和漢朗詠集
和漢朗詠集 上巻
春
かぜをおひてひそかにひらくはうひのときをまたず、
はるをむかへてたちまちへんずまさにうろのおんをこひねがはんとす。
逐吹潛開不待芳菲之候。迎春乍変将希雨露之恩。
内宴進花賦 紀淑望
いけのこほりとうとうはかぜわたりてとけ、
まどのうめほくめんはゆきふうじてさむし。
池凍東頭風度解。窓梅北面雪封寒。
立春日書懐呈芸閣諸文友 菅篤茂
やなぎにきりよくなくしてえだまづうごき、
いけにはもんありてこほりことごとくひらく。
こんにちしらずたれかけいくわいせん、
しゆんぷうしゆんすゐいちじにきたらんとす、
柳無気力条先動。池有波文氷尽開。
今日不知誰計会。春風春水一時来。
府西池 白居易
よるはざんかうになんなんとしてかんけいつき、
はるはかうくわになりてげうろもゆ。
夜向残更寒磬尽。春生香火暁炉燃。
山寺立春 良岑春道
古今
としのうちにはるは来にけりひととせを
こぞとやいはんことしとやいはん
在原元方
古今
袖ひぢてむすびしみづのこほれるを
はるたつけふの
拾遺
はるたつといふばかりにやみよしのの
やまもかすみてけさはみゆらん
壬生忠岑
こほりでんちにきえてろすゐみじかく、
はるはしでうにいりてりうがんひくし、
氷消田地蘆錐短。春入枝条柳眼低。
寄楽天 元稹
まづくわふうをしてせうそくをはうぜしめ、
つゞいてていてうをしてらいゆをとかしむ、
先遣和風報消息。続教啼鳥説来由
春生 白居易
とうがんせいがんのやなぎ、ちそくおなじからず、
なんしほくしのうめかいらくすでにことなり。
東岸西岸之柳。遅速不同。南枝北枝之梅。開落已異。
春生逐地形序 慶滋保胤
しぢんのわかきわらびひとてをにぎり、
へきぎよくのさむきあしきりふくろをだつす。
紫塵嫩蕨人拳手。碧玉寒蘆錐脱嚢
和早春晴 小野篁
きはれてはかぜしんりうのかみをくしけづり、こほりきえてはなみきうたいのひげをあらふ。
気霽風梳新柳髪。氷消波洗旧苔鬚。
春暖 都良香
にはにきしよくをませばせいしやみどりなり、
はやしにようきをへんずればしゆくせつくれなゐなり。
庭増気色晴沙緑。林変容輝宿雪紅。
草樹晴迎春 紀長谷雄
古今
いはそそぐたるひのうへのさわらびの
もえいづるはるになりにけるかな
志貴皇子
古今
やまかぜにとくるこほりのひまごとに
うちいづるなみやはるのはつはな
源正澄
続後撰
みはたせばひらのたかねにゆききえて
わかなつむべくのはなりにけり
平兼盛
古今
見わたせばやなぎさくらをこきまぜて
都ぞ春のにしきなりける
素性法師
はなのもとにかへることをわするるはびけいによるなり、
たるのまへにゑひをすすむるはこれはるのかぜ、
花下忘帰因美景。樽前勧酔是春風。
白居易
やさうはうひたりこうきんのち、
いうしれうらんたりへきらのてん、
野草芳菲紅錦地。遊糸繚乱碧羅天。
劉禹錫
かしゆはいへ〳〵はなはところ〳〵にあり、
むなしくじやうやうのはるをくわんりやうすることなかれ。
歌酒家家花処処。莫空管領上陽春。
送令孤尚書趣東郡 白居易
さんたうまたやたう、ひこうきんのはたばりをさらす、
もんりうまたがんりう、かぜきくぢんのいとをわかぬ、
山桃復野桃。日曝紅錦之幅。
門柳復岸柳。風宛麹塵之糸。
逐処花皆好序 紀斉名
のにつきてのべしけりこうきんしう、
てんにあたつてはいうしきすへきらりよう、
着野展敷紅錦繍。当天遊織碧羅綾。
春生 小野篁
りんちうのはなのにしきはときにかいらくす、
てんぐわいのいうしはあるひはいうむ、
林中花錦時開落。天外遊糸或有無。
上寺聖聚楽 島田忠臣
しやうかのよるのつきいへ〳〵のおもひ、
ししゆのはるのかぜところ〳〵のなさけ、
笙歌夜月家家思。詩酒春風処処情。
悦者衆 菅原文時
新古今
ももしきのおほみや人はいとまあれや
さくらかざしてけふもくらしつ
山辺赤人
拾遺
はるはなほわれにてしりぬはなざかり
こころのどけきひとはあらじな
壬生忠岑
ともしびをそむけてはともにあはれむしんやのつき、
はなをふみてはおなじくをしむせうねんのはる、
背燭共憐深夜月。踏花同惜少年春。
春夜与盧四周諒花陽観同居 白居易
古今
はるのよのやみはあやなしうめのはな
色こそみえねかやはかくるる
凡河内躬恒
しようじゆによりてもつてこしをなづるは、
ふうさうのをかしがたきをならひ、
さいかうをくわしてくちにすするは、
きみのよくととのはんことをきす、
倚松樹以摩腰。習風霜之難犯也。
和菜羹而啜口。期気味之克調也。
雲林院行幸 菅原道真
しようこんによりてこしをなづれば、
せんねんのみどりてにみてり、
ばいくわををりてかうべにかざせば、
にげつのゆきころもにおつ、
倚松根摩腰。千年之翠満手。
折梅花挿頭。二月之雪落衣。
子曰序 橘在列
新古今
ねのひしてしめつる野べのひめこまつ
ひかでやちよのかげをまたまし
藤原清正
拾遺
ねのひする野辺にこまつのなかりせば
ちよのためしになにをひかまし
壬生忠岑
拾遺
千とせまでかぎれるまつもけふよりは
君にひかれてよろづ世やへん
大中臣能宣
やちうにさいをえらぶは、
せじこれをけいしんにおす、
ろかにあつものをくわするは、
ぞくじんこれをていしにしよくす、
野中芼菜。世事推之蕙心。炉下和羮。俗人属之荑指。
催粧序 菅原道真
拾遺
あすからはわかなつませんかたをかの
あしたのはらはけふぞやくめる
柿本人麿
新古今
あすからはわかなつまんとしめし野に
きのふもけふもゆきはふりつつ
山部赤人
新古今
ゆきてみぬ人もしのべとはるののの
かたみにつめるわかななりけり
紀貫之
はるきてはあまねくこれたうくわのみづなり、
せんげんをわきまへずいづれのところにかたづねん、
春来遍是桃花水。不弁仙源何処尋。
桃源行 王維
はるのぼげつ、つきのさんてう、てんもはなにゑへるは、たうりさかりなればなり、わがきみいちじつのたく、ばんきのあまり、きよくすゐはるかなりといへども、ゐぢんたえたりといへども、
はじをかきてちせいをしり、ぎぶんをおもひてもつてふうりうをもてあそぶ、けだしこころざしのゆくところ、つゝしみてせうじよをたてまつる、
春之暮月。月之三朝。天酔于花。桃李盛也。
我后一日之沢。万機之余。曲水雖遥。遺塵雖絶。
書巴字而知地勢。思魏文以翫風流。
蓋志之所之。謹上小序。
花時天似酔序 菅原道真
えんかゑんきんまさにどうこなるべし、
たうりのせんしんけんぱいににたり、
煙霞遠近応同戸。桃李浅深似勧盃。
同題詩 菅原道真
みづははじをなすしよさんのひ、
みなもとしうねんよりおこりてのちにいくしもぞ、
水成巴字初三日。源起周年後幾霜。
縈流送羽觴 菅原篤茂
いしにさはりておそくきたればこゝろひそかにまち、
ながれにひかれてとくすぐればてまづさへぎる、
礙石遅来心窃待。牽流遄過手先遮。
同 菅原雅規
桃
よるのあめひそかにうるほして、そはのまなこあらたにこびたり、
あかつきのかぜゆるくふきて、ふげんのくちびるまづゑめり、
夜雨偸湿。曾波之眼新嬌。暁風緩吹。不言之唇先咲。
桃花詩序 紀納言
拾遺
みちとせになるといふもものことしより
はなさくはるにあふぞうれしき
凡河内躬恒
みづをはらふりうくわはせんまんてん、
ろうをへだつるあうぜつはりやうさんせい、
払水柳花千万点。隔楼鴬舌両三声。
過元魏志襄陽楼口占 元稹
つばさをたるるさおうはうしほのおつるあかつき、
いとをみだすやばはくさのふかきはる、
低翅沙鴎潮落暁。乱糸野馬草深春。
晩春遊松山館 菅原道真
ひとさらにわかきときなしすべからくをしむべし、
としつねにはるならずさけをむなしくすることなかれ、
人無更少時須惜。年不常春酒莫空。
りうはくもしこんにちのこうなることをしらば、
まさにこのところといふべしいづれとはいはじ、
まさに
劉白若知今日好。応言此処不言何。
家集
いたづらにすぐる月日はおほかれど
はなみてくらす春ぞすくなき
藤原興風
はるをとゞむれどもはるとゞまらず、はるかへりてひとせきばくたり、
かぜをいとへどもかぜさだまらず、かぜたちてはなせうさくたり
留春春不駐。春帰人寂寞。厭風風不定。風起花蕭索。
落花古調詩 白居易
ちくゐんにきみかんにしてえいじつをせうし、
くわていにわれゑひてざんしゆんをおくる、
竹院君閑銷永日。花亭我酔送残春。
酬皇甫賓客 同
ちうちやうすはるかへりてとゞまることをえず、
しとうのはなのもとにやうやくくわうこんたり、
惆悵春帰留不得。紫藤花下漸黄昏。
題慈恩寺 同
はるをおくるにしうしやをうごかすことをもちゐず、
たゞざんあうとらくくわとにわかる、
たゞ
送春不用動舟車。唯別残鴬与落花。
同
もしせうくわうをしてわがこゝろをしらしめば、
こんせうのりよしゆくはしかにあらん、
若使韶光知我意。今宵旅宿在詩家。
送春 菅原道真
はるをとゞむるにくわんじやうのかためをもちゐず、
はなはおちてかぜにしたがひとりはくもにいる、
留春不用関城固。花落随風鳥入雲。
三月尽 尊敬
古今
けふとのみはるをおもはぬときだにも
たつことやすき花のかげかは
凡河内躬恒
拾遺
はなもみなちりぬるやどはゆくはるの
ふるさととこそなりぬべらなれ
紀貫之
後撰
またもこんときぞとおもへどたのまれぬ
我身にしあればをしきはるかな
紀貫之
こんねんのうるふははるさんげつにあり、
あまつさへきんりよういちげつのはなをみる、
今年閏在春三月。剰見金陵一月花。
送准南李中逐行軍 陸侍郎
たににかへるかあうはさらにこうんのみちにとうりうし、
はやしをじするぶてふはかへつていちげつのはなにへんぽんたり、
帰谿歌鴬更逗留於孤雲之路。
辞林舞蝶還翩翻於一月之花。
今年又有春序 源順
はなはねにかへらんことをくゆれどもくゆるにえきなし、
とりはたににいらんことをきすれどもさだめてきをのべん、
花悔帰根無益悔。鳥期入谷定延期。
清原滋藤
古今
さくらばなはるくははれるとしだにも
人のこころにあかれやはする
伊勢
にはとりすでになきてちゆうしんあしたをまつ、
うぐひすいまだいでずゐけんたににあり、
鶏既鳴兮忠臣待旦。鶯未出兮遺賢在谷。
鳳為王賦 賈島
たがいへのへきじゆにかうぐひすなきてらまくなほたれ、
いくところのくわどうにゆめさめてしゆれんいまだまかず
誰家碧樹鶯啼而羅幕猶垂。幾処華堂夢覚而珠簾未巻。
春暁鶯賦 謝観或張読
きりにむせぶさんあうはなくことなほまれなり、
いさごをうがつろじゆんははわづかにわかてり、
咽霧山鴬啼尚少。穿沙蘆笋葉纔分。
早春尋李校書 元稹
だいのほとりにさけありてうぐひすきやくをよび、
みづのおもてちりなくしてかぜいけをあらふ、
台頭有酒鶯呼客。水面無塵風洗池。
和思黯題南荘
うぐひすのこゑにいういんせられてはなのもとにきたり、
くさのいろにこうりうせられてはみづのほとりにざす、
鶯声誘引来花下。草色拘留座水辺。
どうるゐをあひもとむるにかんずるは、
りこうきよがんのはるのさへづりにおうずゐあり、
いきをくわいしてつひにこんじて、
りゆうぎんぎよやくのあかつきのなきにともなふとあり、
感同類於相求。離鴻去雁之応春囀。
会異気而終混。龍吟魚躍之伴暁啼。
鳥声韻管絃序 菅原文時
えんきがそでしばらくをさまりて、れうらんたるをきうはくにそねむ、
しうらうがかんざししきりにうごきて、けんくわんたるをしんくわにかへりみる、
燕姫之袖暫収。猜撩乱於旧柏。
周郎之簪頻動。顧間関於新花。
同題 同
しんろはいましゆくせつをうがつ、
きうさうはのちのためにはるのくもにいらん、
新路如今穿宿雪。旧宿為後属春雲。
鶯出谷 菅原道真
せいろうにつきおちてはなのあひだのきよく、
ちゆうでんにともしびのこりてたけのうちのおと、
西楼月落花間曲。中殿燈残竹裏音。
宮鶯囀暁光 菅原文時
拾遺
あらたまのとしたちかへるあしたより
またるるものはうぐひすのこゑ
素性法師
栄花物語
あさみどりはるたつそらにうぐひすの
はつこゑまたぬ人はあらじな
麗景殿女御
拾遺
うぐひすのこゑなかりせばゆききえぬ
山ざといかで春をしらまし
中務
かすみのひかりはあけてのちひよりもあかく、
くさのいろははれきたりてわかくしてけむりににたり、
霞光曙後殷於火。草色晴来嫩似煙。
早春晴寄蘇洲寄夢得 白居易
いさごをきるくさはたゞさんぶんばかり、
きにまたがるかすみはわづかにはんだんあまり、
鑚沙草只三分許。跨樹霞纔半段余。
春浅帯軽寒 菅原道真
万葉
きのふこそとしはくれしかはるがすみ
かすがのやまにはやたちにけり
柿本人麿
古今
はるがすみたてるやいづこみよしのの
よしのの山にゆきはふりつつ
山部赤人
家集
あさひさすみねのしらゆきむらぎえて
はるのかすみはたなびきにけり
平兼盛
あるひははなのもとにたれて、ひそかにぼくしがかなしみをます、
ときにびんのあひだにまひ、あんにはんらうのおもひをうごかす、
或垂花下。潜増墨子之悲。時舞鬢間。暗動潘郎之思。
密雨散加糸序 大江以言或都在中
ちやうらくのかねのこゑははなのそとにつき、
りようちのやなぎのいろはあめのなかにふかし、
長楽鐘声花外尽。龍池柳色雨中深。
闕舌贈閻舎人 李嶠
やしなひえてはおのづからはなのふぼたり、
あらひきてはむしろくすりのくんしんをわきまへんや、
養得自為花父母。洗来寧弁薬君臣。
仙家春雨 紀長谷雄
はなのあらたにひらくるひしよやううるほへり、
とりおいてかへるときはくぼくもれり、
花新開日初陽潤。鳥老帰時薄暮陰。
春色雨中深 菅原文時
しやきやくはだんぷうのまづあふぐところ、
あんせいはてうじつのいまだはれざるほど、
