公教要理説明/03-12

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第（だい）五十八課（くゎ）　痛　悔（つうくゎい）（一）

352●罪（つみ）を赦（ゆる）される為（ため）に最（もっと）も必要（ひつえう）な事（こと）は何（[た?な]に）でありますか

▲最（もっと）も必要（ひつえう）な事（こと）は痛悔（つうくゎい）と心（こゝろ）を改（あらた）める事（こと）であります。

最（もっと）も必要（ひつえう）

とは是非（ぜひ）なくてはならぬ事（こと）で従（したがっ）て他（た）の何事（なにごと）よりも大事（だいじ）な事（こと）を云（い）ふ、例令罪（たとひつみ）を告白（こくはく）しても司祭（しさい）は赦（ゆるし）を与（あた）へても、痛悔（つうくわい）なしには如何（どん）な小（ちい）さな罪（つみ）でも赦（ゆる）されず、終油（しゅうゆ）の秘跡（ひせき）を受（う）けても、一旦愈（いったんいよい）よ痛悔（つうかい）した上（うへ）でなければ罪（つみ）は赦（ゆる）されぬ。之（これ）に反（はん）して病気怪我等（べうきけがなど）の為（ため）に白状（はくぜう）が出来（でき）ぬ時（とき）でも痛悔（つうくわい）さへあれば赦（ゆるし）を得（え）られぬ事（こと）はない。斯（か）く痛悔（つうくわい）なき時（とき）は告白（こくはく）も司祭（しさい）の赦（ゆるし）も役（やく）に立（た）たぬ、却（かへ）って痛悔（つうくわい）一つで他（た）の事（こと）は補（おぎな）はれるから痛悔（つうくわい）は最（もっと）も必要（ひつえう）と云（い）はれる訳（わけ）である。

[下段]

心（こゝろ）を改（あらた）める

とはイエズス、キリストが「改心（かいしん）せぬならば皆亡（みなほろ）びるぞ」と度々仰（たびゞゝおっ）っしゃた改心（かいしん）、即（すなは）ち心（こゝろ）を入替（いれか）へる事（こと）である。

353●痛悔（つうくわい）とは何（なに）でありますか

▲痛悔（つうくわい）は己（おの）が罪（つみ）を一心（しん）に悲（かなし）み嫌（きら）ひ、今（いま）から之（これ）を犯（をか）さぬと決心（けっしん）する事（こと）であります。

痛悔（つうくわい）

の字（じ）は痛（いた）く悔（くや）むと云（い）ふ意味（いみ）で、俗（ぞく）に云（い）ふ後悔即（こうくわいすなは）ち後悔（あとくやみ）とは異（ちが）ふ、唯悔（たゞくや）むのみではなく、心（しん）から悔（くや）む事（こと）である。原語（げんご）はContritio（コントリチオ） (コンチリサン) と云（い）って、心砕（こころくだ）かれるとの意味（いみ）である。即（すなは）ち罪（つみ）を以（もっ）て固（かたま）った心（こゝろ）が微塵（みじん）に砕（くだ）かれるとの意味（いみ）である。然（さ）て痛悔（つうくわい）は二（ふたつ）の事（こと）を含（ふく）む、即（すなは）ち既往（きおう）を思（おも）っては是（これ）までの罪（つみ）を真（しん）に悔（くや）み嫌（きら）ふ事（こと）で、之（これ）を決心（けっしん）と云（い）ふ。此二事（このふたこと）が揃（そろ）はぬならば痛悔（つうくわい）にはならぬ。

354●上面（うはべ）ばかりで罪（つみ）を悔（くや）んで足（た）りますか

△足（た）りませぬ、心（こゝろ）の底（そこ）から罪（つみ）を悲（かなし）み嫌（きら）ひ、之（これ）を犯（をか）した事（こと）を真実（しんじつ）に口惜（くちをし）く思（おも）はねばなりませぬ。

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上面（うはべ）ばかり

とは外部（うはつら）、表向（おもてむき）、口（くち）ばかりでと云（い）ふ事（こと）であるが、是（これ）で足（た）らぬ事（こと）は申（まう）す迄（まで）もない。心（こゝろ）の底（そこ）から起（おこ）るのでなければ本当（ほんとう）の痛悔（つうくわい）ではない、假令涙（たとひなみだ）を流（なが）したからとて証拠（せうこ）には成（な）らぬ、実際最愛（じっさいゝゝあい）の天主（てんしゅ）に背（そむ）いたのが悲（かな）しい、実（じつ）に残念（ざんねん）であると思（おも）って心（こゝろ）を入替（いれか）へる決心（けっしん）がなければ、本当（ほんとう）の痛悔（つうくわい）でない、「痛悔（つうくわい）は真実（しんじつ）なるべし」と云（い）はれるのは其事（そのこと）である。

355●犯（をか）した大罪（だいざい）を一（ひと）つでも悔（くや）まぬ時（とき）は如何（いかゞ）

▲大罪（だいざい）一つも赦（ゆる）されませぬ。

一（ひと）つでも、

とあるは例（たと）へば十ある中（うち）に一は殊更（ことさら）に楽（たの）しかったので、其（それ）だけは悔（くや）み嫌（きら）ひ得（え）ず残念（ざんねん）と云（い）はれぬと云（い）ふ様（やう）な事（こと）である。大罪（だいざい）は其一々（そのひとつゝゝゝ）が天主（てんしゅ）を棄（す）て、イエズス、キリストを更（さら）に十字架（じか）に釘（つ）け奉（たてまつ）り、地獄（ぢごく）の罸（ばつ）を招（まね）く。故（ゆゑ）に大罪（だいざい）は一々（ひとつゝゝゝ）の上（うへ）に痛悔（つうくわい）が及（およ）ばなくてはならぬ。痛悔（つうくわい）の及（およ）ばぬ大罪（だいざい）は一（ひとつ）として赦（ゆる）されぬ。又一（またひとつ）でも痛悔（つうくわい）しない大罪（だいざい）があっては他（た）の総（すべ）ての大罪（だいざい）も赦（ゆる）されない。此故（このゆえ）に「痛悔（つうくわい）は一般（ぱん）なるべし」と云（い）はれるのである。

[下段]

（註（ちゅう））大罪（だいざい）を一（ひとつ）づゝに就（つ）いて痛悔（つうくわい）を起（おこ）さぬでも可（よ）い、唯犯（たゞおか）したのを残（のこ）らず痛悔（つうくわい）する筈（はず）である。大罪（だいざい）なくして小罪（せうざい）ばかりある時（とき）は、其小罪（そのせうざい）の一（ひとつ）に就（つ）いてなりとも痛悔（つうくわい）がないならば悔悛（くわいしゅん）の秘跡（ひせき）は無功（むこう）になる。然（さ）うならぬ為（ため）には痛悔（つうくわい）する以前（いぜん）の罪（つみ）でも告白（こくはく）に載（の）せるが可（よ）い。

356●世間（せけん）の罰或（ばつあるひ）は損害耻辱等（そんがいちじょくなど）に因（よ）って罪（つみ）を悲（かなし）めば赦（ゆる）されるに足（た）りますか

▲其（それ）では足（た）らず信仰上（しんかうぜう）の理由（わけ）を以（もっ）て痛悔（つうくわい）せねばなりませぬ。

世間（せけん）の罰（ばつ）。

例（たと）へば打（う）たれた。勘当（かんだう）を受（う）けた、罰金（ばっきん）を取（と）られた、懲役（てうえき）をさせられたと云（い）ふやうな事（こと）で、世間（せけん）で罸（ばっ）せられても、尚天主（なほてんしゅ）に背（そむ）いたので来世（らいせい）に罰（ばっ）せられる事（こと）は免（まぬが）れぬ。

耻辱（ちじょく）

とは耻（はずか）しめられる事（こと）で、例（たと）へば面目（めんぼく）を失（うしな）った、裁判（さいばん）で劣（ま）けた、新聞紙上（しんぶんしぜう）に耻（はぢ）を晒（さら）された等（など）の事（こと）である。

損害（そんがい）、

例（たと）へば道楽（だうらく）や酒（さけ）の為（ため）に病気（べうき）を起（おこ）した、身代（しんだい）を潰（つぶ）した、位階（ゐかい）や役目（やくめ）を奪（うば）はれた等（など）の事（こと）である。

世間（せけん）の罰（ばつ）、耻辱（ちじょく）、損害等（そんがいなど）は国家（こくか）の法律（はふりつ）、又（また）は社会（しゃくわい）の制裁（せいさい）に背（そむ）

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いた為（ため）に決（きま）った事（こと）であって、是（これ）で世間（せけん）の手前（てまへ）に罪（つみ）が消（き）えるにしても、天主（てんしゅ）に背（そむ）いた罪（つみ）は中々消（なかゝゝき）えず、其訳（そのわけ）を以（もっ）て悔（くや）んでも天主（てんしゅ）より赦（ゆる）されるに足（た）らぬ、公教要理（こうけうえうり）に其（そん）な痛悔（つうくわい）は超自然（てうしぜん）でないとあるのは其訳（そのわけ）である。信仰（しんかう）に因（よ）る地獄煉獄来世（じごくれんごくらいせ）の罰（ばつ）は殊更（ことさら）に罪（つみ）を避（さ）けさす為（ため）に天主（てんしゅ）より定（さだ）められたるものなれば之（これ）を怖（おそ）れて悔（くや）むには超自然的痛悔（てうしぜんてきつうくわい）と云（い）はれる。

357●如何（どん）な理由（わけ）を以（もっ）て罪（つみ）を痛悔（つうくわい）せねばなりませぬか

▲第（だい）一、罪（つみ）を以（もっ）て最（もっと）も愛（あい）すべき聖父（ちゝ）に背（そむ）き、又（また）イエズス、キリストを十字架（じか）に釘付（くぎつ）けて死（し）に至（いた）らしめた理由（わけ）。第（だい）二、終（をはり）なき幸（さいはひ）を失（うしな）ひ、終（をはり）なき苦（くるしみ）を受（う）ける理由等（わけなど）を以（もっ）て痛悔（つうくわい）せねばならぬ。

痛悔（つうくわい）を起（おこ）すに先（ま）ず心（しん）から祈（いの）って次（つぎ）のやうな事（こと）を考（かんが）へるが可（よ）い

第（だい）一、

最（もっと）も愛（あい）すべき聖父（ちゝ）に背（そむ）いた。

天主（てんしゅ）は万物（ばんぶつ）を造（つく）り且主宰（かつつかさど）り給（たま）ふに皆其命令通（みなそのめいれいどほり）を立派（りっぱ）に守（まも）って居（ゐ）る。

人間（にんげん）ばかり之（これ）に背（そむ）き、私（わたくし）も天主（てんしゅ）より造（つく）られて、有（も）った丈（だけ）の物（もの）は天主（てんしゅ）より戴（いたゞ）かぬものはない、髪毛（かみげ）一本（ぽん）も勝手（かって）にならず、生（いき）

[下段]

存（なが）らへるのも全（まった）く御恵（おんめぐみ）による外（ほか）はない、斯（かく）も愛（あい）すべく感謝（かんしゃ）すべく順（したが）ふべき御父（おんちゝ）に今（いま）まで背（そむ）き奉（たてまつ）った事（こと）は、如何（いか）にも反逆（はんぎゃく）と忘恩（ぼうおん）と厚（あつ）かましさの沙汰（さた）ではないか。嗚呼天（あゝてん）の父君罪（ちゝぎみつみ）は何程憎（どれほどにく）み嫌（きら）ふべきものかを我（われ）に覚（さと）らせ給（たま）へと返（かへ）すゞゝゝ願（ねが）はねばならぬ。

