公教要理説明/01-04

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第（だい）四課（くわ）　天　使（てんし）

26◯世（よ）に見（み）える物（もの）の外（ほか）に尚天主（なほてんしゅ）の造（つく）り給（たま）ふた者（もの）がないか

△有（あ）ります、天主（てんしゅ）は数多（おほく）の天使（てんし）を造（つく）り給（たま）ふたのであります

見（み）える物（もの）の外（ほか）、

即（すなは）ち日（ひ）、月（つき）、星（ほし）、木（き）、草（くさ）、獣（けだもの）、人間（にんげん）の外（ほか）に、見（み）えぬもの。

天使（てんし）

とは、天（てん）の使（つかひ）、天津使（あまつつかひ）、主（しゅ）の使（つかひ）とも云（い）ふ。

数多（あまた）

とは、天国（てんごく）の状態（ありさま）を幻（まぼろし）に見（み）せられた予言者（よげんしゃ）ダニエル天使（てんし）に就（つ）いて曰（いは）く「事（つか）へ奉（まつ）る者千々（ものせんゝゝ）、御前（みまへ）に侍（はべ）る者万々（ものまんゝゝ）あ

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ったと」と（ダニエル書七。十）。千々（せんゝゝ）とは百万（ひゃくまん）、万々（まんゝゝ）とは一億（いちおく）と云（い）ふ事（こと）であるが、沢山沢山（たくさんたくさん）と云（い）ふ意味（いみ）である。イエズス捕（とら）はれ給（たま）ふた時（とき）に「我（われ）は父（ちゝ）に求（もと）め得（え）ずと思（おも）ふか、父（ちゝ）は直（たゞち）に十二隊（たい）にも余（あま）る天使（てんし）を我（われ）に備（そな）へ給（たま）ふべし」と（マ　テ　オ二六。五三）仰（おっ）っしゃたが、其時（そのとき）の一隊（いったい）は凡六千人（およそろくせんにん）とすれば、切（せめ）て七万二千（しちまんにせん）の天使（てんし）の御話（おはなし）に成（な）る　天使（てんし）の数（かぞ）へられぬほど多（おほ）い事疑（ことうたがい）なし。

27◯天使（てんし）とは何（なん）であるか

△天使（てんし）は人（ひと）に優（すぐ）れて知恵（ちゑ）と能力（ちから）とを具（そな）へた霊（れい）であります。

天使（てんし）は霊（れい）

である。　　　

霊（れい）の事（こと）は第（だい）十四の問（とひ）に見（み）える。然（さ）りながら、天使（てんし）は人間（にんげん）の霊魂（れいこん）の如（ごと）く身体（しんたい）に合（あは）せられてないから、本当（ほんとう）に云（い）へば「純霊（じゅんれい）」即（すなは）ち雜（まじり）なく純粋（じゅんすゐ）の霊（れい）である其（それ）で人間（にんげん）よりも能（よ）く天主（てんしゅ）に似（に）たものであります。

人（ひと）に優（すぐ）れて知恵（ちゑ）と能力（ちから）とを具（そな）へた霊（れい）

とは、人（ひと）よりも知恵（ちゑ）と能力（ちから）とが多（おほ）いと云（い）ふ事（こと）。其（それ）で人（ひと）の知（し）らぬ事（こと）をも知（し）り、人（ひと）の出来（でき）ぬ事（こと）でも出来（でき）る。故（ゆゑ）に人間（にんげん）の及（およ）ばぬ不思議（ふしぎ）、即（すなは）ち奇跡（きせき）のやうなものが出来（でき）る。然（さ）りながら全（ぜん）

[下段]

知全能（ちぜんのう）ではないから、天主（てんしゅ）の如（ごと）き奇跡（きせき）、即（すなは）ち死人（しにん）を蘇（よみがへ）らするやうな事（こと）は出来（でき）ぬ。天主（てんしゅ）の為（な）し給（たま）ふ奇跡（きせき）よりは遥（はるか）に劣（おと）る。