斜脚暖風先扇処。暗声朝日未晴程。
微雨自東来 慶滋保胤
拾遺
さくらがりあめはふりきぬおなじくは
ぬるともはなのかげにかくれん
読人不知
新勅撰
あをやぎの枝にかかれるはるさめは
いともてぬけるたまかとぞみる
伊勢
はくへんのらくばいはたにのみづにうかび、
くわうせうのしんりうはしろのかきよりいでたり、
白片落梅浮澗水。黄梢新柳出城墻。
春至香山寺 白居易
うめのはなゆきをおびてきんじやうにとび、
やなぎのいろはけむりにくわしてしゆちうにいる、
梅花帯雪飛琴上。柳色和煙入酒中。
早春初晴野宴 章孝標
やうやくかほるらふせつあらたにふうずるうち、
ひそかにほころぶはるのかぜのいまだあふがざるさき、
漸薫臘雪新封裏。偸綻春風未扇先。
寒梅結早花 村上帝御製
せいしくりいだすたうもんのやなぎ
はくぎよくよそほひなすゆれいのうむめ、
青糸繰出陶門柳。白玉装成庾嶺梅。
尋春花 大江朝綱或菅原文時
ごれいさう〳〵としてくもわうらいす、
たゞあはれむたいゆまんちうのむめ、
たゞ
五嶺蒼蒼雲往来。但憐大
同題 菅原文時
たれかいふはるのいろひがしよりいたるとは、
つゆあたたかにしてなんしはなはじめてひらく、
誰言春色従東到。露暖南枝花始開。
同 同
けむりはりうしよくをそへてみるになほあさし、
とりはばいくわをふみておつることすでにしきりなり、
煙添柳色看猶浅。鳥踏梅花落以頻。
同 同
拾遺
いにしとしねこじてうゑしわがやどの
わかきのうめははなさきにけり
安倍広庭
万葉
わがせこに見せんとおもひしうめの花
それともみえずゆきのふれれば
山部赤人
拾遺
香をとめてたれをらざらんうめの花
あやなしかすみたちなかくしそ
凡河内躬恒
うめはけいぜつをふくみてこうきをかねたり、
えはけいくわをもてあそびてへきぶんをおびたり、
梅含鶏舌兼紅気。江弄瓊花帯碧文。
早春尋李校書 元稹
せんこうせんけんたり、せんはうのゆきいろをはづ、
ぢようきやうふんいくたり、ぎろのけむりかをりをゆづる、
浅紅鮮娟。仙方之雪愧色。濃香芳郁。妓炉之烟譲薫。
繞簷梅正開詩 橘正通
いろありてわかちやすしざんせつのそこ、
こゝろなくしてわきまへがたしせきやうのうち、
有色易分残雪底。無情難弁夕陽中。
賦庭前紅梅 兼明親王
せんきうにかぜなりてむなしくゆきをひる、
やろにひあたたかにしていまだけむりをあげず、
仙臼風生空簸雪。野鑪火暖未揚煙。
紅白梅花 紀斉名
古今
君ならでたれにかみせんうめのはな
いろをもかをもしる人ぞしる
紀友則
新古今
色かをばおもひもいれずうめのはな
つねならぬ世によそへてぞみる
花山院
りんあうはいづれのところにかことのことぢをぎんじ、
しやうりうはたれがいへにかきくぢんをさらす、
林鶯何処吟箏柱。墻柳誰家曝麹塵。
天宮閣早春 白居易
やうやくたのきばのきやくをはらはんとほつす、
いまだおほくろうにのぼるひとをさへぎりえず、
いまだ
漸欲払他騎馬客。未多遮得上楼人。
喜小楼西新柳抽条 白居易
ふぢよべうのはなはべによりもくれなゐなり、
せうくんそんのやなぎはまゆよりもみどりなり、
巫女廟花紅似粉。昭君村柳翠於眉。
題峡中石上 同白
まことにしりぬおいさりてふぜいのすくなきことを、
これをみいかでかいつくのしなからん、
誠知老去風情少。見此争無一句詩。
与前一首絶句他 同
たいゆれいのうめははやくおつ、
たれかふんさうをとはん、
きやうろざんのあんずはいまだひらけず、
あにこうえんをおはんや、
あに
大庾嶺之梅早落。誰問粉粧。匡廬山之杏未開。豈趁紅艶。
内宴序停盃看柳色 紀長谷雄或大江音人
くもはこうきようをさゝぐふさうのひ、
はるはくわうしゆをたわますどんりうのかぜ、
紅鏡扶桑日。春嫋黄珠嫩柳風。
早春作 田達音
けいたくにはれをむかへてていげつくらく、
りくちにひをおひてすゐえんふかし、
嵆宅迎晴庭月暗。陸池逐日水煙深。
柳影繁初合詩 具平親王
たんしんにつきうかびてえだをまじふるかつら、
がんこうにかぜきたりてはにこんずるうきくさ、
潭心月泛交枝桂。岸口風来混葉蘋。
垂柳払緑水詩 菅原文時
古今
あをやぎのいとよりかくるはるしもぞ
みだれて花のほころびにける
紀貫之
新千載
あをやぎのまゆにこもれるいとなれば
春のくるにぞいろまさりける
藤原兼輔
はなはじやうゑんにあきらかにして、けいけんきうはくのちりにはす、
さるはくうざんにさけびて、しやげつせんがんのみちをみがく、
花明上苑。軽軒馳九陌之塵。猿叫空山。斜月瑩千巌之路。
閑賦 張読
いけのいろはよう〳〵ようとしてあゐみづをそむ、
はなのひかりはえん〳〵としてひはるをやく、
池色溶溶藍染水。花光焔焔火焼春。
早春招張賓客 白居易
はるかにじんかをみてはなあればすなはちいる、
きせんとしんそとをろん)ぜず、
遥見人家花便入。不論貴賤与親疎。
尋春題諸家園林 同
ひにみがきかぜにみがく、かうていせんくわばんくわのたま、
えだをそめなみをそむ、へうりいちじゆさいじゆのこう、
瑩日瑩風。高低千顆万顆之玉。
染枝染浪。表裏一入再入之紅。
花光浮水上序 菅原文時
たれかいひしみづこころなしと、ぢようえんのぞみてなみいろをへんず、
たれかいひしはなのいはずと、けいやうげきしてかげくちびるをうごかす、
誰謂水無心。濃艶臨兮波変色。
誰謂花不語。軽漾激兮影動唇。
同上 同
これをみづといはんとすれば、すなはちかんぢよべにをほどこすかゞみせいえいたり、これをはなといはんとほつすれば、またしよくじんあやをあらふにしきさんらんたり、
これを
これを
欲謂之水。則漢女施粉之鏡清瑩。
欲謂之花。亦蜀人濯文之錦粲爛。
同題序 源順
おることいづれのいとよりぞたゞゆふべのあめ、
たつことはさだまれるためしなしはるのかぜにまかす、
織自何糸唯暮雨。裁無定様任春風。
花開如散錦 菅原文時
はなとびてにしきのごとしいくぢようしやうぞ、
おるものははるのかぜいまだはこにたゝまず、
花飛如錦幾濃粧。織者春風未畳箱。
同題 源英明
はじめをしるはるのかぜのきじやうにたくみなることを、
たゞいろをおるのみにあらずふんはうをもおる、
たゞ
始識春風機上巧。非唯織色織芬芳。
同上 同
まなこはしよくぐんにまづしたちのこすにしき、
みゝはしんじやうにうみたりしらべつくすこと、
眼貧蜀郡裁残錦。耳倦秦城調尽箏。
花少鶯稀 源相規
古今
世の中にたえてさくらのなかりせば
はるのこゝろはのどけからまし
在原業平
古今
わがやどのはな見がてらにくる人は
ちりなん後ぞこひしかるべき
凡河内躬恒
古今
みてのみや人にかたらんやまざくら
手ごとにをりていへづとにせん
素性法師
らくくわものいはずむなしくきをじす、
りうすゐこゝろなくしておのづからいけにいる、
落花不語空辞樹。流水無心自入池。
過元家履信宅 白居易
あしたにはらくくわをふみてあひともなひていで、
ゆふべにはひてうにしたがひていちじにかへる、
朝踏落花相伴出。暮随飛鳥一時帰。
春水頻与李二賓客同廊外同遊因贈長甸 同
はるのはなはめん〳〵にかんちやうしむしろにらんにふす、
くれのうぐひすはせい〳〵にかうしようのざによさんす、
春花面面闌入酣暢之筵。晩鶯声声予参講誦之座。
春日侍前鎮西部督大王読史記序 大江朝綱
らくくわらうぜきたりかぜくるひてのち、
ていてうりようしようたりあめのうつとき、
落花狼籍風狂後。啼鳥龍鐘雨打時。
惜残春 同
かくをはなるるほうのかけりはおばしまによりてまひ、
ろうをくだれるあいのそではきざはしをかへりみてひるがへる、
離閤鳳翔憑檻舞。下楼娃袖顧階翻。
落花還繞樹詩 菅原文時
拾遺
さくらちるこのしたかぜはさむからで
そらにしられぬ雪ぞふりける
紀貫之
拾遺
とのもりのとものみやつここころあらば
このはるばかり朝きよめすな
源公忠
ばんずゐなほひらくこうてきちよく、
あきのはなぶさはじめてむすぶはくふよう、
晩蘂尚開紅躑躅。秋房初結白芙蓉。
題元十八渓居 白居易
やいうのひとはたづねきたりてとらんとほつす、
かんしよくのいへにはまさにをりをえておどろくべし、
夜遊人欲尋来把。寒食家応折得驚。
山石榴艶似火 源順
古今
おもひいづるときはのやまのいはつつじ
いはねばこそあれこひしきものを
平貞文
しわうをてんちやくしててんにこゝろあり、
くわんどうあやまりてぼしゆんのかぜにほころぶ、
点着雌黄天有意。款冬誤綻暮春風。
藤原実頼
しよさうにまきありてあひしうしふす、
せうしにぶんなくもいまだほうかうせず、
書窓有巻相収拾。詔紙無文未奉行。
題花黄 慶滋保胤
新古今
かはづなく神なびがはに影みえて
いまやさくらん山ぶきの花
厚見王
拾遺
わがやどのやへ山吹はひとへだに
ちりのこらなむはるのかたみに
平兼盛
じおんにちやうばうすさんげつのつくることを、
しとうのはなおちてとりくわん〳〵たり、
悵望慈恩三月尽。紫藤花落鳥関関
酬元十八三月三十日慈恩寺見寄 白居易
しとうのつゆのそこざんくわのいろ、
すゐちくのけむりのなかぼてうのこゑ、
紫藤露底残花色。翠竹煙中暮鳥声。
四月有余春詩 源相規
しじようはひとへにあけのころものいろをうばふ、
まさにこれはなのこゝろけんだいをわするべし、
まさに
紫茸偏奪朱衣色、
応是花心忘憲台、
於御史中丞亭翫藤 源順
拾遺
たごのうらそこさへにほふふぢなみを
かざしてゆかんみぬ人のため
柿本人麿
続古今
ときはなるまつのなたてにあやなくも
かかれるふぢのさきてちるかな
紀貫之
夏
かべにそむけるともしびはよべをふるほのほをのこし、
はこをひらけるころもはとしをへだつるにほひをおびたり、
背壁残燈経宿焔。開箱衣帯隔年香。
早夏暁興 白居易
せいい(すゞしのきぬ)はかじんをまちてちやくせんとほつす、
しゆくぢやうはまさにいふらうをまねきてたのしむべし、
生衣欲待家人着。宿醸当招邑老酣。
讚州作 菅原道真
拾遺
はなの色にそめしたもとのをしければ
ころもかへうきけふにもあるかな
源重之
もたひのほとりのちくえふははるをへてじゆくし、
はしのもとのしやうびはなつにいりてひらく、
甕頭竹葉経春熟。階底薔薇入夏開。
薔薇正開春酒初熟 白居易
こけせきめんにしやうじてけいいみじかし、
はちすちしんよりいでてせうがいまばらなり、
苔生石面軽衣短。荷出池心小蓋疎。
首夏作 物部安興
拾遺
わがやどのかきねや春をへだつらん
夏きにけりとみゆるうのはな
源順
かぜこぼくふけばはれのそらのあめ、
つきのへいさをてらせばなつのよのしも、
風吹枯木晴天雨。月照平沙夏夜霜。
江楼夕望 白居易
かぜたけになるよまどのあひだにふせり、
つきまつをてらすときにうてなのほとりにありく、
風生竹夜窓間臥。月照松時台上行。
早夏独居 白居易
くうやまどはしづかなりほたるわたりてのち、
しんかうのきはしろしつきのあきらかなるはじめ、
空夜窓閑蛍度後。深更軒白月明初。
夜陰帰房 紀長谷雄
なつのよをねぬにあけぬといひおきし
人はものをやおもはざりけん
柿本人麿
家集
ほととぎすなくやさつきのみじかよも
ひとりしぬればあかしかねつも
柿本人麿
古今
なつのよはふすかとすればほととぎす
なくひとこゑにあくるしののめ
ときありてとにあたりてみをあやぶめてたてり、
こゝろなくしてこゑんにあしにまかせてゆかん、
有時当戸危身立。無意故園任脚行。
懸艾人 菅原道真
家集
わかこまとけふにあひくるあやめぐさ
おひおくるるやまくるなるらん
大中臣頼基
拾遺
きのふまでよそにおもひしあやめぐさ
けふわがやどのつまとみるかな
大中臣能宣
せいたいのちのうへにざんうをけし、
りよくじゆのかげのまへにばんりやうをおふ、
青苔地上銷残雨。緑樹陰前逐晩涼。
地上逐涼 白居易
ろてんせいゑいとしてよをむかへてなめらかなり、
ふうきんせうさいとしてあきにさきだちてすずし、
露簟清瑩迎夜滑。風襟蕭灑先秋涼。
地上夜境 白居易
これぜんばうにねつのいたることなきあらず、
たゞよくこゝろしづかなればすなはちみもすゞし、
たゞ
不是禅房無熱到。但能心静即身涼。
苦熱題桓寂禅師房 白居易
はんせふよがだんせつのあふぎ、がんふうにかはりてながくわすれたり、
えんのせうわうのせうりやうのたまも、さげつにあたりておのづからえたり、
班婕妤団雪之扇。代岸風兮長忘。燕昭王招涼之珠。当沙月兮自得。
避暑対水石序 大江匡衡
ふしてはしんとりんすゐのしやうをみ、
ゆきてはこしふなふりやうのしをぎんず、
臥見新図臨水障。行吟古集納涼詩。
題納涼之画 菅原道真
いけひやゝかにしてみづにさんふくのなつなく、
まつたかくしてかぜにいつせいのあきあり、
池冷水無三伏夏。松高風有一声秋。
夏日閑避暑 源英明
古今
すずしやと草むらことにたちよれば
あつさぞまさるとこなつのはな
紀貫之
新千載
したくぐる水にあきこそかよふらし
むすぶいづみの手さへすずしき
中務
拾遺
まつかげのいは井の水をむすびあげて
なつなきとしとおもひけるかな
恵慶法師
ちくていかげあひてひとへになつによろし、
すゐかんかぜすゞしくしてあきをまたず、
竹亭陰合偏宜夏。水檻風涼不待秋。
夏日遊永安水亭 白居易
新古今
夏はつるあふぎとあきのしらつゆと
いづれかさきにをかんとすらん
拾遺
ねぎごともきかずあらぶる神だにも
けふはなごしのはらへなりけり
斎宮
ろきつみをたれてさんうおもく、
へいりよはそよぎてすゐふうすゞし、
盧橘子低山雨重。栟櫚葉戦水風涼。
西湖晩帰望孤山寺 白居易
えだにはきんれいをつなぐしゆんうののち、
はなはしゞやにくんずがいふうのほど、
