使徒行傳(明治元訳) 第十八章

Wikisource:宗教 > 聖書 > 明治元訳新約聖書 (明治37年) > 使徒行傳(明治元訳)

第十八章

1 此（この）後（のち）パウロはアテンスを離（はなれ）てコリントに至（いた）る
2 新近（ちかごろ）イタリヤより來（きた）れる者（もの）にてポントに生（うまれ）しアクラと名（なづく）るユダヤ人（びと）および其（その）妻（つま）プリスキラに遇（あひ）て其（その）所（もと）に至（いた）れり彼等（かれら）がイタリヤより來（きたり）しはクラウデヲ、ユダヤ人（びと）に盡（ことごと）くロマを離（され）と命（めい）ぜしに因（より）てなり
3 彼（かれ）その業（げふ）を同（おなじ）くするに由（より）て之（これ）と偕（とも）に止（とどま）りて工（わざ）を作（なし）ぬ其（その）業（げふ）は幕屋（まくや）を製（つく）る者（もの）なり
4 斯（かく）てパウロは安息日（あんそくにち）ごとに會堂（くわいだう）に於（おい）て論（ろん）じユダヤ人（びと）とギリシヤ人（びと）を勸（すすめ）たり
5 シラスとテモテ、マケドニヤより下（くだり）たる時（とき）パウロ、ユダヤ人（びと）に向（むかひ）てイエスのキリストなる事（こと）を證（あかし）し道（みち）を傳（つた）ふることに心（こころ）を凝（こら）し居（をれ）り
6 然（しか）るにユダヤ人（びと）は之（これ）に敵（さから）ひ且（かつ）誚（そしり）しに因（より）パウロ衣（ころも）を拂（ふるひ）て彼等（かれら）に曰（いひ）けるは爾曹（なんぢら）の血（ち）は爾曹（なんぢら）の首（かうべ）に歸（き）すべし我（われ）は咎（とが）なし今（いま）より異邦人（いはうじん）に適（ゆか）ん
7 遂（つひ）に此（ここ）を離（さり）てユストと云（いへ）る人（ひと）の家（いへ）にいる彼（かれ）は神（かみ）を敬（うやま）ふ者（もの）にて其（その）家（いへ）は會堂（くわいだう）に隣（とな）れり
8 會堂（くわいだう）の宰（つかさ）クリスポ及（および）その家族（かぞく）みな主（しゆ）を信（しん）ず又（また）コリント人（びと）にて道（みち）をきき信（しん）じてバプテスマを受（うけ）し者（もの）も多（おほか）りき
9 主（しゆ）或（ある）夜（よ）まぼろしにパウロに語（かたり）給（たま）ひけるは懼（おそ）るる勿（なか）れ默（もく）せずして語（かたる）べし
10 蓋（そは）われ爾（なんぢ）と偕（とも）にあれば爾（なんぢ）を害（がい）せんとて責（せむ）る者（もの）なし且（かつ）この邑（まち）に我（わが）おほくの民（たみ）あり
11 是（ここ）に於（おい）てパウロ一（いち）年（ねん）と六（ろく）ヶ月（かげつ）の間（あひだ）かれらの中（なか）に居（をり）て神（かみ）の道（みち）を教（をし）へたり

12 ガリヨ、アカヤの代官（だいくわん）たりし時（とき）ユダヤ人（びと）心（こころ）を合（あは）せてパウロを攻（せめ）かれを裁判所（さいばんしよ）に曳（ひき）來（きた）り
13 曰（いひ）けるは此（この）徒（ともがら）は律法（おきて）に背（そむき）て神（かみ）を拜（をがむ）ことを人（ひと）に勸（すすむ）る者（もの）なり
14 パウロ口（くち）を啓（ひらか）んとせし時（とき）ガリヨ、ユダヤ人（びと）に曰（いひ）けるはユダヤ人（びと）よ若（も）し不義（ふぎ）奸惡（かんあく）の事（こと）ならば我（わ）が爾曹（なんぢら）より聽（きく）は理（ことわり）なり
15 然（しかれ）ども若（も）し言語（ことば）あるひは名字（なのこと）および爾曹（なんぢら）の律法（おきて）の論（ろん）ならば爾曹（なんぢら）みづから之（これ）を理（をさむ）べし我（われ）かかる事（こと）の審士（さばきびと）たるを欲（このま）ず
16 斯（かく）て彼等（かれら）を裁判所（さいばんしよ）より逐（おひ）出（いだ）せり
17 是（ここ）に於（おい）て凡（すべて）のギリシヤ人（びと）會堂（くわいだう）の宰（つかさ）なるソステネを執（とら）へ裁判所（さいばんしよ）の前（まへ）にて杖（むち）扑（うて）りガリヨは更（さら）に此（この）事（こと）を意（い）とせざりき

18 パウロ此（この）處（ところ）になほ久（ひさし）く留（とどま）り後（のち）兄弟（きやうだい）に暇（いとま）を告（つげ）てプリスキラ及（および）アクラと偕（とも）に舟（ふね）にてスリヤに濟（わた）る彼（かれ）ケンクレアに在（あり）しとき誓願（せいぐわん）に因（より）て髮（かみ）を剪（それ）り
19 彼（かれ）エペソに至（いたり）て二人（ふたり）を其處（そこ）に留（とどめ）おき自（みづか）ら會堂（くわいだう）に入（いり）てユダヤ人（びと）と論（ろん）ぜり
20 衆人（ひとびと）彼（かれ）が久（ひさし）く偕（とも）に居（をら）んことを請（ねがひ）たれど肯（うけが）はずして
21 暇（いとま）を告（つげ）て曰（いひ）けるは我（われ）この來（きたら）んとする節（いはひ）を必（かなら）ずエルサレムに於（おい）て守（まもら）ざるを得（え）ず然（され）どもし神（かみ）許（ゆる）し給（たま）はば復（ふたた）び爾曹（なんぢら）に返（かへる）べしと遂（つひ）に舟出（ふなで）してエペソを去（さり）
22 カイザリヤにつき而（しか）してエルサレムに上（のぼ）り教會（けうくわい）の安否（あんぴ）を問（とひ）て後（のち）アンテオケに下（くだ）り
23 暫（しばら）く此（この）處（ところ）に住（をり）て又（また）出立（いでたち）ガラテヤ及（およ）びフルギヤの地（ち）を逐次（つぎつぎ）に經（へ）て凡（すべて）の弟子（でし）等（たち）を堅（かたう）せり

24 爰（ここ）にアレキサンデリアに生（うまれ）しユダヤ人（びと）にて辯才（べんさい）あり且（かつ）聖書（せいしよ）に達（たつ）したるアポロと名（なづく）る人（ひと）エペソに來（きた）れり
25 この人（ひと）夙（はやく）より主（しゆ）の道（みち）の教（をしへ）を受（うけ）かつ心（こころ）を熱（あつく）してイエスの事（こと）を詳細（つまびらか）に誨（をし）ふ然（され）ど惟（ただ）ヨハネのバプテスマを知（しれ）るのみ
26 かれ始（はじめ）て此（この）會堂（くわいだう）に於（おい）て憚（はばか）らず語（かた）りければプリスキラとアクラ之（これ）を聞（きき）て彼（かれ）を己（おの）が家（いへ）に招（まね）き神（かみ）の道（みち）を尚（なほ）も詳細（つまびらか）に説明（ときあか）せり
27 アポロ、アカヤに往（ゆか）んとせしかば兄弟（きやうだい）たち書（ふみ）を遺（おくり）て弟子（でし）等（たち）に彼（かれ）を接容（うけいれ）んことを勸（すすむ）かれ至（いたり）て既（すで）に恩（めぐみ）により信（しん）ぜし者（もの）を大（おほい）に助（たすけ）たり
28 蓋（そは）かれ聖書（せいしよ）を引（ひき）てイエスのキリストなる事（こと）を示（しめ）し人々（ひとびと）の前（まへ）にてユダヤ人（びと）を甚（いた）く辨折（いひふせ）たれば也（なり）