叉（また）イエズス、キリストを十字架（じか）に釘付（くぎつ）けて死（し）に至（いた）らしめた理由（わけ）。

十字架（じか）を手（て）に取（と）って或（あるひ）は下（した）に平伏（ひれふ）して、イエズス様（さま）の是（これ）に磔（はりつ）けられて苦（くるし）み給（たま）ふのを心（こゝろ）の目（め）を開（ひら）いて見（み）ながら思（おも）ひ観（み）よ十字架（じか）に掛（かゝ）り給（たま）ふのはそも何方（どなた）であるか、誰（たれ）の為（ため）に斯（こん）な酷（ひど）い目（め）に遇（あ）はされ給（たま）ふのか、御苦（おんくるしみ）は何程（どれほど）であるか、是（これ）を一々思遣（いちゝゝおもひや）って、私（わたし）は罪（つみ）を犯（をか）す度毎（たびごと）に其敵（そのてき）の仲間（なかま）に入（い）り、イエズス様（さま）を構（かま）はず無斬（むざん）に鞭（むちう）ち、御顔（みかほ）に唾（つばき）し、茨（いばら）を冠（かむ）せ、十字架（じか）を重（おも）くならせて、途中（とちう）で倒（たほ）し、御手足（おんてあし）に釘（くぎ）を打込（うちこ）み、御血（おんち）を流（なが）させ奉（たてまつ）るのではないか。夫（それ）で御足下（おんあしもと）に平伏（ひれふ）し、恥入（はぢい）り、嘆（なげ）き、心（こゝろ）からの吾罪（わがつみ）の御赦（おんゆるし）を願（ねが）ひ、聖母（せいぼ）マリアの御取次（おんとりつぎ）を求（もと）めて「嗚呼聖母（あゝせいぼ）よ、十字架（じか）に釘（くぎつ）けられ給（たま）へる御子（おんこ）の傷（きず）を我心（わがこゝろ）に深（ふかく）貫（つらぬ）かせ給（たま）へ」と祈（いの）るが可（よ）い。

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第（だい）二、

終（をはり）なき幸（さいはひ）を失（うしな）ひ。

私（わたし）は罪（つみ）を犯（をか）したから、天主（てんしゅ）を見奉（みたてまつ）る事（こと）が出来（でき）なくなる、即（すなは）ちイエズス、キリストの御苦（おんくるしみ）御血（おんち）を以（もっ）て儲（まう）けられた天国（てんごく）の幸福（さいはひ）を得（え）る事（こと）が出来（でき）なくなる。

思（おも）へば罪（つみ）は如何（いか）にも憎（にく）み嫌（きら）ひ 悲（かなし）むべきものではないか。

終（をはり）なき苦（くるしみ）を受（う）ける理由（わけ）。

私（わたし）は罪（つみ）の為（ため）に天主（てんしゅ）より棄（す）てられて、イエズス、キリストを苦（くる）しめた悪党（あくたう）、世界（せかい）の大罪人（だいざいにん）、悪魔（あくま）と共（とも）に終（をはり）なく苦（くるし）む筈（はず）であるが、イエズス、キリストは地獄（じごく）の苦（くるしみ）は火（ひ）であると仰（おっ）しゃって居（ゐ）る。我等（われら）は指先（ゆびさき）を一分間（ぷんかん）も火（ひ）の中（なか）に置（お）く事（こと）は耐（たま）らぬのに、終（をはり）なく火（ひ）の中（なか）に苦（くるし）むとは何（なん）と恐（おそ）ろしい事（こと）であろう、然（しか）し自（みづか）ら罪（つみ）を以（もっ）て天主（てんしゅ）を棄（す）て奉（たてまつ）るから、天主（てんしゅ）より棄（す）てられるのも当然（あたりまへ）で、私（わたし）こそ悪（わる）かった、本当（ほんたう）に恐（おそ）ろしくも亦残念（またざんねん）である。如何（どう）あっても赦（ゆる）して戴（いたゞ）いて、是（これ）からは罪（つみ）を犯（をか）さぬと決心（けっしん）すべきであらう。

等（など）

とあるは、出来（でき）る限（かぎ）り種々（いろゝ✓）の方面（はうめん）から罪（つみ）の憎（にく）み嫌（きら）ふべき事（こと）を考（かんが）へて、是非痛悔（ぜひつうくわい）の心（こゝろ）を起（おこ）さねばならぬとの意味（いみ）である。