枝繋金鈴春雨後。花薫紫麝凱風程。
花橘詩 後中書王
古今
さつきまつはなたちばなのかをかげば
むかしの人の袖のかぞする
ほととぎすはなたちばなにかをとめて
なくはむかしの人やこひしき
貫之
ふうかのらうえふはせうでうとしてみどりなり、
すゐれうのざんくわはせきばくとしてくれなゐなり、
風荷老葉蕭条緑。水蓼残花寂寞紅。
県西郊秋寄贈馬造階下 白居易
はのびてかげはひるがへるみぎりにあたるつき、
はなひらきてかはさんじてすだれにいるかぜ、
階下蓮 白居易
けむりすゐせんをひらくせいふうのあかつき、
みづこういをうかぶはくろのあき、
煙開翠扇清風暁。水泛紅衣白露秋。
題雲陽駅亭蓮 許渾
がんちくえだたれたりまさにとりのやどとなるべく、
たんかはうごくこれうをのあそぶならん、
岸竹枝低応鳥宿。潭荷葉動是魚遊。
池亭晩望 紀在昌
なにによりてかさらにござんのくまをもとめん、
すなはちこれわがきみのざかのはななればなり、
縁何更覓呉山曲。便是吾君座下花。
亭子院法皇御賀呉山千葉蓮華屏風詩 醍醐帝御製
きやうにはだいもくたりほとけにはまなこたり、
しりぬなんぢがはなのなかにぜんこんをうゑたることを、
経為題目仏為眼。知汝花中植善根。
石山寺池蓮 源為憲
古今
はちす葉のにごりにしまぬこころもて
なにかは露をたまとあざむく
いつせいのさんてうはしようんのほか、
ばんてんのすゐけいはしうさうのうち、
一声山鳥曙雲外。万点水蛍秋草中。
題発幽居将尋同志 許渾
新後拾遺
さつきやみおぼつかなきをほととぎす
なくなるこゑのいとどはるけき
明日香皇子
拾遺
ゆきやらで山路くらしつほととぎす
いまひとこゑのきかまほしさに
源公忠
拾遺
さよふけてねざめざりせばほととぎす
人づてにこそきくべかりけれ
壬生忠見
けいくわみだれとびてあきすでにちかし、
しんせいはやくかくれてよるはじめてながし、
蛍火乱飛秋已近。辰星早没夜初長。
夜座 元稹
けんかみづくらくしてほたるよをしる、
やうりうかぜたかくしてがんあきをおくる、
蒹葭水暗蛍知夜。楊柳風高鴈送秋。
常州留与楊給事 許渾
めい〳〵としてなほあり、たれかつきのひかりををくぢやうにおはんや、
かう〳〵としてきえず、あにせつぺんをしやうとうにつまんや、
明明仍在。誰追月光於屋上。
皓皓不消。豈積雪片於床頭。
秋蛍照帙賦 紀長谷雄
さんきやうのまきのうちにはくきをすぐるかとうたがふ、
かいふのへんのなかにはながれにやどるににたり、
山経巻裏疑過岫。海賦篇中似宿流。
同題 橘直幹
新勅撰
草ふかきあれたるやどのともし火の
風にきえぬはほたるなりけり
山部赤人
後撰
つつめどもかくれぬものはなつむしの
身よりあまれるおもひなりけり
ちゝたるはるのひに、たまのいしだゝみあたゝかにしてをんせんみてり、
でう〳〵たるあきのかぜに、やまのせみなきてきゆうじゆくれなゐなり、
遅遅兮春日。玉甃暖兮温泉溢。
嫋嫋兮秋風。山蝉鳴兮宮樹紅。
驪山宮賦 白居易
せんほうのとりのみちはばいうをふくみ、
ごげつのせみのこゑはばくしうをおくる、
千峯鳥路含梅雨。五月蝉声送麦秋。
発青滋店至長安西渡江 李嘉祐
とりはりよくぶにおりてしんひんしづかなり、
せみはくわうえふになきてかんきゆうあきなり、
鳥下緑蕪秦苑静。蝉鳴黄葉漢宮秋。
題咸陽城東棲 許渾
こんねんはつねよりもことなりてはらはたまづたつ、
これせみのかなしきのみにあらずきやくのこゝろかなしきなり、
これ
今年異例腸先断。不是蝉悲客意悲。
聞新蝉 菅原道真
としさりとしきたりてきけどもへんぜず、
いふことなかれあきののちにつひにくうとならんと、
歳去歳来聴不変。莫言秋後遂為空。
吟初蝉 紀納言
なつ山のみねのこずゑのたかければ
空にぞせみのこゑはきこゆる
後撰
これをみよ人もとがめぬこひすとて
ねをなくむしのなれるすがたを
源重光
せいかにきえざるゆき、としををふるまでつくることなきかぜ、
あきをひきてしゆりにしやうず、つきをざうしてくわいちゆうにいる、
盛夏不消雪。終年無尽風。引秋生手裏。蔵月入懐中。
白羽扇 白居易
きせずやろうのはじめてわかるゝのち、
たゞもてあそぶしうふういまだいたらざるさき、
不期夜漏初分後。唯翫秋風未到前。
軽扇動明月 菅原文時
拾遺
あまの川川瀬すずしきたなばたに
あふぎのかぜをなほやかさまし
中務
拾遺
天の川あふぎのかぜにきりはれて
そらすみわたるかささぎのはし
清原元輔
家集
君がてにまかするあきのかぜなれば
なびかぬくさもあらじとぞおもふ
中務
秋
せうさつたるりやうふうとすゐびんと、
たれかけいくわいをしていちじにあきならしむる。
蕭颯涼風与悴鬢。誰教計会一時秋。
立秋日登楽遊園 白居易
にはとりやうやくさんずるあひだあきのいろすくなし、
こひのつねにはしるところばんのこゑかすかなり、
鶏漸散間秋色少。鯉常趨処晩声微。
於菅師匠旧亭賦一葉落庭時詩 慶滋保胤
古今
あききぬとめにはさやかにみえねども
かぜのおとにぞおどろかれぬる
藤原敏行
後撰
うちつけにものぞかなしきこの葉ちる
あきのはじめをけふとおもへば
大中臣能宣
たゞしよのさんぷくにしたがひてさることをよろこぶ、
あきのにまうをおくりきたることをしらず
但喜暑随三伏去。不知秋送二毛来。
早秋答蘇六 白居易
くわいくわあめにうるほふしんしうのち、
とうえふかぜすゞしよるならんとほつするてん、
槐花雨潤新秋地。桐葉風涼欲夜天。
秘省後聴 白居易
えんけいあまつさへのこりてころもなほおもし、
ばんりやうひそかにいたりてたかむしろまづしる、
炎景剰残衣尚重。晩涼潜到簟先知。
立秋後作 紀長谷雄
万葉
あきたちていくかもあらねどこのねぬる
あさけのかぜはたもとすずしも
安貴王
おもひえたりせうねんのながくきつかうすることを、
ちくかんのとうしやうにげんしおほし、
憶得少年長乞巧。竹竿頭上願糸多。
七夕 白居易
にせいたまたまあひて、いまだべつしよのいいたるうらみをのべず、
ごやまさにあけなんとして、しきりにりやうふうのさつさつたるこゑにおどろく
二星適逢。未叙別緒依依之恨。
五夜将明。頻驚涼風颯颯之声。
代牛女惜暁更詩序 小野美材
つゆはまさにわかれのなみだなるべしたまむなしくおつ、
くもはこれざんしやうならんもとゞりいまだならず、
露応別涙珠空落。雲是残粧鬟未成。
代牛女惜暁更 菅原道真
かぜはさくやよりこゑいよいようらむ、
つゆはみやうてうにおよびてなみだきんぜず、
風従昨夜声弥怨。露及明朝涙不禁。
代牛女惜暁 大江綱朝
きよいなみにひきてかすみうるほふべし、
かうしよくながれにひたりてつききえなんとほつす、
去衣曳浪霞応湿。行燭浸流月欲消。
七夕含媚渡河橋詩 菅原文時
ことばはびはにたくしかつやるといへども、
こゝろはへんげつをきしなかだちとせんとほつす、
詞託微波雖且遣。心期片月欲為媒。
代牛女侍夜 菅原輔昭
後撰
あまの川とほきわたりにあらねども
きみがふなではとしにこそまて
柿本人丸
拾遺
ひととせにひとよとおもへどたなばたの
あひみるあきのかぎりなきかな
紀貫之
拾遺
としごとにあふとはすれどたなばたの
ぬるよのかずぞすくなかりける
凡河内躬恒
りんかんにさけをあたゝめてこうえふをたき、
せきじやうにしをだいしてりよくたいをはらふ、
林間煖酒焼紅葉。石上題詩掃緑苔。
題仙遊寺 白居易
そしべうばうとしてうんすいひややかなり、
しやうせいせいぜいとしてくわんげんあきなり、
楚思眇茫雲水冷。商声清脆管絃秋。
於黄鶴楼宴罷望 白居易
おほむねしゞこゝろすべてくるし、
なかにつきてはらわたたゆるはこれあきのそら
大抵四時心惣苦。就中腸断是秋天。
暮立 白居易
もののいろはおのづからかくのこゝろをいたましむるにたへたり、
むべなりうれへのじをもつてあきのこゝろとつくれること
むべなり
物色自堪傷客意。宜将愁字作秋心。
客舎秋情 小野篁
もとよりおもひをかんずることはあきのそらにあり、
おほくたうじのせつぶつにひかれたり
もとより
由来感思在秋天。多被当時節物牽。
秋日感懐 島田忠臣
だいゝちこゝろをいたむることはいづれのところかもつともなる、
ちくふうはをならすつきのあきらかなるまへ、
第一傷心何処最。竹風鳴葉月明前。
同 島田忠臣
しよくちややうやくふくわのあぢはひをわすれ、
それんはあらたにゆきをうつこゑをつたふ
蜀茶漸忘浮花味。楚練新伝擣雪声。
暑往寒来詩 大江音人或源相規
新拾遺
うづらなくいはれののべのあき萩を
おもふ人ともみつるけふかな
丹後国人
をぎのうはかぜはぎのした露
藤原義孝
あひおもひてゆふべにしようだいにのぼりてたてば、
きり〳〵すのおもひせみのこゑみゝにみてるあきなり
相思夕上松台立。蛬思蝉声満耳秋。
題李十一東亭 白居易
やまをのぞめばゆうげつなほかげをかくせり、
みぎりにきけばひせんうたゝこゑをます、
望山幽月猶蔵影。聴砌飛泉転倍声。
法輪寺口号 菅原文時
新古今
をぐらやまふもとののべのはなすすき
ほのかにみゆるあきの夕ぐれ
紀貫之
あきのよはながし、よながくしてねむることなければてんもあけず、
かうかうたるのこりのともしびかべにそむけるかげ、
せう〳〵たるよるのあめはまどをうつこゑあり、
秋夜長。夜長無睡天不明。耿耿残燈背壁影。蕭蕭暗雨打窓声。
上陽白髪人 白居易
ちちたるしようろうはじめてながきよ、
かうかうたるせいかあけなんとほつするてん
遅遅鐘漏初長夜。耿耿星河欲曙天。
長恨歌 白居易
えんしろうのうちさうげつのよ、
あききたりてはたゞいちにんのためにながし、
燕子楼中霜月夜。秋来只為一人長。
燕子楼 白居易
まんさうつゆふかしひとしづまりてのち、
よもすがらくもつきぬつきのあきらかなるまへ、
蔓草露深人定後。終霄雲尽月明前。
秋夜詣祖廟詩 小野篁
けんかしうのうちのこしうのゆめ、
ゆりうえいのほとりばんりのこゝろ、
蒹葭州裏孤舟夢。楡柳営頭万里心。
秋夜雨 紀斎名
拾遺
あしびきのやまどりのをのしだりをの
なが〳〵しよをひとりかもねん
柿本人丸
古今
むつごともまだつきなくにあけにけり
いづらはあきのながしてふよは
凡河内躬恒
しんてんのいつせんより、りん〳〵としてこほりしけり、
かんかのさんじふろくきう、ちようちようとしてふんをかざれり、
秦甸之一千余里。凛凜氷鋪。漢家之三十六宮。澄澄粉餝。
長安十五夜人賦 公乗億
にしきをおるはたのうちにすでにさうしのじをわきまへ、
ころもをうつきぬたのうへににはかにえんべつのこゑをそふ、
織錦機中已弁相思之字。
擣衣砧上俄添怨別之声。
同上 公乗億
さんごやちうのしんげつのいろ、
にせんりのほかのこじんのこころ、
三五夜中新月色。二千里外故人心。
八月十五日夜禁中猶直対月憶元九 白居易
すうざんのへうりせんちやうのゆき、
らくすゐのかうていりやうくわのたま
嵩山表裏千重雪。洛水高低両顆珠。
八月十五日夜翫月 同
じふにくわいのうちにこのゆふべのよきにまさるはなし、
せんまんりのほかにみなわがいへのひかりをあらそふ
十二廻中無勝於此夕之好。千万里外皆争於吾家之光。
天高秋月明房 紀長谷雄
へきらうきんぱはさんごのはじめ、
あきのかぜけいくわいしてくうきよににたり
碧浪金波三五初。秋風計会似空虚。
月影満秋池詩 菅原淳茂
みづからうたがふかえふはしもをこらしてはやきことを、
ひとはいふろくわのあめをすごしてあまれるかと、
自疑荷葉凝霜早。人道蘆花遇雨余。
同 同
きししろくかへりてしようじやうのつるにまよひ、
ふちとほりてはさうちうのうををかぞふべし、
岸白還迷松上鶴。潭融可弄藻中魚。
同 同
えうちはすなはちこれよのつねのな、
このよのせいめいはたまもしかじ
瑶池便是尋常号。此夜清明玉不如。
同 同
きんかういつてきしうふうのつゆ、
ぎよくかうさんかうれいかんのくも、
金膏一滴秋風露。玉匣三更冷漢雲。
満月明如鏡 菅原文時
やうきひかへりてたうていのおもひ、
りふじんさりてかんわうのこゝろ、
楊貴妃帰唐帝思。李夫人去漢皇情。
対雨恋月 源順
拾遺
みづのおもにてる月なみをかぞふれば
こよひぞあきのもなかなりける
源順
たれびとかろうぐわいにひさしくせいじうする、
いづれのところのていぜんにかあらたにべつりする、
誰人隴外久征戍。何処庭前新別離。
秋月 白居易
あきのみづみなぎりきたりてふねのさることすみやかなり、
よるのくもをさまりつくしてつきのゆくことおそし、
秋水漲来船去速。夜雲収尽月行遅。
汴水東帰即事 郢展
きんちうにゑはざればいかでかさることをゑん、
まゐざんのつきはまさにさう〳〵たり、
不酔黔中争去得。磨囲山月正蒼々。
送蕭処士遊黔南 白居易
てんさんにわきまへずいづれのとしのゆきぞ、
がふほにはまさにまよひぬべしきうじつのたまに、
天山不弁何年雪。合浦応迷旧日珠。
禁庭翫月 三統理平
ほうれいのかねのこゑにくわせんとほつするやいなや、
それくわていのつるのいましめをいかん、
それ
欲和豊嶺鐘声否。其奈華亭鶴警何。
夜月似秋霜 兼明親王
きやうるゐすうかうせいじうのきやく、
たうかいつきよくてうぎよのおきな
郷涙数行征戍客。棹歌一曲釣漁翁。
山川千里月 慶滋保胤
古今
あまのはらふりさけみればかすがなる
みかさの山にいでし月かも
安倍仲満
古今
しら雲にはねうちかはしとぶかりの
かずさへみゆるあきのよの月
凡河内躬恒
拾遺
世にふればものおもふとしはなけれども
月にいくたびながめしつらん
具平親王
つばめはしやじつをしりてすをじしさる、
きくはちようやうのためにあめをおかしてひらく、
燕知社日辞巣去。菊為重陽冒雨開。
秋日東郊作 皇甫冉
こじをかんぶにとれば、
すなはちせきゆをきうじんのころもにさしはさむ、
きうせきをぎぶんにたづぬれば、
またくわうくわはうそがじゆつをたすく
すなはち
また
採故事於漢武。則赤萸挿宮人之衣。
尋旧跡於魏文。亦黄花助彭祖之術。
視賜群臣菊花詩序 紀長谷雄
さんちにさきだちてそのはなをふけば、
あかつきのほしのかかんにてんずるがごとし、
じふぶんにひかへてそのいろをうごかせば、
あきのゆきのらくせんにめぐるかとうたがふ、
先三遅兮吹其花。如暁星之転河漢。
引十分兮蕩其彩。疑秋雪之廻洛川。
たにのみづにはなをあらへば、
かりうをくみてじやうじゆをえたるもの、さんじふよか
ちみやくにあぢをくわすれば、
につせいをくらひてねんがんをとゞめしもの、ごひやくかせい、
谷水洗花。汲下流而得上寿者。三十余家。
地脈和味。喰日精而駐年顔者。五百箇歳。
同 同
拾遺
わがやどのきくのしら露けふごとに
いく代つもりてふちとなるらん
清原元輔
さうほうのらうびんはさんぶんしろし、
ろきくのしんくわはいつぱんなり
霜蓬老鬢三分白。露菊新花一半黄。
九月八日酬皇甫十見贈 白居易
これはなのうちにひとへにきくをあいするにはあらず、
このはなひらきてのちさらにはななければなり、
これ
この
不是花中偏愛菊。此花開後更無花。
十日菊花 元稹
らんいんくれなんとほつす、
しようはくののちにしぼまんことをちぎる、
しうけいはやくうつりて、
しらんのまづやぶるることをあざける、
嵐陰欲暮。契松柏之後凋。秋景早移。嘲芝蘭之先敗。
翫禁庭残菊 紀長谷雄
れきけんのそんりよはみなをくをうるほす、
たうかのじしはだうにほとりせず、
酈県村閭皆潤屋。陶家児子不垂堂。
らんゑんにはみづからぞくこつたることをはぢ、
きんりにはちやうせいあることをしんぜず、
蘭苑自慙為俗骨。槿籬不信有長生。
菊見草中仙 慶滋保胤
らんけいゑんのあらしむらさきをくだきてのち、
ほうらいどうのつきしものてらすうち、
蘭蕙苑嵐摧紫後。蓬莱洞月照霜中。
花寒菊点裳 菅原文時
古今
ひさかたの雲のうへにて見るきくは
あまつほしとぞあやまたれける
藤原敏行
古今
こころあてにをらばやをらんはつしもの
おきまどはせるしらぎくの花
凡河内躬恒
たとひかうかんをもつてかためとなすとも、
せうひつをうんくにとゞめがたし、
たとひまうふんをしておはしむとも、
なんぞさうらいをふうきやうにさへぎらんや、
たとひ
たとひ
縱以崤函為固。難留蕭瑟於雲衢。
縱命孟賁而追。何遮爽籟於風境。
山寺惜秋序 源順
とうもくはたとひぜんきやくのこはんにしたがふとも、
あきをもつてせよせんことはなはだかたかるべし
頭目縱随禅客乞。以秋施与太応難。
同 同
ぶんぽうにくつわづらをあんずはくくのかげ、
しかいにふねをふなよそほひすこうえふのこゑ、
文峯案轡白駒景。詞海艤舟紅葉声。
秋未出詩境 大江以言
風雅
まきの葉ごとにおけるはつしも
大江千里
くれてゆくあきのかたみにおくものは
わがもとゆひの霜にぞありける
平兼盛
はなのいろはむせるあはのごとし、ぞくよびてぢよらうとなす、
なをききてたはむれにかいらうをちぎらむとほつすれば
おそらくはすゐおうのかうべしもににたるをにくまむことを
花色如蒸粟。俗呼為女郎。
聞名戯欲契偕老。恐悪衰翁首似霜。
詠女郎花 源順
古今
をみなへしおほかる野辺にやどりせば
あやなくあだの名をやたたまし
小野良材
新古今
をみなへしみるにこころはなぐさまで
いとどむかしのあきぞ恋しき
藤原実頼
あかつきのつゆにしかないてはなはじめてひらく、
もゝたびよぢをるいちじのこゝろ
暁露鹿鳴花始発。百般攀折一時情。
新撰万葉絶句詩 菅原道真
拾遺
あきののにはぎかるをのこなはをなみ
ねるやねりそのくだけてぞおもふ
柿本人麿
拾遺
うつろはんことだにをしきあきはぎを
をれるばかりにおける露かな
伊勢
家集
あきのののはぎのにしきをふるさとに
しかの音ながらうつしてしがな
清原元輔
ぜんとうにはさらにせうでうたるものあり、
らうきくすゐらんさんりやうのくさむら
前頭更有蕭条物。老菊衰蘭三両叢。
抄秋独夜 白居易
ふさうあにかげなからんや、ふうんおほひてたちまちくらし
そうらんあにかうばしからざらんや、しうふうふきてまづやぶる、
扶桑豈無影乎。浮雲掩而忽昏。
叢蘭豈不芳乎。秋風吹而先敗。
菟裘賦 兼明親王
こりてはかんぢよのかほにべにをほどこすがごとし、
したゝりてはかうじんのまなこにたまをなくににたり、
凝如漢女顔施粉。滴似鮫人眼泣珠。
紅蘭受露 都良香
きよくおどろきてはそきやくのあきのことのかうばし、
ゆめたえてはえんきがあかつきのまくらにくんず
曲驚楚客秋絃馥。夢断燕姫暁枕薫。
蘭気入軽風 橘直幹
古今
ぬししらぬ香はにほひつつあきののに
たがぬききかけしふぢばかまぞも
素性法師
しようじゆせんねんつひにこれくつ、
きんくわいちにちおのづからえいをなせり、
松樹千年終是朽。槿花一日自為栄。
放言詩 白居易
きたりてとゞまらず、かいろうにあしたのつゆをはらふあり、
さりてかへらず、きんりにくれにいたるはななし、
来而不留。薤瓏有払晨之露。
去而不返。槿籬無投暮之花。
無常句 兼明親王
新勅撰
おぼつかなたれとかしらむあきぎりの
たえまにみゆるあさがほのはな
藤原道信
拾遺
あさがほを何かなしとおもふらん
人をもはなはさこそみるらめ
藤原道信
おほくはなをうゑてめをよろこばしむるともがらをみれば、
ときにさきだちあらかじめやしなひてひらくをまちてあそぶ
多見栽花悦目儔。先時予養待開遊。
栽秋花 菅原文時
われかんじやくにしてかどうのうみたるより、
はるのきははるうゑあきのくさはあきなり、
自吾閑寂家僮倦。春樹春栽秋草秋。
同 同
しづかになんぢがはなのくれなゐならんひをみんとおもへば、
まさにこれわがびんのしろからんときにあたれり、
閑思看汝花紅日。正是当吾鬢白時。
初植花樹詩 慶滋保胤
かつてううるところにげんりやうをおもふにあらず、
このはなのときにせそんにたてまつらんがためなり
かつて
この
曾非種処思元亮。為是花時供世尊。
菅原道真
古今
ちりをだにすゑじとぞおもふうゑしより
いもとわがぬるとこなつのはな
凡河内躬恒
はなによりものをぞおもふ白露の
おくにもいかがあ(な)らんとすらん
作者不詳
たへずこうえふせいたいのち、またこれりやうふうぼうのてん、
不堪紅葉青苔地。又是涼風暮雨天。
秋雨中贈元九 白居易
くわうかうけつのはやしはさむくしてはあり、
へきるりのみづはきよくしてかぜなし、
黄纐纈林寒有葉。碧瑠璃水浄無風。
泛太湖書事寄微之 同
どうちゆうはせいせんたりるりのみづ、ていじやうせうでうたりきんしうのはやし、
洞中清浅瑠璃水。庭上蕭条錦繍林。
翫頭池紅葉 慶滋保胤
ぐわいぶつのひとりさめたるはしようかんのいろ、
よはのがふりきはきんこうのこゑ
外物独醒松澗色。余波合力錦江声。
山水唯紅葉 大江以言
家集
しらつゆもしぐれもいたくもる山は
した葉のこらずもみぢしにけり
紀貫之
むら〳〵のにしきとぞみるさほ山の
ははそのもみぢきりたたぬまは
藤原清正
さんしうにしてきうろうまさにながく、
くうかいにあめしたゝる、
ばんりにしてきやうゑんいづくにかある、
らくえふまどにふかし、
三秋而宮漏正長。空階雨滴。
万里而郷園何在。落葉窓深。
愁賦 張読
あきのにはははらはずとうぢやうをたづさへて、
しづかにごとうのくわうえふをふみてゆく、
秋庭不掃携藤杖。閑踏梧桐黄葉行。
晩秋閑居 白居易
じやうりうきゆうくわいみだりにえうらくすれども、
あきのかなしみはきじんのこゝろにいたらず
城柳宮槐漫揺落。愁悲不到貴人心。
早入皇城送王留守僕射 白居易
ごしうのかげのうちに、いつせいのあめむなしくそゝぐ、
しやこのせなかのうへに、すうへんのこうわづかにのこれり、
梧楸影中。一声之雨空灑。
鷓鴣背上。数片之紅纔残。
葉落風枝疎詩序 源順
せうそわうへんして、つゑしゆばいしんがころもをうがつ、
いんいついういう、くつかつちせんのくすりをふむ、
樵蘇往反。杖穿朱買臣之衣。
隠逸優遊。履踏葛稚仙之薬。
落葉満山中路序 高階相如
あらしにしたがふらくえふせうしつをふくめり、
いしにそそぐひせんはがきんをろうす、
随嵐落葉含蕭瑟。濺石飛泉弄雅琴。
秋色変山水 源順
よをおひてひかりおほしごゑんのつき、
あさなごとにこゑすくなしかんりんのかぜ、
逐夜光多呉苑月。毎朝声少漢林風。
松葉随日落 具平親王
新古今
あすか川もみぢ葉ながるかつらぎの
やまのあきかぜふきぞしぬらし
柿本人丸
後撰
神なづきしぐれとともにかみなびの
もりのこの葉はふりにこそふれ
紀貫之
古今
みる人もなくてちりぬるおくやまの
もみぢはよるのにしきなりけり
同
ばんりひとみなみにさる、さんしゆんがんきたにとぶ、
しらずいづれのさいげつか、なんぢとおなじくかへることをえん、
万里人南去。三春鴈北飛。
不知何歳月。得与汝同帰。
南中詠雁 白居易
じんやうのこうのいろはしほそへてみち、
はうれいのあきのこゑはがんひききたる、
潯陽江色潮添満。彭蠡秋声鴈引来。
登江州清輝楼 劉禹錫
しごだのやまはあめによそほへるいろ、
りやうさんかうのがんはくもにてんずるこゑ、
四五朶山粧雨色。両三行鴈点雲声。
雋陽道中 杜筍鶴
きよきうさけがたし、いまだうたがひをじやうげんのつきのかかれるになげうたず、
ほんせんまよひやすし、なほあやまりをかりうのみづきふなるになす、
虚弓難避。未抛疑於上弦之月懸。
奔箭易迷。猶成誤於下流之水急。
寒雁識秋天 大江朝綱
かりはへきらくにとびてせいしにしよし、
はやぶさはさうりんをうちてにしきのはたをやぶる、
鴈飛碧落書青紙。隼撃霜林破錦機。
秋暮傍山行 島田忠臣
へきぎよくのよそほへるしやうのことはななめにたてたることぢ、
せいたいのいろのかみにはすうかうのしよ
碧玉装筝斜立柱。青苔色紙数行書。
天浄識賓鴻 菅原文時
うんいははんしゆくがきちうのおくりもの、
ふうろはせうしやうのなみのうへのふね
雲衣范叔羈中贈。風櫓瀟湘浪上舟。
賓雁似故人 具平親王
古今
あきかぜにはつかりがねぞきこゆなる
たがたまづさをかけてきつらん
紀友則
帰雁
さんようのきがんはなゝめにおびをひく、
すゐめんのしんこうはいまだきんをのべず、
山腰帰鴈斜牽帯。水面新虹未展巾。
春日閑居 都在中
古今
春がすみたつを見すててゆくかりは
はななきさとにすみやならへる
伊勢
せつせつたりあんさうのもと、
えう〳〵たるしんさうのうち、
あきのそらのしふのこゝろ、
あめのよのいうじんのみ、
切切暗窓下。喓々深草裏。
秋天思婦心。雨夜幽人耳。
秋虫 白居易
さうさうかれなんとほつしてむしのおもひねんごろなり、
ふうしいまださだまらずとりのすむことかたし、
霜草欲枯虫思苦。風枝未定鳥栖難。
答夢得秋夜独座見贈 同
ゆかにはたんきやくをきらふきり〴〵すのこゑのかまびすし、
かべにはこうしんをいとふねずみのあなうがてり、
床嫌短脚蛬声閙。壁厭空心鼠孔穿。
秋夜 小野篁
さんくわんのあめのときなくことおのづからくらく、
やていのかぜのところおることなほさむし、
山館雨時鳴自暗。野亭風処織猶寒。
蛬声人微館 橘直幹
そうへんにうらみとほくしてかぜにききてくらく、
かべのもとにぎんかすかにしてつきいろさむし、
叢辺怨遠風聞暗。壁底吟幽月色寒。
同前題 源順
いまこんとたれたのめけんあきのよを
あかしかねつつまつむしのなく(こゑイ)
或 大中臣能宣 読人不知
古今
きり〴〵すいたくななきそあきの夜の
ながきうらみはわれぞまされる
素性法師或藤原忠房
さうたいみちなめらかにしてそうてらにかへり、
こうえふこゑかわきてしかはやしにあり、
蒼苔路滑僧帰寺。紅葉声乾鹿在林
宿雲林寺 温庭筠
あんにへいをくらふみのいろをしてへんぜしむ、
さらにくさにくはふるとくふうにしたがひきたる、
暗遣食苹身色変。更随加草徳風来。
観鎮西府献白鹿詩 紀長谷雄
拾遺
もみぢせぬときはの山にすむしかは
おのれなきてや秋をしるらん
大中臣能宣
古今
ゆふづくよをぐらのやまになくしかの
こゑのうちにやあきはくるらん
紀貫之
露
あはれむべしきふげつしよさんのよ、
つゆはしんじゆににたりつきはゆみににたり、
可憐九月初三夜。露似真珠月似弓。
暮江吟 白居易
つゆはらんそうにしたたりてかんぎよくしろし、
かぜしようえふをふくみてがきんすめり、
露滴蘭叢寒玉白。風銜松葉雅琴清。
秋風颯然新 源英明
新古今
さをしかのあさたつをのの秋はぎに
たまとみるまでおけるしらつゆ
大伴家持
ちくむはあかつきにみねにふくむつきをこめたり、
ひんぷうはあたたかくしてこうをすぐるはるをおくる、
竹霧暁籠銜嶺月。蘋風暖送過江春。
庾楼暁望 白居易
せきむのひとのまくらをうづめんことをうれふといへども、
なほてううんのうまのくらよりいづることをあいす、
なほ
雖愁夕霧埋人枕。猶愛朝雲出馬鞍。
山居秋晩 大江音人
拾遺
秋ぎりのふもとをこめてたちぬれば
空にぞ秋の山は見えける
清原深養父
古今
たがためのにしきなればかあきぎりの
さほのやまべをたちかくすらん
友則
はちげつきうげつまさにながきよ、
せんせいばんせいやむときなし、
八月九月正長夜。千声万声無了時。
聞夜砧 白居易
たがいへのしふかあききぬをうつ、
つきさやかにかぜすさまじくしてちんしよかなしめり、
誰家思婦秋擣帛。月苦風凄砧杵悲。
同 同
ほくとのほしのまへにりよがんよこたはり、
なんろうのつきのもとにはかんいをうつ、
北斗星前横旅雁。南楼月下擣寒衣。
同 劉元叔
うつところにはあかつきけいぐゑつのすさまじきことうれひ、
たちもちてはあきさいうんのかんによす、
擣処暁愁閨月冷。裁将秋寄塞雲寒。
風疎砧杵鳴 菅原篤茂
たちいだしてはかへりちやうたんせいにまよふ、
へんしうはさだめてむかしのえうゐならじ、
裁出還迷長短製。辺愁定不昔腰囲。
擣衣詩 橘直幹
かぜのもとにかとんでさうしうあがり、
つきのまへにしようらみてりやうびたれたり、
風底香飛双袖挙。月前杵怨両眉低。
擣衣詩 具平親王
ねん〳〵のわかれのおもひはあきのかりにおどろく、
よな〳〵のかすかなるこゑあかつきのにはとりにいたる、
年年別思驚秋雁。夜夜幽声到暁鶏。
同 同
新勅撰
からごろもうつこゑきけば月きよみ
まだねぬ人をさらにしるかな
紀貫之
じふげつこうなんてんきこうなり、
あはれむべしとうけいはるににてうるはし、
十月江南天気好。可憐冬景似春華。
早冬 白居易
しいじれいらくしてさんぶんげんじ、
ばんぶつさだとしてくわはんしぼむ、
四時牢落三分減。万物蹉跎過半凋。
初冬即事 醍醐帝御製
ゆかのうへにはまきをさむせいちくのたかむしろ、
はこのうちにはひらきいだすはくめんのきぬ、
床上巻収青竹簟。匣中開出白綿衣。
驚冬 菅原文時
後撰
神なづきふりみふらずみさだめなき
しぐれぞ冬のはじめなりける
紀貫之
いつさんのかんとうはうんぐわいのよる、
すうはいのうんちうはせつちゆうのはる、
一盞寒燈雲外夜。数盃温酎雪中春。
和李中丞与李給事山居雪夜同宿小酌 白居易
としのひかりはおのづからとうのまへにむかつてつきぬ、
きやくのおもひにただまくらのほとりよりなる、
年光自向燈前尽。客思唯従枕上生。
冬夜独起 尊敬
拾遺
おもひかねいもがりゆけばふゆのよの
川かぜさむみ千どりなくなり
紀貫之
かんりうつきをおびてはすめることかがみのごとく、
ゆふべのかぜはしもにくわしてときことかたなににたり、
寒流帯月澄如鏡。夕風和霜利似刀。
江楼宴別 白居易
ふううんはひとのまへにむかひてくれやすく、
さいげつはおいのそこよりかへしがたし、
風雲易向人前暮。歳月難従老底還。
花下春 良岑春道
古今
ゆくとしのをしくもあるかなますかがみ
みるかげさへにくれぬとおもへば
紀貫之
くわうばいりよくしよふゆをむかへてじゆくし、
ほうちやうこうろよをおひてひらく、
黄醅緑緑醑迎冬熟。絳帳紅炉逐夜開。戯招諸客 白居易
みるにやばなくきくにうぐひすなし、
らふのうちのふうくわうはひにむかへらる、
看無野馬聴無鴬。臘裏風光被火迎。
火見臘夫春 菅原文時
このひはまさにはなのきをきつてとれるなるべし、
むかひきたればよもすがらはるのこころあり、
この
此火応鑚花樹取。対来終夜有春情。
同 同
たじにはたとひあうくわのもとにゑふとも、
このころはなんぞじうたんのほとりをはなれん、
多時縱酔鴬花下。近日那離獣炭辺。
同 菅原輔昭
うづみびのしたにこがれしときよりも
かくにくまるるをりぞかなしき
在原業平
さんしうのきしのゆきにはなはじめてしろく、
いちやのはやしのしもにはこと〴〵くくれなゐなり、
三秋岸雪花初白。一夜林霜葉尽紅。
般若寺別成公 温庭筠
ばんぶつはあきのしもによくいろをやぶり、
しいじはふゆのひにもつともてうねんなり、
万物秋霜能壊色。四時冬日最凋年。
歳晩旅望 白居易
ねやさむくしてゆめおどろく、
あるひはこふのきぬたのほとりにそふ、
やまふかくしてかんうごく、
まづしかうがびんのほとりををかす、
閨寒夢驚。或添孤婦之砧上。
山深感動。先侵四皓之鬢辺。
青女司霜賦 紀長谷雄
くんしよふけてこゑいましめず、
らうおうとしくれてびんあひおどろく、
君子夜深音不警。老翁年晩鬢相驚。
早霜 菅原道真或文時
せい〳〵すでにたつくわていのつる、
ほゝはじめておどろくかつりのひと、
声声已断華亭鶴。歩歩初驚葛履人。
寒霜凝霜 菅原文時
あしたにぐわこうにつみてをしいろをへんじ、
よるくわへうにおちてつるこゑをのむ、
晨積瓦溝鴛変色。夜零華表鶴呑声。
同前題 紀長谷雄
拾遺
夜をさむみねざめてきけばをしぞなく
はらひもあへずしもやおくらん
読人不知
雪
あかつきにりやうわうのそのにいればゆきぐんざんにみてり、
よるゆこうがろうにのぼればつきせんりにあきらかなり、
暁入梁王之苑雪満群山。夜登庾公之楼月明千里。
白賦 謝観
ぎんがのいさごみなぎるさんぜんかい、
ばいれいはなひらくいちまんちう、
銀河沙漲三千界。梅嶺花排一万株。
雪中即事 白居易
ゆきはがまうににてとびてさんらんし、
ひとはくわくしやうをきてたちてはいくわいす、
雪似鵞毛飛散乱。人被鶴立徘徊。
酬令公雪中見贈 同
あるいはかぜをおひてかへらず、
ぐんかくのけをふるふがごとし、
またはれにあたりてなほのこる、
しゆうこのえきをつゞるかとうたがふ、
また
或逐風不返。如振群鶴之毛。
亦当晴猶残。疑綴衆狐之腋。
春雪賦 紀長谷雄
つばさはぐんをうるににたりうらにすむつる、
こゝろまさにきやうにじようずべしふねにさをさすひと、
翅似得群栖浦鶴。心応乗興棹舟人。
池上初雪 村上帝御製
ていじやうにたつてはかうべつるたり、
ざしてろのほとりにあればてかがまらず、
立於庭上頭為鶴。坐在炉辺手不亀。
客舎対雪 菅原道真
はんぢよがねやのうちのあきのあふぎのいろ、
そわうのだいのうへのよるのことのこゑ、
班女閨中秋扇色。楚王台上夜琴声。
題雪 尊敬
拾遺
みやこにてめづらしくみるはつゆきは
よしののやまにふりにけるかな
源景明
古今
みよしののやまのしら雪つもるらし
ふるさとさむくなりまさるなり
坂上是則
古今
雪ふれば木ごとに花ぞさきにける
いづれをうめとわきてをらまし
紀友則
こほりはすゐめんをふうじてきくになみなく、
ゆきはりんとうにてんじてみるにはなあり、
氷封水面聞無浪。雪点林頭見有花。
臘月独興 菅原道真
しもはかくれいをさまたげてさむくしてつゆなく、
みづはこぎをむすびてうすくしてこほりあり、
霜妨鶴唳寒無露。水結狐疑薄有氷。
狐疑氷聞波声 相如
新撰万葉
おほぞらの
かげみし水ぞまづこほりける
七条后宮
春氷
こほりきえてみづをみればちよりもおほく、
ゆきはれてやまをのぞめばこと〳〵くろうにいる、
氷消見水多於地。雪霽望山尽入楼。
早春憶遊思黯南荘 白居易
こほりきえてかんしゆまさにはをうたがふべし、
ゆきつきてはりやうわうばいをめさず、
氷消漢主応疑覇。雪尽梁王不召枚。
早春雪氷消 橘在列
こさいにだれかよくしせつをまつたくせん、
こだにはかへりてしんのちゆうをうしなはんことをおそる、
胡塞誰能全使節。虖陀還恐失臣忠。
雪消氷亦解 源相規
続後拾遺
やまかげのみぎはまされるはるかぜに
たにのこほりもけふやとくらん
藤原惟正
しやうがよねひてせい〳〵もろく、
りようがんたまなげてくわ〳〵さむし、
麞牙米簸声々脆。龍頷珠投顆々寒。
雪化為霰 菅原道真
古今
みやまにはあられふるらし外山なる
まさきのかづら色つきにけり
紀貫之
かうくわいちろともしびいつさん、
はくとうにしてよるぶつみやうぎやうをらいす、
香火一炉燈一盞。白頭夜礼仏名経。
献贈礼経老僧 白居易
かうはぜんしんよりしてひをもちゐることなし、
はなはがつしやうにひらきてはるによらず、
香自禅心無用火。花開合掌不因春。
懺悔会作 菅原道真
家集
あらたまのとしもくれなばつくりつる
つみものこらずなりやしぬらん
平兼盛
拾遺
かぞふればわが身につもるとし月を
おくりむかふとなにいそぐらん
同
拾遺
としのうちにつくれるつみはかきくらし
ふるしら雪とともにきえなむ
紀貫之
下巻
雑
はるのかぜあんにていぜんのきをきり、
よるのあめはひそかにせきじやうのこけをうがつ、
春風暗剪庭前樹。夜雨偸穿石上苔。
春日山居 輔昭
じふしようみだれやすし、
めいくんがたましひをなやまさんとほつす、
りうすゐかへらず、
まさにれつしがのりものをおくるべし、
まさに
入松易乱。欲悩明君之魂。流水不返。応送列子之乗。
風中琴 紀長谷雄
かんしゆのてのうちにふきてとゞまらず、
じよくんがつかのうへにあふぎてなほかゝれり
漢主手中吹不駐。徐君墓上扇猶懸。
北風利如剣 慶滋保胤
はんきあふぎをさいしてまさにくわしやうすべし、
れつしくるまをかけてわうくわんせず、
班姫裁扇応誇尚。列子懸車不往還。
清風何処隠 同
後撰
あきかぜのふくにつけてもとはぬかな
をぎの葉らばおとはしてまし
中務
新古今
ほの〴〵とありあけの月のつきかげに
もみぢふきおろす山おろしのかぜ
源信明
たけしやうほにまだらにしてくもこしつのあとにこる、
ほうしんだいをさりつきすゐせうのちにおいたり、
竹斑湘浦雲凝鼓瑟之蹤。鳳去秦台月老吹簫之地。
愁賦 張読
やまとほくしてはくもかうかくのあとをうづめ、
まつさむくしてはかぜりよじんのゆめをやぶる、
山遠雲埋行客跡。松寒風破旅人夢。
愁賦 紀斎名
ひねもすにくもをのぞめばこゝろつながれず、
ときありてつきをみればよまさにしづかなり、
尽日望雲心不繋。有時見月夜正閑。
閨女幽栖 元稹
かんかうしんをさけしあした、
のぞみこほうのつきをさゝふ、
たうしゆゑつをじせしゆふべ、
まなこごこのけむりをこんず、
漢皓避秦之朝 望礙孤峯之月
陶朱辞越之暮 眼混五湖之煙
視雲知隠処賦 大江以言
しばらくきくをかれどもいしをいたゞくにあらず、
むなしくしゆんけんをぬすめどもあにまつをしやうぜんや、
暫借崎嶇非戴石。空偸峻嶮豈生松。
夏雲多奇峯 都在中
かんていのりようがんはしよ〳〵にまよひぬ、
わいわうのけいしはりうれんをうしなふ、
漢帝龍顔迷処所。淮王鶏翅失留連。
秋天無片雲 大江以言
新古今
よそにのみ見てややみなんかつらぎや
たかまの山のみねのしら雲
読人不知
けむりもんぐわいにきえてせいざんちかく、
つゆさうぜんにおもくしてりよくちくたれたり、
煙消門外青山近。露重窓前緑竹低。
晴興 鄭師冉
しがいのみねのあらしはまばらにして、
くもしちひやくりのそとにをさまり、
ばくふのいづみのなみはひやゝかにして、
つきしじつせきのあまりにすめり、
紫蓋之嶺嵐疎。雲収七百里之外。
曝布之泉波冷。月澄四十尺之余。
山晴秋望多序 藤原惟成
くもはへきらくにきえてそらのはだへとけ、
かぜせいいをうごかしてみづのおもてしわむ、
雲消碧落天膚解。風動清漪水面皴。
梅雨新霽 都良香
さうかくさはをいでてきりをひらきてまひ、
こはんみづにつらなりてくもときゆ、
霜鶴出皐披霧舞。孤帆連水与雲消。
高天澄遠色 菅原文時
すうにかへるつるまひてひたけてみゆ、
ゐにみづかふりようのぼりてくものこらず、
帰嵩鶴舞日高見。飲渭龍昇雲不残。
晴後山川清 大江以雪
かすみはれみどりのそらものどけくて
あるかなきかにあそぶいとゆふ
読人不知
かじんこと〴〵くしんしやうをかざりて、ぎきゆうにかねうごく、
いうしなほざんげつにゆきてかんこくににはとりなく、
佳人尽飾於晨粧。魏宮鐘動。
遊子猶行於残月。函谷鶏鳴。
暁賦 賈島
いくつらみなみにさるかり、
いつぺんにしにかたむくつき、
せいろにおもむきてひとりゆくし、
りよてんなほとざせり、
こじやうになきてもゝたびたゝかふいくさ、
こかいまだやまず、
幾行南去之雁。一片西傾之月。
赴征路而独行之子。旅店猶扃。
泣胡城而百戦之師。胡笳未歇。
同 謝観
よそほひをきんをくのなかにいつくしくして、
せいがまさにゑがけり、
えんをけいえんのうへにやめて、
こうしよくむなしくあまれり、
厳粧金屋之中。青蛾正画。罷宴瓊筵之上。紅燭空余。
同 同
ごせいのきゆうろうはじめてあけてのち、
いつてんのさうとうのきえなんとほつするとき、
五声宮漏初明後。一点窓燈欲滅時。
禁中夜作 白居易
後撰
あかつきのなからましかば白露の
おきてわびしきわかれせましや
紀貫之
たゞさうしようのみぎりのしたにあたるあり、
さらにいちじのこゝろのなかにいたるなし、
たゞ
但有双松当砌下。更無一事到心中。
新昌坊閑居 白居易
せいざんにゆきありてまつのせいをそらんじ、
へきらくにくもなくしてつるこゝろにかなへり、
青山有雪諳松性。碧落無雲称鶴心。
寄殷尭潘 許渾
せんぢやうゆきをしのぎて、
まさにけいかうのすがたにたとへつべし、
ひやくほかぜにみだる、
たれかやういふがしやをやぶらんや、
まさに
千丈凌雪。応喩稽康之姿。
百歩乱風。誰破養由之射。
柳化物松賦 紀長谷雄
きうかさんぷくのあつきつきに、
たけにさくごのかぜをふくむ、
げんとうそせつのさむきあしたには、
まつにくんしのとくをあらはす、
九夏三伏之暑月 竹含錯午之風
玄冬素雪之寒朝 松彰君子之徳
河原院賦 順
じふはちこうのさかへはしもののちにあらはる、
いつせんねんのいろはゆきのうちにふかし、
十八公栄霜後露。一千年色雪中深。
歳寒知松貞 同
あめをふくめるれいしやうはてんさらにはれ、
あきをやくりんえふはひかへつてさむし、
含雨嶺松天更霽。焼秋林葉火還寒。
山居秋晩 大江朝綱
古今
ときはなる松のみどりも春くれば
いまひとしほの色まさりけり
源宗于
古今
われみてもひさしくなりぬすみよしの
きしのひめまついく代へぬらん
読人不知
拾遺
あまくだるあら人かみのあひおひを
おもへばひさしすみよしのまつ
