使徒行傳(明治元訳) 第十五章

Wikisource:宗教 > 聖書 > 明治元訳新約聖書 (明治37年) > 使徒行傳(明治元訳)

第十五章

1 ユダヤより下（くだり）し人々（ひとびと）兄弟（きやうだい）たちに教（をし）へけるは若（もし）なんぢらモーセの例（ならはし）に從（したが）ひて割禮（かつれい）を受（うけ）ずば救（すくは）るることを得（え）じ
2 之（これ）に由（より）てパウロとバルナバ大（おほい）に彼等（かれら）と爭（あらそ）ひ且（かつ）論（ろん）ぜしかば兄弟（きやうだい）等（たち）この事（こと）に就（つき）てパウロ、バルナバ及（および）その中（うち）の數人（すにん）をエルサレムに上（のぼら）せ使徒（しと）と長老（ちやうらう）等（たち）に遇（あは）しめん事（こと）を定（さだ）む
3 是（ここ）に於（おい）て彼等（かれら）教會（けうくわい）の人々（ひとびと）に送（おく）られ出（いで）ピニケおよびサマリアを經（へ）て異邦人（いはうじん）の神（かみ）に歸（き）せし事（こと）を具（つぶさ）に述（のべ）すべての兄弟（きやうだい）を大（おほい）に喜（よろこ）ばしめたり
4 彼等（かれら）エルサレムに至（いた）り教會（けうくわい）と使徒（しと）および長老（ちやうらう）たちに接（むかへ）られ己（おのれ）を助（たす）けて神（かみ）の行（なし）たまひし凡（すべて）の事（こと）を告（つげ）しに
5 パリサイ宗（しゆう）の中（うち）なる信者（しんじや）數人（すにん）たちて曰（いひ）けるは彼等（かれら）に必（かなら）ず割禮（かつれい）を施（ほどこ）し且（かつ）命（めい）じてモーセの例（おきて）を守（まもら）しむべし
6 使徒（しと）等（たち）および長老（ちやうらう）たち此（この）事（こと）を議（はから）ん爲（ため）に集（あつま）れり
7 茲（ここ）に多（おほく）の論（ろん）ありしがペテロ起（たち）て彼等（かれら）に曰（いひ）けるは人々（ひとびと）兄弟（きやうだい）よ久（ひさし）き先（さき）に神（かみ）われを爾曹（なんぢら）の中（うち）より選（えら）び福音（ふくいん）の道（ことば）を我（わが）口（くち）より異邦人（いはうじん）に聽（きか）せ彼等（かれら）をして之（これ）を信（しん）ぜしめ給（たまひ）しことは爾曹（なんぢら）の知（しる）ところ也（なり）
8 かつ人（ひと）の心（こころ）を知（しり）たまふ神（かみ）は我儕（われら）に聖靈（せいれい）を賜（あたへ）し如（ごと）く彼等（かれら）にも賜（あたへ）て其（その）證（あかし）をなし
9 又（また）信仰（しんかう）をもて其（その）心（こころ）を潔（きよ）め我儕（われら）と彼等（かれら）の間（あひだ）に分（わかち）を爲（なさ）ざりき
10 然（しか）るに今（いま）何故（なにゆゑ）我（われ）らの先祖（せんぞ）たちも我儕（われら）も負（おひ）あたはざる軛（くびき）を弟子（でし）等（たち）の頸（くび）に置（つけ）て神（かみ）を試（こころ）むる乎（や）
11 彼等（かれら）の救（すくは）るる如（ごと）く我儕（われら）も主（しゆ）イエス・キリストの恩（めぐみ）に由（より）て救（すくは）るることを信（しん）ずる也（なり）
12 是（ここ）に於（おい）て人々（ひとびと）みな默（もく）してバルナバとパウロが神（かみ）の己（おのれ）をもて異邦人（いはうじん）の中（うち）に行（おこな）ひ給（たま）へる休徴（しるし）と奇跡（ふしぎなるわざ）とを述（のぶ）るを聞（きけ）り
13 彼等（かれら）が言（いひ）畢（をは）りし後（のち）ヤコブ答（こたへ）て曰（いひ）けるは人々（ひとびと）兄弟（きやうだい）よ我（われ）に聞（きけ）
14 神（かみ）初（はじめ）て異邦人（いはうじん）を眷顧（かへりみ）その中（うち）より己（おの）が名（な）を崇（あがむ）る民（たみ）を取（とり）給（たま）ひし事（こと）はシモン既（すで）に之（これ）を述（のぶ）
15 預言者（よげんしや）の言（ことば）これと符（あへ）り其（その）書（ふみ）に
16 此（この）後（のち）われ反（かへり）て已（すで）に傾圯（たふれ）たるダビデの幕屋（まくや）を復（ふたた）び起（おこ）し其（その）破壞（くづれ）の跡（あと）を再（ふたた）び造（つくり）て之（これ）を建（たつ）べし
17 是（これ）その餘（のこり）の民（たみ）および凡（すべ）て我（わが）名（な）をもて稱（となへ）らるる異邦人（いはうじん）に主（しