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だい十三くわ 救 世きうせい (一)

81●イエズス、キリスト一切いっさい人間にんげんすくためとくなにたまふたか

イエズス、キリスト一切いっさい人間にんげんすくためくるしみ十字架じふじか釘付くぎづけられてたまふたのであります。

一切いっさい人間にんげんすくため

こゝ人間にんげんすくふとは、其罪そのつみかはり相当さうとうつぐのひさゝげて其赦そのゆるしさせ、をはりなき救霊たすかりいたらしめるとことであるが、イエズス、キリスト御受難ごじゅなん其目的そのもくてきであります。

くるしみけ。

御自分ごじぶんいさゝかつみなけれど、人間にんげん身代みがはりとして、種々さまゞゝくるしみもっ其罪そのつみあがなたまふたのであります。すう年以前ねんいぜんから予言者よげんしゃイザヤこれいて、いてりま

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した「かれ我等われらとがためきずつけられ、我等われら不義ふぎためくだかれ、みづかこらしめけて我等われら安和あんわあたへ、其打そのうたれたきずによって我等われらいやされた。皆羊みなひつじごとまよひ、各己おのゝゝおのみち踏込ふみこんだ、しかるに天主てんしゅみな不義ふぎかれはせたまふた」と(イザヤ書 五三。六、七)

十字架じふじか釘付くぎつけられ。

これ一番苦いちばんくるしい一番耻いちばんはずかしい死刑しけいでありまして、ほとん奴隷どれい大罪人だいざいにんかぎるものであった。

たまふた。

すなは犠牲ぎせいにして、生命せいめいたまふたのであります。まへからおっしゃってりました、「ふたゝこれため生命いのちてるが、たれこれわれよりうばものはない、われこそみづかこれてるのである。われこれてるのけんもあれば、叉再またふたゝこれるのけんをもってる」と(ヨ ハ ネ十。十七、十八)おもふに人間にんげん中一人うちひとりでもそんなにへるものがあらうか。

是皆これみな救贖きうしょく玄義げんぎ」とふもので、すなはイエズス・キリストひと身代みがはりり、苦死くしもっ人類じんるゐあがなたまふたと

[下段]

可思議かしぎ教理けうりであります。だい五十五のとひちゅうえる三番目さんばんめ玄義げんぎそれであります。

82●イエズス、キリストおもなるくるしみ如何どんことでありますか

イエズス、キリスト御心痛ごしんつうあまあせながし、罪人ざいにんごと裁判所さいばんしょかれ、むちうたれ、はずかしめられ、いばらかんむりかむらせられ、十字架じゅうじかになうてカルワリヨところのぼり、二人ふたり盗賊とうぞくあひだ釘刑はりつけにせられたまふた事等ことなどであります。イエズス、キリスト御苦おんくるしみまこと言尽いひつくされぬほどでありましたがその

おもなる

ものをへば、

御心痛ごしんつうあまり。

御心みこゝろ痛甚いたみひどくしてとの意味いみで、ゲッセマニそのうちって、(一)人間にんげんつみ引請ひきう大罪人だいざいにん状態ありさまびて非常ひぜうかなしみ、てんあふらず、聖父おんちち御前みまえ平伏ひれふして恐入おそれいり、(二)叉人間またにんげんからけるはずひどくるしみ一々知いちゝゝしって、人情にんぜうによってそれみ、(三)又其またそれほどくるしんでもおほくのひとっては無益むえきことうれへて

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あせなが

たまふた。ひとひど喫驚びっくりすれば冷汗ひやあせことがあるが、イエズスあせ地上ちぜうにまでながほどでありました。

罪人ざいにんごとく。

すなは縲縄なわめって、叉裁判またさいばんせぬでも有罪ゆうざいきまったものと同様どうやう

裁判所さいばんしょかれ。

夜中やちうながらもさき大司祭だいしさいアンナ(ス)やかたに、叉今またいま大司祭だいしさいカイファ(カヤファ)裁判所さいばんしょに、あさって総督そうとくピラト裁判所さいばんしょに、またガリレア(ガリラヤ)国王こくわうヘロデのたくに、叉再またふたゝピラト裁判所さいばんしょかれたまふた。

むちうたれ。

三尺計さんじゃくばかり石柱いしばしらしばられて、むちとげいた革紐かはひももっ無慙むざんむちうたれ、預言よげんとほ体中傷からだじゅうきずだらけにたまふた。

はずかしめられ。

おほはれてほゝたれ、たれったかとはれ、かほつばき吐掛はきかけられ、数時間嬲者すうじかんなぶりものられたまふた。

いばらかんむりかぶらせられ。

兵卒へいそついばら帽子ぼうしんで御頭みかしらかぶらせ、よし打込うちこみ、叉古またふるあか軍服ぐんぷくせ、よしたせて、舞台ぶたいわうのやうにあざけり、人民じんみん御覧物みせものとし

[下段]

た。

十字架じゅうじかになふて。

おも十字架じふじかみづかになたまふたが、これ耐兼たへかねるを兵卒等へいそつらシレネシモンひとひてイエズスあとになはせた。

カルワリヨところのぼり。

本当ほんとうゴルゴタカルワリヨ髑髏しゃれかうべ)とやくされたが、やまではない、髑髏見しゃれかうべみたやうな一寸小高ちょっとこだかところであった。

二人ふたり盗賊とうぞくあいだに。

すなは盗賊とうぞくよりも大罪人だいざいにんとのしるしに、真中まんなかかれたまふた。一人ひとりイエズスのゝしるのに、一人ひとりこれとがめ、またイエズスむかひ、「しゅ御国みくにいたったときわれおもたまへ」とまうしたれば、「今日我きょうわれとも楽園らくえんらう」とはれた。

釘刑はりつけにせられたまふた。

すなは手足てあし金釘かなくぎ十字架じふじか打付うちつけられたまふたが其通そのとほり十字架立じふじかたてられて、イエズス三時間さんじかん天地てんちあひだつるされ、御血滔然流おんちどっとながれ、罵詈ばりされるのに、てきためゆるしいのたまふたなど、尚沢山なほたくさんことがあって、謀叛むほん弟子でしからてきわたされ、ペトロから三度否さんどいなまれ、弟子でしからげられ、人殺ひとごろしバラバくらべられ

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て、ゆるしてはならぬものとせられ、衣服いふく鬮取くじどりにせられ、ませられたまなどしました。

ちゅうイエズス十字架じうじかうへのたまふたなゝつありがたい御言おことばあれど、初歩しょほえぬからこゝにもりゃくする。しかひとつだけ「かみよ、かみよ、なんわれたまふたか」とおっしゃったのはこと注意ちゅういすべきものであります。これてんにも打棄うちすてられたやうな心地こゝちからたものにせよ、旧約聖書きうやくせいしょだい二十一ぺんはじめことばであることわすれてはならぬ。其詩そのし二分にぶんわかたれるが、其第そのだい一は、非常ひぜうくるしものこゑとして、種々いろゝゝうちいてある、「すべわれものわれ嘲笑あざわらひ、くちびるそらし、かうべりてふ、かれしゅ依頼よりたのめり、主助しゅたすくべし……我手及わがておよ我足わがあし刺貫さしつらぬけり、我骨わがほねことゞゝかぞふるばかりにりぬ……彼等互かれらたがひ我衣わがころもわかち、我下着わがしたぎ鬮取くじとりにせり」とこれイエズス御苦おんくるしみ予言よげんではないか。叉次またつぎぶんたすけたる感謝かんしゃことばあって、たとへば「われしゅ御名みな我兄弟わがけうだい宣伝のべつたへ、くわいうちしゅ賞揚ほめあげんとす……大会だいくわいうちしゅ賞揚ほめあぐるは、しゅよりづるめぐみにして、ちかひしことことゞゝ

[下段]

まったうせん……はて皆思出みなおもひいでてしゅかへり、諸国しょこくやから皆御前みなみまへ伏拝むふしをがむべし……のちすゑしゅつかまつり、しゅこと子孫しそん語伝かたりつたへらるべし、人来ひときたりてしゅあらたなるたみかたらん、しゅ御業みわざたまひたるゆゑなり」などいてあれば、イエズス其初そのはじめことばとなたまふをもっ今目いまめてられぬ御自分ごじぶん状態ありさまと、さき御復活等ごふっかつなど光栄くわうえいとは、すう年前ねんぜんから予言よげんされたことおぼえさせたまふたのであります。