（註（ちゅう））天使（てんし）を画（か）いた絵（ゑ）を見（み）た事（こと）ないか。翼（つばさ）の付（つ）いた麗（うるは）しい若者（わかもの）のやうに画（か）いてあるが、固（もと）より純霊（じゅんれい）であるから目（め）に掛（かゝ）る形（かたち）、况（まし）て絵（ゑ）に画（か）かれる形（かたち）の無（な）いのに、何（ど）うした訳（わけ）で其（そん）なに画（か）くか。是我々（これわれゝゝ）を教（をし）へる為（ため）、詮方（せんかた）なしに其（そん）な絵（ゑ）を画（か）くが、人（ひと）のやうに画（か）くのは、其形（そのかたち）を假（か）りて現（あらは）れた事（こと）があるからである。麗（うるは）しい若者（わかもの）のやうに画（か）くのは、年寄（としよ）る事（こと）なく、云（い）はれぬほど愛（あい）らしいからである。叉翼（またつばさ）を付（つ）けて描（ゑが）くのは、其通（そのとほり）に預言者等（よげんしゃたち）に見（み）えた事（こと）があるし、叉常（またつね）の人（ひと）ではなくて、飛（と）ぶ鳥（とり）よりも早（はや）く、何処（どこ）にでも天主（てんしゅ）の命（めい）を完（まった）うするとの表（しるし）である。

28●天使（てんし）は何（なに）を為（す）るか

△天使（てんし）は天国（てんごく）に在（あ）って恒（つね）に天主（てんしゅ）に奉仕（つか）へ、叉人間（またにんげん）を守護（しゅご）します。

其（それ）で三（みつ）の事（こと）に成（な）る、即（すなは）ち天使（てんし）は第（だい）一、天国（てんごく）に居（を）ります、第（だい）

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二、始終天主（しじゅうてんしゅ）に奉仕（つか）へます、第（だい）三、人間（にんげん）を守護（しゅご）します。

第（だい）一、第（だい）二十七の問（とひ）を解明（ときあか）す時（とき）に、天国（てんごく）は天主（てんしゅ）を見奉（みたてまつ）って、天主（てんしゅ）より愛（あい）せられ、終（をはり）なく楽（たのし）む所（ところ）と云（い）ひますが、天主（てんしゅ）を見（み）るのと之（これ）に愛（あい）せられるのとは、先（ま）づ天国（てんごく）の福楽（さいはひ）である天主（てんしゅ）の在（ましま）さぬ所（ところ）がないから何所（どこ）でも見（み）られます、見奉（みたてまつ）る者（もの）に取（と）っては天国（てんごく）である。天使（てんし）は其通（そのとほ）り、何処（どこ）に居（を）っても天主（てんしゅ）を見離（みはな）さず、天主（てんしゅ）より愛（あい）せられて終（をはり）なく楽（たのし）む故（ゆゑ）、何処（どこ）に居（を）るにしても天使（てんし）に取（と）っては

天国（てんごく）に居（を）る

のであります。

第（だい）二、天使（てんし）は

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31●天使（てんし）は皆善良者（みなよいもの）であるか

[下段]

▲天使（てんし）は皆善良者（みなよいもの）であったけれども、天主（てんしゅ）に背（そむ）いて地獄（ぢごく）に落（おと）された者（もの）が多（おほ）い、之（これ）を悪魔（あくま）と云（い）ひます。

何処（どこ）の国（くに）でも、何物（なにもの）か悪（あく）に固（かたま）って、人間（にんげん）に害（がい）する者（もの）があるとの話（はなし）があって、魔（ま）、悪魔（あくま）、悪鬼（あくき）、鬼（おに）、天狗等（てんぐなど）、種々（いろゝゝ）の名（な）を付（つ）けられてある。併（しか）しながら天主（てんしゅ）は固（もと）より悪（わる）い者（もの）を決（けっ）して造（つく）りなさるものではない、悪魔（あくま）でも原（もと）は