安法法師
えんえふもうろうたりよををかすいろ、
ふうしせうさつたりあきならんとほつするこゑ、
煙葉蒙籠侵夜色。風枝蕭颯欲秋声。
和令孤相公栽竹 白居易
げんせきがうそぶくにはにはひとつきにあゆみ、
しいうがみるところにはとりけむりにすむ、
阮籍嘯場人歩月。子猷看処鳥栖煙。
竹枝詞 章孝標
しんのきへいさんぐんわうしいう、
うゑてこのきみとしようす、
たうのたいしのひんかくはくらくてんは、
あいしてわがともとなす、
晋騎兵参軍王子猷。栽称此君。
唐太子賓客白楽天。愛為吾友。
修竹冬青序 藤原篤茂
はうじゆんはいまだめいほうのくわんをぬきんでず、
はんこんはわづかにぐわりようのもんをてんず、
迸笋未抽鳴鳳管。盤根纔点臥龍文。
禁庭植竹 兼明親王
古今
世にふればことの葉しげきくれ竹の
うきふしごとにうぐひすぞなく
読人不知
六帖
しぐれふるおとはすれども呉たけの
など世とともに色もかはらぬ
素性
さとうにあめはそむはん〳〵たるくさ、
すゐめんにかぜはかるしつ〳〵たるなみ、
沙頭雨染斑々草。水面風駈瑟々波。
早春憶微之 白居易
せいしががんしよくはいまいづくにかある、
まさにしゆんぷうひやくさうのほとりにあるべし、
まさに
西施顔色今何在。応在春風百草頭。
春詞 元稹
へうたんしば〳〵むなし、
くさがんえんがちまたにしげし、
れいでうふかくとざせり、
あめげんけんがとぼそをうるほす、
瓢箪屡空。草滋顔淵之巷。藜蓼深鎖。雨湿原憲之枢。
申文 橘直幹
くさのいろはゆきはれてはじめてほごす、
とりのこゑはつゆあたたかにしてやうやくめんばんたり、
草色雪晴初布護。鳥声露暖漸綿蛮。
春日山居 後江相公
くわさんにうまありてひづめなほあらはる、
ふやにひとなくしてみちやうやくしげし、
華山有馬蹄猶露。傅野無人路漸滋。
遠草初含色 慶滋保胤
拾遺
かのをかに草かるをのこしかなかりそ
ありつつも君がきまさんみまくさにせん
人丸
古今
おほあらきの森のした草おいぬれば
こまもすさめずかる人もなし
作者名無し或源重之
新古今
やかずとも草はもえなんかすが野を
ただはるの日にまかせたらなむ
壬生忠岑
きらふらくはせうじんにしてかうゐをふむことを、
つるくるまにのることあり、
にくむらくはりこうのはうかをくつがへすを、
すゞめよくいへをうがつ、
嫌少人而蹈高位 鶴有乗軒
悪利口之覆邦家 雀能穿屋
王鳳凰賦 賈島
りりようがこにいりしにおなじ、たゞいるゐをみる、
くつげんがそにありしににたり、しうじんみなゑへり、
同李陵之入胡。但見異類。似屈原之在楚。衆人皆酔。
鶴覆群鶏賦 皇甫会
こゑはちんじやうきたるせんねんのつる、
かげははいちゆうにおつごらうのみね、
声来枕上千年鶴。影落盃中五老峯。
題元八渓居 白居易
せいれいすうせいまつのしたのつる、
かんくわういつてんたけのあひだのともしび、
清唳数声松下鶴。寒光一点竹間燈。
在家出家 同
ならびまふていぜんはなのおつるところ、
すうせいはちじやうにつきのあきらかなるとき、
双舞庭前花落処。数声池上月明時。
贈鶴詩 劉禹錫
つるはきうりにかへる、
ていれいゐがことばきくべし、
りようしんぎをむかふ、
たうあんこうがのりものまなこにあり、
鶴帰旧里。丁令威之詞可聴。
龍迎新儀。陶安公之駕在眼。
神仙策 都良香
きごせいさはがしくしてそう〳〵としてにうす、
らうかくこゝろしづかにしてくわん〳〵としてねむる、
飢鼯性躁忩々乳。老鶴心閑緩々眠。
晩春題天台山 同
叫漢遥驚孤枕夢。和風漫入五絃弾。
霜天夜聞鶴声 源順
万葉
わかのうらにしほみちくればかたをなみ
あしべをさしてたづなきわたる
山部赤人
拾遺
おほぞらにむれゐるたづのさしながら
おもふこころのありげなるかな
伊勢
家集
あまつかぜふけゐのうらにゐるたづの
などかくも井にかへらざるべき
藤原清正
えうだいしもみてり、
いつせいのげんかくてんになく、
はかふあきふかし、
ごやのあいゑんつきにさけぶ、
瑶台霜満。一声之玄鶴唳天。巴峡秋深。五夜之哀猿叫月。
清賦 謝観
えははかふよりはじめてじをなし、
さるはふやうをすぎてはじめてはらわたをたつ、
江従巴峡初成字。猿過巫陽始断腸。
送蕭処士遊黔南 白居易
さんせいのさるののちきやうるゐをたる、
いちえふのふねのなかにびやうしんをのす、
三声猿後垂郷涙。一葉舟中載病身。
舟夜贈内 同
こがんいつせい、あきしやうかくのゆめをやぶる、
はゑんみたびさけびて、あかつきかうじんのもすそをうるほす、
胡鴈一声。秋破商客之夢。
巴猿三叫。暁霑行人之裳。
山水策 大江澄明
じんえんいつすゐのあきのむらさかれり、
さるさけびてさんせいあかつきのけうふかし、
人煙一穂秋村僻。猿叫三声暁峡深。
秋山閑望 紀長谷雄
けうかふつたふかくしてさるひとたびさけぶ、
ぼりんはなおちてとりまづなく、
暁峡蘿深猿一叫。暮林花落鳥先啼。
山中感懐 大江音人
たにしづかにしてわづかにさんてうのぎよをきき、
かけはしあやふくしてなゝめにかふゑんのこゑをふむ、
谷静纔聞山鳥語。梯危斜踏峡猿声。
送帰山僧 同
古今
わびしらにましらななきそあしびきの
やまのかひあるけふにやはあらぬ
凡河内躬恒
いつせいのほうくわんはあきしんれいのくもをおどろかし、
すうはくのげいしやうはあかつきこうざんのつきをおくる、
一声鳳管。秋驚秦嶺之雲。
数拍霓裳。暁送緱山之月。
蓮昌宮賦 公乗憶
だいいちだいにのいとはさく〳〵たり、
あきのかぜまつをはらひてそいんおつ、
だいさんだいしのいとはれい〳〵たり、
よるのつるこをおもひてろうちうになく、
だいごのいとのこゑもつともえんよくす、
ろうすゐこほりむせんでながるゝことをえず、
第一第二絃索々。秋風払松疎韻落。
第三第四絃冷々。夜鶴憶子篭中鳴。
第五絃声尤掩抑。滝水凍咽流不得。
五絃弾 白居易
ずゐぶんのくわんげんはかへつてみづからたれり、
なほざりのへんえいひとにしられたり
随分管絃還自足。等閑篇詠被人知。
重答劉和州 同
にはかにともしびのもとにきぬをたつふをして、
あやまりてどうしんいつぺんのはなをきらしむ、
頓令燈下裁衣婦。誤剪同心一片花。
聞夜笛 章孝標
らきのちよういたるは、
なさけなきことをきふにねたむ、
くわんげんのちやうきよくにあるは、
をへざることをれいじんにいかる、
羅綺之為重衣。妬無情於機婦。
管絃之在長曲。怒不闋於伶人。
春娃無気力詩序 菅原道真
らくばいきよくふりてくちびるゆきをふき、
せつりうこゑあらたにしててにけむりをにぎる、
落梅曲旧脣吹雪。折柳声新手掬煙。
同
しやうじよはむかしぶんくんをいどみてえたり、
れんちゆうをしてしさいにきかしむることなかれ、
相如昔挑文君得。莫使簾中子細聴。
听弾琴 惟高親王
拾遺
ことのねにみねのまつかぜかよふらし
いづれのをよりしらべそめけん
ちんしふつえつたりいうぎよのつりばりをふくみてしんえんのそこよりいづるがごとし、
ふさうれんべんたりかんてうのいぐるみにかゝりてそううんのさかしきよりおつるがごとし、
沈詞怫悦。若遊魚銜鉤出深淵之底。
浮藻聯翩。若翰鳥嬰繳墜曾雲之峻。
文選文賦 陸士衡
ゐぶんさんじふぢく、
ぢく〳〵にきんぎよくのこゑあり、
りようもんげんじやうのつち、
ほねをうづむれどもなをうづめず
遺文三十軸。軸軸金玉声。龍門原上土。埋骨不埋名。
題故元少尹集 白居易
げんぎよはたくみにあうむのしたをぬすみ、
ぶんしやうはほうわうのけをわかちえたり、
言語巧偸鸚鵡舌。文章分得鳳凰毛。
贈薛濤 元稹
きんちやうあかつきにひらくうんぼのでん、
はくしゆあきはうつすすゐしやうばん
錦帳暁開雲母殿。白珠秋写水精盤。
讃韓侍郎及弟詩 章孝標
さくじつのさんちゆうのきはざいをおのれにとる、
こんにちのていぜんのはなことばをひとにはづ、
昨日山中之木材取於己。今日庭前之花詞慙於人。
雨来花自湿詩序 菅原篤茂
わうらうはちえふのまご、
じよせんじがきうさうをふ、
こうあんはいちじのとも、
はんべつががゐぶんをあつむ、
王朗八葉之孫。摭徐詹事之旧草。
江淹一時之友。集范別駕之遺文。
敬公集序 源順
ちんこうしやうがことばはむなしくやまひをいやし、
ばしやうじよがふはたゞくもをしのぐ、
陳孔章詞空愈病。馬相如賦只凌雲。
題英明集 橘在列
ぞうしやくのしんおんはめいをいしにきざみ、
くわくりんこうしふはよゝきうをしる、
贈爵新恩銘刻石。獲麟後集世知丘。
過菅丞相廟拝安楽寺 大江以言
古今
いつはりのなきよなりせばいかばかり
ひとのことのはうれしからまし
読人不知
新豊酒色。清冷於鸚鵡之盃中。
長楽歌声。幽咽於鳳凰之管裏。
送友人帰大梁賦 公乗億
しんのけんゐしやうぐんりうはくりんは、
さけをたしなみてしゆとくのしやうをつくりよにつたふ、
たうのたいしのひんかくはくらくてんも、
またさけをたしなみしゆこうのさんをつくり、もつてこれにつぐ、
また
晋建威将軍劉伯倫嗜酒。作酒徳頌伝於世。
唐太子賓客白楽天亦嗜酒。作酒功讚以継之。
酒功賛序 白居易
かぜにのぞめるせうしうのき、
さけにたいするちやうねんのひと、
ゑへるかほはさうえふのごとし、
くれなゐといへどもこれはるならず、
臨風抄秋樹。対酒長年人。酔貎如霜葉。雖紅不是春。
酔中対紅葉 同
せいけいなげうちきたるしこれげふたり、
かゑんばうきやくしてさけをきやうとなす、
生計抛来詩是業。家園忘却酒為郷。
送蕭処士遊黔南 同
ちやはよくもんをさんずれどもこうをなすことあさし、
けんはうれひをわするといへどもちからをうることかすかなり、
茶能散悶為功浅。萱噵忘憂得力微。
賞酒之詩 同
もしえいきをしてかねてゑひをげせしめば、
まさにしらくといふべしみつとはいはじ、
もし
まさに
若使栄期兼解酔。応言四楽不言三。
すゐきやうしのくには、
しいじひとりおんくわのてんにほこり、
しゆせんぐんのたみは、
いつけういまだごいんのちをしらず、
酔郷氏之国。四時独誇温和之天。
酒泉郡之民。一頃未知沍陰之地。
煖寒従飲酒詩序 大江匡衡
このみすなはちじやうりんゑんのけんずるところ、
ふくめばおのづからきゆ、
さけはこれかじやくそんのつたふるところ、
かたむくればはなはだびなり、
菓則上林苑之所献。含自消。酒是下若村之所伝。傾甚美。
内宴詩序 大江朝綱
まづげんせきにあひてきやうだうとなし、
やうやくりうれいにつきてどふうをとふ、
先逢阮籍為郷導。漸就劉伶問土風。
入酔郷贈納言 橘相公
さとはけんとくにとなりてかうほにあらず、
さかひはむかにせつしてすなはちざばうす、
邑隣建徳非行歩。境接無何便坐亡。
同前後中書王
わうせきがさとのかすみはなみをめぐりてもろく、
けいかうがやまのゆきはながれをおひてとぶ、
王勣郷霞繞浪脆。嵆康山雪逐流飛。
酔看落水花 慶滋保胤
拾遺
ありあけのここちこそすれさかづきの
ひかりもそひていでぬとおもへば
大中臣能宣
まゆずみのいろははるかにさうかいのうへにのぞみ、
いづみのこゑははるかにはくうんのうちにおつ、
黛色迥臨蒼海上。泉声遥落白雲中。
題百丈山 賀蘭暹
しようちはもとよりさだまれるあるじなし、
おほむねやまはやまをあいするひとにぞくす、
おほむね
勝地本来無定主。大都山属愛山人。
遊雲居寺贈穆三十六地主 白居易
よるのつるねむりおどろきしようげつさやかなり、
あかつきむさゝびとびおちてかふえんさむし、
夜鶴眠驚松月苦。暁鼯飛落峡煙寒。
題遥嶺暮烟 都在中
ぐわんせんなげうちきたりてせいたいあらはれ、
らゐまきしりぞけてすいへいあきらかなり、
紈扇抛来青黛露。羅帷巻却翠屏明。
遠山暮烟歛 具平親王
しゆうらいあかつきおこりてはやしのいたゞきおいたり、
ぐんげんくれにたゝきてたにのそこさむし、
衆籟暁興林頂老。群源暮叩谷心寒。
秋声多在山 大江以言
拾遺
なのみしてやまはみかさもなかりけり
あさひゆふひのさすにまかせて
紀貫之
拾遺
くものゐるこしのしらやまおいにけり
おほくのとしの雪つもりつつ
壬生忠見
拾遺
みわたせばまつの葉しろきよしのやま
いく世つもれるゆきにかあるらん
平兼盛
たいさんはどじやうをゆづらず、
ゆゑによくそのたかきことをなし、
かかいはさいりうをいとはず、
ゆゑによくそのふかきことをなす、
泰山不譲土壌。故能成其高。河海不厭細流。故能成其深。
上秦王書 李斯
はゑんひとたびさけびて
ふねをめいげつかうのほとりにとゞめ、
こばたちまちにいばえて
みちをくわうさせきのうちにうしなふ、
巴猿一叫停舟於明月峡之辺。
胡馬忽嘶失路於黄沙磧之裏。
愁賦 公乗徳
ひをさへぎるぼさんはあをくしてぞく〳〵たり、
てんをひたすしうすゐはしろくしてばう〳〵たり、
礙日暮山青簇々。浸天秋水白茫々。
登西楼憶行簡 白居易
ぎよしうのひのかげはさむくしてなみをやき、
えきろのすゞのこゑはよるやまをすぐ、
漁舟火影寒焼浪。駅路鈴声夜過山。
秋夜宿臨江駅 杜荀鶴
やまはびやうぶににこうはたかむしろににたり、
ふなばたをたゝきてらいわうすつきのあきらかなるうち、
山似屏風江似簟。叩舷来往月明中。
劉禹錫
さうもくふそたり、
はるのかぜさんぎのかみをくしけづり、
ぎよべついうぎす、
あきのみづかはくのたみをやしなふ、
草木扶疎。春風梳山祇之髪。魚鼈遊戯。秋水養河伯之民。
山水策 大江澄明
かんかうひとりゆくすみか、
くわやくもとのごとし、
はんれいへんしうのとまり、
えんぱこれあらたなり
韓康独往之栖。花薬如旧。范蠡扁舟之泊。煙波惟新。
同 大江澄明