83●イエズス、キリスト斯程かほどくるしみけずともひとすくたまこと出来できなかったか

出来できことはなかった、何故なぜなればイエズス、キリスト天主てんしゅにてましませば、微少いさゝか所為わざでも其功徳そのくどくかぎりないからであります。ひと仕業しわざ価値ねうちは、なにより其資格そのしかくによります。おなわざるにも、国王こくわうたまふのと、つねひとるのとは、雲泥うんでいちがひである。……

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……わづ御血おんち一滴いってき御涙おんなみだ一垂ひとたらしで、十分じふぶんであった事疑ことうたがひない。

84●なんためにイエズス、キリストは斯程かほどくるしたまふたか

イエズス、キリスト斯程かほどくるしたまふたのは、ひとふかあいすることと、つみひどことと、救霊たすかり大切たいせつこととをさとためであります。

それおもみつわける。しかそれ唯我々ただわれゝゝって敎訓けうくんところであるが、イエズスたまふたことは、ことゞゝ御父おんちち光栄くわうえいためなれば、御受難ごじゅなんおもなるわけは、ひと天主てんしゅつやはず義務ぎむこと礼拝れいはい感謝かんしゃ誓願せいぐわん贖罪しょくざい不足ふそくおぎなひ、もっぱ天主てんしゅ光栄くわうえいせるためふが本当ほんとうである。これもっ叉他またゝみつことをしたまふた、すなはち、

[下段]

だい一、

ひとあいするのふかこと

イエズスかねて「朋友ともだちため生命いのちてるよりまさあいはない」と(ヨ ハ ネ十五。十三)おほせられたが、御自分ごじぶん朋友ともだちためどころでなく、てきためこと天主てんしゅたるものがいやしい人間にんげんためひとために、それほどくるしみあまんじたまふたのはなんふべきあいであらうか。これ人間にんげんあいらしいからではない、是非ぜひなくひとこゝろ天主てんしゅたいしてあいおこさせるためであります。天主てんしゅ御子おんこさへおしたまはずかくまで不肖ふぜうなる我等われらあいたまふたれば、我等われら無論義理むろんぎりためなりとも骨折ほねをりをしまず、つくし、あいもっあいむくたてまつるべきはずではないか。

だい二、

つみひどこと

悪魔あくまエワだましたとき天主てんしゅのやうにって善悪よしあしるであらう」とったが、ほん天主てんしゅでなければつみ何程酷どれほどひどいとことわかりませぬ。イエズスこそ御存ごぞんじでありまして、全身ぜんしんからのなみだもっこれなげげきらず其赦そのゆるしいのたまふたのである。つみひどことイエズス全体からだぢう御傷毎おんきずごと文字もんじもっいてありま

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す。これながめる度毎たびごと面々めんゝゝつみしからしめたものとおぼへて恐入おそれいり、つみ一心いっしんくやみ、叉犯またをかしてはあらたイエズスきづはせ、十字架じふじかはりつけると同様どうやうであることかんがへて、うあってもをかさぬやうにつとめ、をかしたつみをしまずつぐのはねばなりませぬ。

だい三、

救霊たすかり大切たいせつこと

救霊たすかりひとってなにより大切たいせつなもので、これればをはりなく天主てんしゅ見奉みたてまつり、天主てんしゅよりあいせられるはずなるに、これうしなへばをはりなくてられて、あがなはれた甲斐かひなく、取返とりかへし出来できぬ。それイエズスは「必要ひつえうことたっひとつ」と(ル カ十。四二)おっしゃって、これさせるためつくされるだけくるしみあまんじたまふたのであります。れど天主てんしゅあいしてこそ救霊たすかり事極こときまゆえ必竟天主ひっけうてんしゅたいするつとめひとつくさせ、御父おんちちほまれためである。

これ我等われら片時かたときわすれず、是非心ぜひこゝろ染込しみこませねばならぬ道理だうりであります。