児童虐待防止法

朕帝國議會ノ協贊ヲ經タル兒童虐待防止法ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム


御名御璽
昭和八年三月三十一日
內閣總理大臣  齋藤  實
內 務 大臣  山本 達雄

法律第四十號

兒童虐待防止法

第一條 本法ニ於テ兒童ト稱スルハ十四歲未滿ノ者ヲ謂フ


第二條 兒童ヲ保護スベキ責任アル者兒童ヲ虐待シ又ハ著シク其ノ監護ヲ怠リ因テ刑罰法令ニ觸レ又ハ觸ルル虞アル場合ニ於テハ地方長官ハ左ノ處分ヲ爲スコトヲ得

 兒童ヲ保護スベキ責任アル者ニ對シ訓誡ヲ加フルコト
 兒童ヲ保護スベキ責任アル者ニ對シ條件ヲ附シテ兒童ノ監護ヲ爲サシムルコト
 兒童ヲ保護スベキ責任アル者ヨリ兒童ヲ引取リ之ヲ其ノ親族其ノ他ノ私人ノ家庭又ハ適當ナル施設ニ委託スルコト
前項第三號ノ規定ニ依ル處分ヲ爲スベキ場合ニ於テ兒童ヲ保護スベキ責任アル者親權者又ハ後見人ニ非ザルトキハ地方長官ハ兒童ヲ親權者ニ引渡スベシ但シ親權者又ハ後見人ニ引渡スコト能ハザルトキ又ハ地方長官ニ於テ兒童保護ノ爲適當ナラズト認ムルトキハ此ノ限ニ在ラズ


第三條 地方長官ハ前條ノ規定ニ依ル處分ヲ爲シタル場合ニ於テ必要アリト認ムルトキハ兒童ガ十四歲ニ達シタル後ト雖モ一年ヲ經過スルマデ仍其ノ者ニ付前條ノ規定ニ依ル處分ヲ爲スコトヲ得


第四條 前二條ノ規定ニ依ル處分ノ爲必要ナル費用ハ敕令ノ定ムル所ニ依リ本人又ハ其ノ扶養義務者ノ負󠄁擔トス但シ費用ノ負󠄁擔ヲ爲シタル扶養義務者ハ民法第九百五十五條及第九百五十六條ノ規定ニ依リ扶養義務ヲ履行スベキ者ニ對シ求償ヲ爲スヲ妨ゲズ


第五條 前條ノ費用ハ道府縣ニ於テ一時之ヲ繰替支辯スベシ

前項ノ規定ニ依リ繰替支辯シタル費用ノ辯償金徵收ニ付テハ府縣稅徵收ノ例ニ依ル
本人又ハ其ノ扶養義務者依リ辯償ヲ得ザル費用ハ道府縣ノ負󠄁擔トス


第六條 國庫ハ敕令ノ定ムル所ニ依リ道府縣ノ負󠄁擔スル費用ニ對シ其ノ二分ノ一以內ヲ補助ス


第七條 地方長官ハ輕業、曲馬又ハ戶戶ニ就キ若ハ道路ニ於テ行フ諸藝ノ演出若ハ物品ノ販賣其ノ他ノ業務及行爲ニシテ兒童ノ虐待ニ涉リ又ハ之ヲ誘發スル虞アルモノニ付必要アリト認ムルトキハ兒童ヲ用フルコトヲ禁止シ又ハ制限スルコトヲ得

前項ノ業務及行爲ノ種類ハ主務大臣コレヲ定ム


第八條 地方長官ハ第二條若第三條ノ規定ニ依ル處分ヲ爲シ又ハ前條第一項ノ規定ニ依ル禁止若ハ制限ヲ爲ス爲必要アリト認ムルトキハ當該官吏又ハ吏員ヲシテ兒童ノ住所若ハ居所又ハ兒童ノ從業スル場所ニ立入リ必要ナル調査ヲ爲サシムルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ證票ヲ携帶セシムベシ


第九條 本法又ハ本法ニ基キテ發スル命令ノ規定ニ依リ地方長官ノ爲ス處分ニ不服アル者ハ主務大臣ニ請願スルコトヲ得


第十條 第七條第一項ノ規定ニ依ル禁止若ハ制限ニ違反シタル者ハ一年以下ノ懲役又ハ千圓以下ノ罰金ニ處ス

兒童ヲ使用スル者ハ兒童ノ年齡ヲ知ラザルノ故ヲ以ッテ前項ノ處罰ヲ免ルルコトヲ得ズ但シ過失ナカリシ場合ハ此ノ限リニ在ラズ


第十一條 正常ノ理由ナクシテ第八條ノ規定ニ依ル當該官吏又ハ吏員ノ職務執行ヲ拒ミ、妨ゲ若ハ忌避シ又ハ其ノ尋問ニ對シ答辯ヲ爲サズ若ハ虛僞ノ陳述ヲ爲シ又ハ兒童ヲシテ答辯ヲ爲サシメズ若ハ虛僞ノ陳述ヲ爲サシメタル者ハ五百圓以下ノ罰金ニ處ス


本法ノ施行ノ期日ハ敕令ヲ以テ之ヲ定ム

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  1. 法律命令及官公󠄁文󠄁書
  2. 新聞紙及定期刊行物ニ記載シタル雜報及政事上ノ論說若ハ時事ノ記事
  3. 公󠄁開セル裁判󠄁所󠄁、議會竝政談集會ニ於󠄁テ爲シタル演述󠄁

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