やままたやま、いづれのたくみかせいがんのかたちをけづりなせる、
みづまたみづ、たれがいへにかへきたんのいろをそめいだせる
山復山。何工削成青巌之形。
水復水。誰家染出碧澗之色。
同 大江澄明
さんいうのゑんじゆはくものひらくるところ、
かいがんのこそんはひのはるゝとき、
山郵遠樹雲開処。海岸孤村日霽時。
春日送別 橘直幹
やまはきやうはいをなすしややうのうち、
みづはくわいりうににたりじんらいのあひだ、
山成向背斜陽裏。水似廻流迅瀬間。
春日山居 大江朝綱
拾遺
神なびのみむろのきしやくづるらん
たつたの川の水のにごれる
高向草春
へんじやうのぼくばしきりにいばふ、
へいさびやうびやうたり、
かうろのせいはんこと〴〵くさる、
ゑんがんさうさうたり、
辺城之牧馬連嘶。平沙眇々。
江路之征帆尽去。遠岸蒼々。
暁賦 謝観
しふはかんばしくしてとじやくなかごをぬきいでゝちやうぜり、
すなはあたゝかにしてゑんあうつばさをしきてねむる、
州芳杜若抽心長。沙暖鴛鴦敷翅眠。
楽府、昆明春水満詩 白居易
ほひらきてはせいさうこのうちにさり、
ころもうるほひてはくわうばいうのうちにゆく、
帆開青草湖中去。衣湿黄梅雨裏行。
送客之湖南 白居易
すゐえきのみちはじてんのつきをうがち、
くわせんのさをはぢよこのはるにいる、
水駅路穿児店月。華船棹入女湖春。
送劉郎中赴任蘇州 白居易
ころのひさごははるのこまやかなるさけをくみ、
さくばうのふねはよるのみなぎるなだにながる、
菰蘆杓酌春濃酒。舴艋舟流夜漲灘。
贈戯漁家 杜荀鶴
かんきよはたれびとにかぞくする、
ししいでんのほんしゆなり、
しうすゐはいづれのところにかみる、
すざくゐんのしんかなり、
閑居属於誰人。紫宸殿之本主也。
秋水見於何処。朱雀院之新家也。
閑居楽秋水序 菅原道真
つりをたるゝものはうををえず、
あんにふいうのこゝろあることをおもひ、
さををうつすものはたゞかりをきく、
はるかにりよしゆくのときにしたがふことをかんず、
垂釣者不得魚。暗思浮遊之有意。
移棹者唯聞雁。遥感旅宿之随時。
同 菅原道真
さとうにいんをきざむかもめのあそぶところ、
すゐていにしよをうつすかりのわたるとき、
沙頭刻印鴎遊処。水底模書鴈度時。
題洞庭湖 大江朝綱
につきやくなみたひらかにしてこたうくれ、
ふうとうきしとほくしてきやくはんさむし、
日脚波平孤嶋暮。風頭岸遠客帆寒。
海浜書懐 平佐幹
古今
としをへて花のかがみとなるみづは
ちりかかるをやくもるといふらん
伊勢
詞華
みなかみのさだめてければ君がよに
ふたたびすめるほり川のみづ
曽禰好忠
ほうちのこうめんにはしんしうのつき、
りようけつのぜんとうにははくぼのやま、
鳳地後面新秋月。龍闕前頭薄暮山。
題東北旧院小寄亭 白居易
しうげつたかくかゝれりくうへきのほか、
せんらうしづかにもてあそぶきんゐのあひだ、
秋月高懸空碧外。仙郎静翫禁闈間。
八月十五日夜聞崔大員外林翰林独直対酒翫月因懐禁中清景 同
さんぜんのせんにんはたれかきくことをえん、
がんげんでんのすみのくわんげんのこゑ、
三千仙人誰得聴。含元殿角管絃声。
及弟日報破東平 章孝標
けいじんあかつきにとなふる、
こゑめいわうのねむりをおどろかす、
ふしようよるなる、
ひゞきあんてんのききにてつす、
鶏人暁唱。声驚明王之眠。鳧鐘夜鳴。響徹暗天之聴。
漏刻策 都良香
てうこうひたかくしてかんむりのひたひぬけたり、
やかうすなあつくしてくつのこゑいそがはし、
連句 作者未詳
家集
みかき守衛士のたくひにあらねども
われもこころのうちにこそたけ
中務
拾遺
ここにだにひかりさやけきあきの月
雲のうへこそおもひやらるれ
藤原経臣
りよくさうはいまびろくのその、
こうくわはさだめてむかしのくわんげんのいへならん、
緑草如今麋鹿苑。紅花定昔管絃家。
過平城古京 菅原文時
新古今
いそのかみふるきみやこをきてみれば
むかしかざしし花さきにけり
読人不知
いんしんたるこりうそくわい、
はるにしてはるのいろなし、
くわくらくたるきようくわいう、
あきにしてあきのこゑあり、
陰森古柳疎槐。春無春色。獲落危牖壊宇。秋有秋声。連昌宮賦 公乗億
うてなかたむきてはくわつせきなほみぎりにのこれり、
すだれたえてはしんじゆこうにみたず、
台傾滑石猶残砌。簾断真珠不満鉤。
題于家公主雋宅 白居易
きやうごほろびてけいきよくあり、
こそだいのつゆじやうじやうたり、
ばうしんおとろへてこらうなし、
かんやうきうのけむりへん〳〵たり、
強呉滅兮有荊蕀。姑蘇台之露瀼々
暴秦衰兮無虎狼。咸陽宮之煙片々。
河原院賦 源順
らうかくはもとよりせんどうののりもの、
かんうんはむかしのぎろうのころも、
老鶴従来仙洞駕。寒雲在昔妓楼衣。
嵯峨旧院即事 菅原道真
こくわつゆをつつんでざんぷんになき、
ぼてうかぜにすみてはいりをまもる、
孤花裹露啼残粉。暮鳥栖風守廃籬。
題后妃旧院 良岑春道
くわうりにつゆをみればしうらんなき、
しんどうにかぜをきけばらうくわいかなしむ、
荒籬見露秋蘭泣。深洞聞風老桧悲。
秋日過仁和寺 源英明
くれになん〳〵としてすだれのほとりにはくろをしやうじ、
よもすがらとこのもとにせいてんをみる、
向晩簾頭生白露。終霄床底見青天。
屋舎壊 三善宰相
古今六帖
きみなくてあれたるやどの板間より
月のもるにも袖はぬれけり
読人不知
古今
きみなくてけぶりたえにししほがまの
うらさびしくもみえわたるかな
紀貫之
家集
いにしへはちるをや人のをしみけん
いまははなこそむかしこふらし
一条摂政
こちうのてんちはけんこんのほか、
むりのしんめいはたんぼのあひだ、
壺中天地乾坤外。夢裏身名旦暮間。
幽栖 元稹
やくろにひありてたんまさにふくすべし、
うんたいにひとなくしてみづおのづからうすづく、
薬炉有火丹応伏。雲碓無人水自舂。
尋郭道士不遇 白居易
やまのもとにわらびをとればくもいとはず、ほらのうちにきをううればつるまづしる、
山底採薇雲不厭。洞中栽樹鶴先知。
卜山居 温庭筠
さんこにくもうかぶ、
しちばんりのみちになみをわかつ、
ごじやうにかすみそばだち、
じふにろうのかまへてんをさしはさむ、
三壺雲浮。七万里之程分浪。五城霞峙。十二楼之構挿天。
神仙策 都良香
きけんはなにほゆるこゑ、
こうたうのうらにながる、
きやうふうはをふるふか、
しけいのはやしにわかる、
奇犬吠花。声流於紅桃之浦。驚風振葉香。分紫桂之林。
同 都良香
あやまちてせんかにいりてはんにちのきやくとなるといへども、
おそらくはきうりにかへりてわづかにしちせいのまごにあはん、
謬入仙家雖為半日之客。恐帰旧里纔逢七世之孫。
二条院宴落花乱舞衣序 大江朝綱
たんさうみちなりてせんしつしづかに、
さんちゆうのけいしよくげつくわたれたり、
丹竃道成仙室静。山中景色月華低。
山中有仙室 菅原文時
せきしやうほらにとゞまりてあらしむなしくはらひ、
ぎよくあんはやしになげうたれてとりひとりなく、
石床留洞嵐空払。玉案抛林鳥独啼。
同胸句也 菅原文時
たうりものいはずはるはいくたびかくれぬ、
えんかあとなくむかしたれかすみし、
桃李不言春幾暮。煙霞無跡昔誰栖。
同腰句也 菅原文時
わうけうひとたびさつてくもとこしなへにたえ、
いつかしやうのこゑのこけいにかへる、
王喬一去雲長断。早晩笙声帰故渓。
同結句也 菅原文時
しやうざんにつきおちてあきのびんしろく、
えいすゐになみあがりてひだりのみゝきよし、
商山月落秋鬚白。潁水波揚左耳清。
山中自述 大江朝綱
きうかんにこゑありてかんりうむせび、
こざんにぬしなくしてばんうんこなり、
虚澗有声寒溜咽。故山無主晩雲孤。
山無隠士 紀長谷雄
ゆめをとをしてよはふけぬらどうのつき、
あとをたづねてはるはくれぬりうもんのちり、
通夢夜深蘿洞月。尋蹤春暮柳門塵。
遠念賢士風 菅原文時
古今
ぬれてほす山路のきくの露のまに
いつかちとせをわれはへにけむ
素性法師
ゐあいじのかねはまくらをそばだてゝきき、
かうろほうのゆきはすだれをかゝげてみる、
遺愛寺鐘欹枕聴。香鑪峯雪巻簾看。
寺近香爐峰下 白居易
らんせうのはなのときのにしきのとばりのもと、
ろざんのあめのよるくさのいほりのうち、
蘭省花時錦帳下。廬山雨夜草菴中。
廬山草堂雨夜独宿 白居易
ぎよふのばんせんはうらをへだてゝつり、
ぼくどうのかんてきはうしによりてふく、
漁父晩船分浦釣。牧童寒笛倚牛吹。
登石壁水閣 杜荀鶴
わうしやうしよがれんふはうるはしきことはすなはちうるはし、
うらむらくはたゞこうがんのひんのみあることを、
けいちうさんがちくりんはいうなることはすなはちいうなり、
きらふらくはほとんどそろんのしにあらざることを、
王尚書之蓮府麗則麗。恨唯有紅顔之賓。
嵆仲散之竹林幽則幽。嫌殆非素論之士。
尚歯会詩序 菅原文時
みんなみにのぞめばすなはちくわんろのながきあり、
かうじんせいばすゐれんのもとにらくえきたり、
ひがしにかへりみればまたりんたうのたへなるあり、
しゑんはくおうしゆかんのまへにせうえうす、
南望則有関路之長。行人征馬駱駅於翠簾之下。
東顧亦有林塘之妙。紫鴛白鴎逍遥於朱檻之前。
秋花逐露開詩序 源順
さんろにひくれぬ、
みゝにみつるものはせうかぼくてきのこゑ、
かんこにとりかへり、
まなこをさへぎるものはちくえんしようぶのいろ、
山路日落。満耳者樵歌牧笛之声。
澗戸鳥帰。遮眼者竹煙松霧之色。
暮春遊覧賦序 紀斉名
はなのあひだにともをもとむればうぐいすことばをまじへ、
ほらのうちにいへをうつせばつるとなりをぼくす、
花間覓友鴬交語。洞裏移家鶴卜隣。
卜山居 紀長谷雄
はれしのちのせいざんはまどにのぞみてちかく、
あめのはじめのはくすゐはもんにいりてながる、
晴後青山臨牖近。雨初白水入門流。
田家之早秋 都良香
いしにふるるはるのくもはまくらのほとりにしやうじ、
みねにふくまれたるあかつきのつきはまどのうちよりいづ、
触石春雲生枕上。銜峯暁月出窓中。
春宿山寺
古今
やまざとは物のさびしきことこそあれ
よのうきよりはすみよかりけり
読人不知
古今
山ざとはふゆぞさびしさまさりける
人めもくさもかれぬとおもへば
源宗于
へきたんのせんとうはさうたうをぬきいんで、
せいらのくんたいはしんぽをのぶ、
碧毯線頭抽早稲。青羅裙帯展新蒲。
春題湖上 白居易
いへをまもるいつけんはひとをむかへてほゆ、
のにはなたれたるぐんぎうはこうしをひきてやすむ、
守家一犬迎人吠。放野群牛引犢休。
田家早秋 都良香
やしやくはばうじさうえふのつゆ、
さんけいはかふじつたうくわのかぜ、
野酌卯時桑葉露。山畦甲日稲花風。
田家秋意 紀斉名
せうさくたるそんぷうはふえをふくところ、
くわうりやうたるりんげつはころもをうつほど、
蕭索村風吹笛処。荒涼隣月擣衣程。
同 高相如
拾遺
はるの田をひとにまかせてわれはただ
花にこころをつくるころかな
斎宮内侍
家集
時すぎばさなへもいたくおいぬべし
あめにもたごはさはらざらなん
貫之
古今
きのふこそさなへとりしかいつのまに
いな葉そよぎてあきかぜのふく
読人不知或藤原敏行
めいげつはかうなりさんけいのよにどうず、
りやくやうはよろしくりやうかのはるとなるべし、
明月好同三径夜。緑楊宜作両家春。
与元八卜隣 白居易
ひとりみををはるまでにしば〳〵あひみるのみなるべけんや、
しそんはながくかきをへだつるひととならん、
可独終身数相見。子孫長作隔墻人。
同 白居易
いけのほとりのべつげふはこれなにびとぞ、
きくならくりくちやうむかしとなりをしむ、
池辺別業是何人。聞道陸張昔卜隣。
題隣家 菅原文時
まくらにおつるなみのこゑはきしをわかつゆめ、
すだれにあたるやなぎのいろはりやうかのはる、
落枕波声分岸夢。当簾柳色両家春。
同 菅原文時
はるのけむりはたがひにれんぜんのいろをゆづり、
あかつきのなみはひそかにちんじやうのこゑをわかつ、
春煙逓譲簾前色。暁浪潛分枕上声。
卜隣家 橘直幹
六帖
きみがやどわがやどわくるかきつばた
うつろはぬまにみむ人もがな
伊勢
せんちゆのまつのしたのさうほうのてら、
いちえふのふねのうちのばんりのみ、
千株松下双峯寺。一葉舟中万里身。
香山寺隠居 白居易
さらにぞくぶつのひとのまなこにあたるなし、
たゞせんせいのわがこゝろをあらふあり
たゞ
更無俗物当人眼。但有泉声洗我心。
宿霊岩寺上院 同
てうてんのもんをあらためず、
すなはちきうしやのところとなす、
えつすゐのはしをかへず、
もつてたうがんのみちとなす、
不改朝天之門。便作求車之所。
不変閲水之橋。以為到岸之途。
慈恩寺初会詩序 小野篁
うまにむちうちてきたるとき、
たゞふうえんのもてあそぶべきをおもふ、
そうにあひてかたるところ、
やうやくせぞくのみなくうなることをさとる、
たゞ
策馬来時。只思風煙之可翫。
逢僧談処。漸覚世俗之皆空。
遊円成寺上方序 源英明
ひとはてうろのくもをうがちていづるがごとく、
ちはこれりようもんみづををひてのぼる、
人如鳥路穿雲出。地是龍門趁水登。
遊龍門寺 菅原道真
さんぜんせかいはまなこのまへにつきぬ、
じふにいんえんはこころのうちにむなし、
三千世界眼前尽。十二因縁心裏空。
竹生島作 都良香
いづみとびてはあめしやうもんのゆめをあらひ、
はおちてはかぜしきさうのあきをふく、
泉飛雨洗声聞夢。葉落風吹色相秋。
石山寺作 高相如
拾遺
山でらのいりあひのかねのこゑごとに
けふもくれぬときくぞかなしき
読人不知
栄花物語