善良者（よいもの）、

即（すなは）ち天使（てんし）に造（つく）られた、悪（わる）く成（な）ったのは自分（じぶん）の過（あやまち）である。其過（そのあやまち）は何時（いつ）、何（ど）んな事（こと）とは聖書（せいしょ）に明（あきら）かに書（か）いて無（な）いから確（たしか）には知（し）れぬ。然（さ）れど人間（にんげん）の堕落（だらく）より前（さき）、叉純霊（またじゅんれい）であるから食物（しょくもつ）や肉欲（にくよく）の罪（つみ）でなくて、寧（むし）ろ傲慢（がうまん）の罪（つみ）であったらう。而（さう）して背（そむ）いた天使（てんし）の数（かず）も知（し）れず、三分（ぶん）の一と云（い）ふ人（ひと）あれど、然（さ）う迄（まで）は云（い）はれぬ、

多（おほ）い、

と云（い）はれるだけである。兎（と）も角（かく）イエズス、キリストの御言（みことば）によれば、

地獄（じごく）

の罰（ばつ）の備（そなは）ったのは、

悪魔（あくま）

と其（それ）に対（たい）する者（もの）の為（ため）である。矢張天使（やはりてんし）ながらも天主（てんしゅ）の御恩（ごおん）を知（し）らず、背（そむ）いた為（ため）に其赦（そのゆるし）を受（う）けず、其侭（そのまゝ）天主（てんしゅ）より棄（す）てられた訳（わけ）である。其（それ）でも本性（もちまへ）の知恵（ちゑ）と能力（ちから）とを失（うしな）はず、悪（あく）に固（かたま）って悪事（あくじ）の為（ため）に之（これ）を用（もち）ゐる者（もの）に成（な）ったの

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である。

32●悪魔（あくま）は何（なに）を為（す）るか

△悪魔（あくま）は天主（てんしゅ）を怨（うら）み、人（ひと）を悪（あく）に誘（いざな）ひます。悪魔（あくま）の為（す）る事（こと）は重（おも）に二（ふた）つ。

第（だい）一、

天主（てんしゅ）を怨（うら）む。

赦（ゆる）されなかった為（ため）か、無暗（むやみ）に天主（てんしゅ）を嫌（きら）って、人（ひと）を遠（とほ）ざらかせ、拝（をが）ませぬやうにする。叉狐（またきつね）とか狸（たぬき）とか河太郎（かはたろう）とか、種々（いろゝゝ）の名（な）の下（もと）に人（ひと）を驚（おどろか）し欺（あざむ）いて、自分（じぶん）が天主（てんしゅ）の代（かは）りに拝（をが）まれようと工夫（くふう）する。国（くに）によって名（な）と為方（しかた）とか幾何（いくら）か違（ちが）ふだけで、何処（どこ）も必竟同（つまりおな）じやうな趣（おもむき）である。

第（だい）二、

人（ひと）を悪（あく）に誘（いざな）ふ。

人間（にんげん）が罪（つみ）より救（すく）はれた為（ため）か、悪魔（あくま）が頻（しきり）に妬（ねた）み、種々企（いろゝゝくはだ）てゝ、遂（つひ）に自分（じぶん）と共（とも）に地獄（じごく）に陥（おとしい）れる為（ため）に罪（つみ）を犯（をか）させようとする、其（それ）を悪魔（あくま）の誘（いざなひ）と云（い）ひます。聖（せい）ペトロ曰（いは）く「汝等節制（なんぢらせっせい）（ヒカヘテ）して警戒（けいかい）（ヨウジン）せよ、其（そ）は汝等（なんぢら）の仇（あだ）たる悪魔（あくま）は吼（ほ）へる獅子（しゝ）の如（ごと）く、食尽（くいつく）すべきものを探（さが）しつゝ行巡（ゆきめぐ）るからである。………信仰（しんかう）を心（こゝろ）に堅（かた）めて之（これ）に抵抗（ていこう）せよ」と（ペトロ前書五。八、九）

