事項を官報への掲載、インターネットの利用その他の適切な方法により公告するものとする。この場合において、当該提出貨物の所有者及びその所在が判明しているときは、その者に当該公告に係る事項を通知するものとする。
  3. 海上保安庁長官又は税関長は、第一項の規定により提出貨物を保管した場合において、次のいずれかに該当することとなったときは、当該提出貨物をその所有者又は提出者に返還するものとする。
    一 当該提出貨物が次に掲げる区分に応じそれぞれ次に定める物資に該当しなくなったとき。
    イ 第二条第一号イに係る提出貨物同号イに規定する政令で定める物資
    ロ 第二条第一号ロに係る提出貨物同号ロに規定する政令で定める物資
    二 当該提出貨物(第二条第一号イに係るものに限る。)について、その所有者又は提出者から、国土交通省令・財務省令で定める北朝鮮への輸出を防止するための措置を講じた上で、返還の申出があったとき。
  4. 第二項の規定は、前項第一号に規定する場合について準用する。この場合において、第二項中「当該提出貨物の内容」とあるのは、「当該提出貨物について次項第一号に該当することとなったこと」と読み替えるものとする。
  5. 海上保安庁長官又は税関長は、提出貨物が細菌兵器(生物兵器)及び毒素兵器の開発、生産及び貯蔵の禁止並びに廃棄に関する条約等の実施に関する法律(昭和五十七年法律第六十一号)第二条第三項に規定する生物兵器若しくは同条第四項に規定する毒素兵器又は化学兵器の禁止及び特定物質の規制等に関する法律(平成七年法律第六十五号)第二条第二項に規定する化学兵器に該当するときは、政令で定めるところにより、当該提出貨物を廃棄しなければならない。
  6. 海上保安庁長官又は税関長は、提出貨物が次のいずれかに該当するときは(第二号に該当する場合にあっては、第二項の規定による公告をした日から起算して三月を経過した日以後)、政令で定めるところにより、これを売却することができる。
    一 滅失し、又は損するおそれがあるとき。
    二 その保管に過大な費用又は手数を要するとき。
  7. 前項の規定による売却(以下この条において単に「売却」という。)による代金は、売却に要した費用に充てることができる。
  8. 売却をしたときは、当該提出貨物の保管、返還及び帰属については、売却による代金から売却に要した費用を控除した残額を当該提出貨物とみなす。
  9. 海上保安庁長官又は税関長は、提出貨物が第六項各号のいずれかに該当する場合において、売却につき買受人がないとき又は売却による代金の見込額が売却に要する費用の額に満たないと認められるときは、政令で定めるところにより、当該提出貨物について廃棄その他の処分をすることができる。
  10. 第三項第一号に該当することとなった場合において、第四項において準用する第二項の規定による公告をした日から起算して一年を経過してもなお提出貨物の返還を受けるべき者若しくはその者の所在が判明しないこと又はその者が提出貨物の引取りをしないことにより提出貨物を返還することができないときは、当該提出貨物の所有権は、国に帰属する。
  11. 前各項に規定するもののほか、提出貨物の保管及び売却、廃棄その他の処分に関して必要な事項は、国土交通省令・財務省令で定める。

(回航命令)

第六条
海上保安庁長官は、次の各号に掲げる措置をとろうとする場合において、それぞれ当該各号に定める事由があるときは、当該船舶の船長等に対し、当該船舶を、その指定する我が国の港その他の当該各号に掲げる措置を円滑かつ的確に実施することができると認められる場所に回航すべきことを命ずることができる。
一 第三条第一項又は第二項の規定による検査 天候、貨物の積付けの状況その他やむを得ない理由により、その現場において当該検査をすることができないこと。
二 第三条第二項の規定による検査 当該船舶の船長等が、同項第一号若しくは第三号の規定による求めに応ぜず、又は同項第二号若しくは第三号の承諾をしないこと。
三 第四条第一項の規定による北朝鮮特定貨物の提出の命令 天候、貨物の積付けの状況その他やむを得ない理由により、その現場において当該北朝鮮特定貨物の提出を受けることができないこと。

(日本船舶に対する回航命令)

第七条
  1. 公海にある日本船舶に対して外国の当局が第三条の規定による検査に相当する検査(第四条又は前条の規定による命令に相当する命令その他の当該検査に関し必要な措置を含む。)を行うことについて我が国が当該外国に対し同意をしなかったときは、外務大臣は、国土交通大臣に対し、速やかに、その旨を通知しなければならない。
  2. 国土交通大臣は、前項の規定による通知を受けたときは、当該日本船舶の船長等に対し、第三条第一項若しくは第三項の規定による検査又はこれに相当する外国の当局による検査を受けるために当該日本船舶をその指定する港に回航すべきことを命じなければならない。この場合において、国土交通大臣は、我が国の港を指定するときは海上保安庁長官又は当該港を管轄する税関長にその旨を通知するものとし、外国の港を指定するときは外務大臣に協議するものとする。

(旗国の同意等)

第八条
  1. 日本船舶以外の船舶で公海にあるものについての第三条第二項の規定による検査又は第四条若しくは第六条の規定による命令は、それぞれ、旗国(海洋法に関する国際連合条約第九十一条2に規定するその旗を掲げる権利を有する国をいう。)の同意がなければ、これをすることができない。ただし、同条約第九十一条1に規定する国籍を有しない船舶(同条約第九十二条2の規定により当該船舶とみなされるものを含む。)については、この限りでない。
  2. 前項に定めるもののほか、この法律の施行に当たっては、我が国が締結した条約その他の国際約束の誠実な履行を妨げることがないよう留意するとともに、確立された国際法規を遵守しなければならない。

(関係行政機関の協力)

第九条
関係行政機関は、第一条の目的を達成するため、相互に緊密に連絡し、及び協力するものとする。

(権限の委任)

第十条
この法律の規定により海上保安庁長官の権限に属する事項は、国土交通省令で定めるところにより、管区海上保安本部長に行わせることができる。

(行政手続法の適用除外)

第十一条
第四条又は第六条の規定による命令については、行政手続法(平成五年法律第八十八号)第三章の規定は、適用しない。

(政令への委任)

第十二条
この法律に定めるもののほか、この法律の施行に関し必要な事項は、政令で定める。

(罰則)

第十三条
第四条の規定による命令に従わなかった者は、二年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。

第十四条

次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
一 第三条第一項、第三項又は第四項の規定による立入り、検査、収去若しくは貨物の陸揚げ若しくは積替えを拒み、妨げ、若しくは忌避し、又は質問に対し答弁をせず、若しくは虚偽の陳述をした者
二 第六条又は第七条第二項の規定による命令に従わなかった者

(我が国の法令の適用)

第十五条
日本船舶以外の船舶で公海にあるものについての第三条第二項及び第四条から第七条までの規定による措置に関する日本国外における我が国の公務員の職務の執行及びこれを妨げる行為については、我が国の法令(罰則を含む。)を適用する。

附則 編集

(施行期日)

1 この法律は、公布の日から起算して三十日を経過した日から施行する。

(この法律の廃止)

2 この法律は、国際連合安全保障理事会決議第千八百七十四号(第一条に規定する要請に係る部分に限る。)がその効力を失ったときは、速やかに、廃止するものとする。

参考資料 編集


 

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