このもとをすみかとすればおのづから
はな見る人になりにけるかな
花山御製
つきちようざんにかくるればあふぎをあげてこれをさとす、
かぜたいきよにやめばきをうごかしてこれををしふ、
月隠重山兮挙扇喩之。風息大虚兮動樹教之。
止観第一文 智者大師
ねがはくはこんじやうせぞくのもんじのわざ、
くゐやうげんきごのあやまちをもつて、
ひるがへりてたうらいせい〳〵のさんぶつじようのいん、
てんぱふりんのえんとなせよ、
願以今生俗文字之業。狂言綺語之誤。
翻為当来世。讃仏乗之因転法輪之縁。
洛中集記 白居易
ひやくせんまんごふのぼだいのたね、
はちじふさんねんのくどくのはやし、
百千万劫菩提種。八十三年功徳林。
贈鉢塔院如満大師詩 白居易
じつぱうぶつどのなかには、
さいはうをもつてのぞみとなす、
くぼんれんだいのあひだには、
げぼんといへどもたりぬべし
十方仏土之中。以西方為望。九品蓮台之間。雖下品応足。
極楽寺建立願文 慶滋保胤
じふあくといへどもなほいんせふす、
しつぷうのうんむをひらくよりもはなはだし、
いちねんといへどもかならずかんおうすと、
これをこかいのけんろをいるるにたとふ、
これを
雖十悪兮猶引摂。甚於疾風披雲霧。
雖一念兮必感応。喩之巨海納涓露。
讃極楽寺 具平親王
むかしたうりてんのあんごくじふにち、
しやくせんだんをきざみてそんようをうつす、
いまばつだいかのめつどにせんねん、
しまごんをみがきてりやうそくをらいす、
昔忉利天之安居九十日。刻赤栴檀而模尊容。
昔忉利天之安居九十日。刻赤栴檀而模尊容。今抜提河之滅度二千年。瑩紫磨金而礼両足。
仁康上人奉造丈六釈迦願文 大江匡衡
なみはあらひてきえんとほつす、
ちくばにむちうちてかへりみず、
あめうちてやぶれやすし、
かいけいをたたかはしてながくわすれたり
浪洗欲消。鞭竹馬而不顧。
雨打易破。闘芥鶏而長忘。
経云乃至童子戯聚沙為仏塔詩序也 慶滋保胤
ごくらくのたふときをおもふいちや、
さんげつまさにまどかなり、
かうきよくのくわいにさきだつことさんてう、
とうくわおちなんとほつす、
念極楽之尊一夜。山月正円。
先勾曲之会三朝。洞花欲落。
勧学会詩序 紀斎名
ぎよくけいのこゑはくわんぐゑんをかなづるかとおもふ、
なふいのそうはきらのひとにかはる、
玉磬声思管絃奏。納衣僧代綺羅人。
九条右丞相花亭法華会詩序 小野篁
まなこのはちすはあにせいりやうのみづにやしなはれんや、
おもてのつきはながくじふごのてんにとゞめたり、
蓮眼豈養清涼水。面月長留十五天。
贈阿難尊者詩 紀斎名
ほとけのじんづうをもつていかでかくみつくさん、
そうぎこふをふともてうそうせしめんとほつす、
以仏神通那酌尽。経僧祇劫欲朝宗。
弘誓深如海詩 大江以言
こほりをたたきておひきたるかんこくのつき、
しもをはらひてひろひつくすぼさんのくも、
叩凍屓来寒谷月。払霜拾尽暮山雲。
採菓汲水詩 慶滋保胤
すでにをへていまだせんねんのやくをならはず、
はじめてあひがたきいちじようのもんをえたり、
已終未習千年役。初得難逢一乗文。
同前 同
このよにてぼだいのたねをうゑつれば
きみがひくべき身とぞなりぬる
九条左相府
新古今
あのくたら三みやく三ぼだいの仏たち
わがたつそまに冥加あらせたまへ
伝教大師
千載
ごくらくははるけきほどとききしかど
つとめていたるところなりけり
拾遺
いつしかと君にとおもひし若菜をば
のりの道にぞけふはつみつる
村上御製
さうばうたるむうのはるるはじめ、
かんていにさぎたてり、
ちようぢやうたるえんらんのたゆるところ、
ばんじそうかへる、
蒼茫霧雨之晴初。寒汀鷺立。重畳煙嵐之断処。晩寺僧帰。
閑居賦 張読
やじにそうをとひてかへるにつきをおぶ、
はうりんにかくをたづさへてえひてはなにねむる、
野寺訪僧帰帯月。芳林携客酔眠花。
逢醍醐一条寺僧正帰宗 源英明
だうにはぼぎあり、
もつてちうてんのつきにとうりうすることなかれ、
しつにはしせきあり、
もつてごだいのくもにえんそくすることなかれ、
もつて
もつて
堂有母儀。莫以逗留於中天之月。
室有師跡。莫以偃息於五台之雲。
餞入唐僧詩序 慶滋保胤
めいきやうたちまちにひらきてさかひにしたがひててらす、
はくうんつかずやまをおりきたる
明鏡乍開随境照。白雲不著下山来。
以僧智喩明鏡 小野篁
くうをくわんずるじやうりよはこゝろにつきをかく、
らうをおくるかうそうはかうべにしもをそる、
観空浄侶心懸月。送老高僧首剃霜。
夏日遊般若寺 源順
つるかんにしてつばさせんねんのゆきをかきつくろひ、
そうおいてはまゆにはちじのしもをたる、
鶴閑翅刷千年雪。僧老眉垂八字霜。
和于藤憲材之子登天台山什 源為憲
後撰
たらちねはかかれとてしもうば玉の
わがくろかみをなでずやありけん
僧正遍昭
拾遺
よの中にうしのくるまのなかりせば
おもひの家をいかでいでまし
読人不知
続古今
みわがはのきよきながれにすすぎてし
わが名をさらに又やけがさむ
玄賓僧都
ひとりとうとのりだうりに、
かんきよたいてきのおきなあるをきするのみならず、
またくわうたうたいわのとし、
りせいあんらくのこゑあることをしらしめんとなり、
不独記東都履道里有閑居泰適之叟。
亦令知皇唐大和歳有理世安楽之音。
洛詩序 白居易
きうしやひとたびさりて、
ろうだいのじふにとこしなへにむなし、
げきしおひがたく、
きらのさんぜんあんにおいたり、
宮車一去。楼台之十二空長。隙駟難追。綺羅之三千暗老。
閑賦 張読
いうしきはまらず、
しんかうにひとなきところ、
しうちやうたえんとほつす、
かんさうにつきあるとき、
幽思不窮。深巷無人之処。愁腸欲断。閑窓有月之時。
貧女賦 白居易
かくろうひらくるところくんしをみる、
しよけんののぶるときこじんにあふ、
鶴籠開処見君子。書巻展時逢故人。
出家不出門 同
にんげんのえいえうはいんえんあさし、
りんかのいうかんはきみふかし、
人間栄耀因縁浅。林下幽閑気味深。
老来生計 同
くわんとはこれよりこころにながくわかれん、
せじはいまよりくちにいはず、
官途自此心長別。世事従今口不言。
香爐峯下新卜山居 同
けいたいらい、
かざしをほくざんのきたにぬきんづ、
らんぜうけいせつ、
ふなばたをとうかいのひがしにたたく、
蕙帯蘿衣。抽簪於北山之北。蘭橈桂檝。鼓舷於東海之東。
落花乱舞衣詩序 大江音人
とふろうはわづかにかはらのいろをみる、
くわんおんじはただかねのこゑをきく、
都府楼纔看瓦色。観音寺只聴鐘声。
不出門 菅原道真
あとをくらましていまだたいけいのつきをなげうたず、
かまびすしきをさけてなほちくさうのかぜにふす、
晦跡未抛苔径月。避喧猶臥竹窓風。
奉同香爐峰下作 平佐幹
たうもんあとはたゆるはるのあしたのあめ、
えんしんいろはおとろふあきのよのしも、
陶門跡絶春朝雨。燕寝色衰秋夜霜。
閑中日月長 大江以言
古今
わがやどはみちもなきまであれにけり
つれなき人をまつとせしまに
遍昭僧正
かぜはくらうをひるがへせばはなせんべん、
かりせいてんにてんじてじいちぎやう、
風翻白浪花千片。雁点清天字一行。
江楼晩眺 白居易
しだつをいでてひがしにのぞめば、
さんがくなかばはうんこんのくらきにさしはさむ、
すゐれいをふみてにしにかへりみれば、
かきやうはこと〴〵くえんじゆのふかきにぼつす、
出紫闥而東望。山岳半挿雲根之暗。
躋翠嶺而西顧。家郷悉没煙樹之深。
山寒花未来披序 橘在列
てんだいさんのかうがんをみれば、
ししふごせきのなみしろく、
ちやうあんじやうのえんじゆをのぞめば、
ひやくせんまんけいのなづなあをし、
見天台山之高巌。四十五尺波白。
望長安城之遠樹。百千万茎薺青。
青色生晴中序 源順
こうかうらをへだててじんえんとほし、
こすゐてんにつらなりてかりのてんづることはるかなり、
江霞隔浦人煙遠。湖水連天鴈点遥。
遊崇福寺 橘直幹
いつかうのしやがんはうんたんにきえ、
にげつのよくわはやぐわいにとぶ、
一行斜雁雲端滅。二月余花野外飛。
春日眺望 源順
おいのまなこはまよひやすしざんうのうち、
はるのこゝろはつなぎがたしせきやうのまへ、
老眼易迷残雨裏。春情難繋夕陽前。
春日眺望 源順或菅原篤茂
古今
見わたせばやなぎさくらをこきまぜて
みやこぞはるのにしきなりける
素性法師
きみとこうくわいいづれのところかしらん、
わがためにこんてういつぱいをつくせ、
与君後会知何処。為我今朝尽一盃。
臨都駅送崔十八 白居易
ぜんとみちとほし、
おもひをがんざんのぼうんにはせ、
こうくわいときはるかなり、
えいをかうろのあかつきのなみだにうるほす、
前途程遠。馳思於鴈山之暮雲。
後会期遥。霑纓於鴻臚之暁涙。
於鴻臚館銭北客序 大江朝綱
むかしはたんてうをあつめて、
すんいんをじふごねんのあひだにきそひ、
いまはぐわいうをうながして、
てをさんびやくはいののちにわかたんとほつす、
昔聚丹鳥。競寸陰於十五年之間。
今促画熊。欲分手於三百盃之後。
山河千里別序 源順
やうきみちはなめらかにして、
われのひとをおくることたねん、
りもんなみはたかくして、
ひとのわれをおくらんこといづれのひぞ、
楊岐路滑。吾之送人多年。
李門浪高。人之送我何日。
別路花飛白詩序 大江以言
ばんりひがしにきたらんこといづれのさいじつぞ、
いつしやうにしのぞむこれながきものおもひなり、
万里東来何再日。一生西望是長襟。
餞別詩 小野篁
きうしのともしびはつきてたゞあかつきをきす、
いちえふのふねはとびてあきをまたず、
九枝燈尽唯期暁。一葉舟飛不待秋。
餞別詩 菅原庶幾
ふせいをもつてこうくわいをきせんとほつすれば、
かへりてせきくわのかぜにむかつてたたくことをかなしむ、
欲以浮生期後会。還悲石火向風敲。
和裴大使之什 菅原道真
後撰
おもひやるこころばかりはさはらじを
なにへだつらんみねのしら雲
橘直幹
家集
としごとのはるのわかれをあはれとも
人におくるるひとぞしりける
清原元真
古今
いのちだにこころにかなふものならば
なにかわかれのかなしからまし
江口白女
こくわんにやどるときかぜあめをおび、
ゑんぱんかへるところみづくもにつらなる、
孤館宿時風帯雨。遠帆帰処水連雲。
送李樹別詩 許渾
かう〳〵としてかさねてかう〳〵たり、
めいげつかふのあかつきのいろつきず、
べう〳〵としてまたべう〳〵たり、
ちやうふほのくれのこゑ)なほふかし、
行々重行々。明月峡之暁色不尽。
眇々復眇々。長風浦之暮声猶深。
山河千里別序 源順
あかつきちやうしようのほらにいれば、
がんせんむせびてれいゑんぎんず、
よるきよくほのなみにやどれば、
せいらんふきてかうげつひやゝかなり、
暁入長松之洞。巌泉咽嶺猿吟。
夜宿極浦之波。青嵐吹皓月冷。
別路江山遠序 藤原為雅
とこうのいうせんはかぜさだまりていで、
はとうのてきしよはひはれてみゆ、
渡口郵船風定出。波頭謫処日晴看。
将越謫処隠岐国 小野篁
しうろのよるのあめたきやうのなみだ、
がんりうのあきのかぜゑんさいのこゝろ、
州蘆夜雨他郷涙。岸柳秋風遠塞情。
秋宿駅館 橘直幹
さうはみちとほくしてくもせんり、
はくむやまふかくしてとりいつせい、
蒼波路遠雲千里。白霧山深鳥一声。
石山作 同
古今
ほの〴〵とあかしのうらのあさぎりに
しまかくれゆくふねをしぞ思ふ
柿本人丸
古今
わだのはらやそしまかけてこぎ出でぬと
人にはつげよあまのつりふね
小野篁
拾遺
たよりあらばいかでみやこへつげやらん
けふしらかはのせきはこえぬと
平兼盛
としたけてつねにかふしをおすにらうし、
よるさむくしてはじめてともにかうじんをまもる、
年長毎労推甲子。夜寒初共守庚申。
贈王山人 許渾
きいうとしをへてふゆのひすくなく、
かうしんよるなかばにしてあかつきのひかりおそし、
己酉年終冬日少。庚申夜半暁光遅。
庚申夜所懐 菅原道真
袖中抄
おきなかのえさるときなきつりふねは
あまやさきだつ魚やさきだつ
読人不知
いかでかは人にもとはんあやしきは
おもはぬなかのえさるまじきを
同
かんかうのさんじやくのつるぎは、
ゐながらしよこうをせいす、
ちやうりやうがいつくわんのしよは、
たちどころにしふにのぼる、
漢高三尺之剣。坐制諸侯。張良一巻之書。立登師傅。
後漢書文
かうさうがこうもんにくわいする、
こゝろをいちざのかくによす、
かんそがはいぐんにかへる、
おもひをしはうのかぜにいたましむ、
項荘之会鴻門。寄情於一座之客。
漢祖之帰沛郡。傷思於四方之風。
後漢書文
しかいのあんきはたなごころのうちにてらし、
はくわうのりらんはこゝろのうちにかけたり、
四海安危照掌内。百王理乱懸心中。
百錬鏡 白居易
さいはひにげうしゆんむゐのくわにあひて、
ぎくわうかうじやうのひととなることをえたり、
幸逢尭舜無為化。得作羲皇向上人。
讃太宗皇帝 同
せいくわうはおのづからちやうせいでんにましませば、
ほうらいわうぼがいへにむかはず、
聖皇自在長生殿。不向蓬莱王母家。
上陽春辞 楊衡
うつくしみはあきつしまのそとにながれ、
めぐみはつくばやまのかげよりもしげし、
ふちはへんじてせとなるこゑ、
せき〳〵としてくちをとづ、
いさごはちやうじていはほとなるしよう、
やう〳〵としてみゝにみてり、
仁流秋津州之外。恵茂筑波山之陰。
淵変作瀬之声。寂々閉口。
沙長為巌之頌。洋々満耳。
古今和歌集序 紀淑望
りやうげんのむかしあそび、
はるわうのつきやうやくおつ、
しうぼくのあらたなるくわい、
せいぼがくもかへらんとほつす、