[下段]

33●何故天主（なぜてんしゅ）は悪魔（あくま）の誘惑（いざなひ）を止（と）め給（たま）はぬか

△悪魔（あくま）の誘惑（いざなひ）は人（ひと）の自由（じゆう）を害（がい）する事出来（ことでき）ず、却（かへっ）て功（こう）を立（た）てる便（たより）と成（な）るからであります。

天主（てんしゅ）の全知全能（ぜんちぜんのう）の思召（おぼしめし）は、到底我々（たうていわれゝゝ）の浅知恵（あさぢゑ）を以（もっ）て計（はか）るべきものでなく、恭（うやゝゝ）しく之（これ）に帰服（くふく）する外（ほか）はない。併（しか）し考（かんが）へて見（み）れば、恐（おそろ）しいのは悪魔（あくま）と云（い）ふよりは、寧（むし）ろ悪魔（あくま）に近（ちか）づいて之（これ）に従（したが）ふ事（こと）である。悪魔（あくま）は幾（いく）ら吼（ほ）へる獅子（しゝ）の如（ごと）くであっても、繋（つな）がれたやうで、此方（こちら）から身（み）を任（まか）せぬならば噛付（かみつ）く事出来（ことでき）ぬ。幾（いく）ら誘（いざな）はれても、否（いや）とさへ云（い）へば其（それ）で足（た）る。聖（せい）パウロ曰（いは）く「神（かみ）は真実（しんじつ）にて在（ましま）せば、汝等（なんぢら）の力以上（ちからいぜう）に試（こゝろみ）られる事（こと）を許（ゆる）し給（たま）はず、却（かへっ）て堪（こら）へる事（こと）を得（え）させる為（ため）に、試（こゝろみ）と共（とも）に勝（か）つべき方法（はうはふ）をも賜（たま）ふべし」と（コリント前書十。十三）

人間（にんげん）には自由（じゆう）があるが、悪（わる）い事（こと）をしても宜（よ）いとの自由（じゆう）ではない、自（みづか）ら選（えら）んで善（よ）い事（こと）をする為（ため）の自由（じゆう）である。自由（じゆう）に託（かこつ）けて悪（わる）い事（こと）をするのは、「自由濫用（じゆうらんよう）」と云（い）って、自由（じゆう）を反対（あべこべ）に、濫（みだり）に用（もち）ゐる事（こと）である。流石（さすが）の悪魔（あくま）でも、決（けっ）して我々（われゝゝ）

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の

自由（じゆう）を害（がい）する事（こと）は出来（でき）ぬ。

幾（いく）ら罪（つみ）に誘（いざな）はれても、之（これ）に負（ま）けぬやうにすれば、却（かへっ）て天主（てんしゅ）の御前（みまへ）に功（てがら）と成（な）り、終（をはり）なき幸福（さいはひ）を得（え）る為（ため）に成（な）る。

悪魔（あくま）の誘惑（いざなひ）は却（かへっ）て功（いさお）を立（た）てる便（たより）と成（な）る

から、天主（てんしゅ）は之（これ）を止（と）め給（たま）はず、打勝（うちか）つ力（ちから）を祈（いの）れば必（かなら）ず与（あた）へ給（たま）ふのである。

（註（ちゅう））忘（わす）れるなよ、用心（ようじん）せず祈祷（いのり）を怠（おこた）って、悪魔（あくま）に負（まけ）るやうにするから、益（ますま）す弱（よわ）く成（な）って、終（つひ）に悪魔（あくま）の奴隷（どれい）と成（な）り、罪（つみ）を止（や）めたいと思（おも）っても、止（や）められなく成（な）る。何（ど）うか力（ちから）の足（た）らぬ所（ところ）を祈（いの）って、是非負（ぜひま）けぬ気（き）で励（はげ）みなさい。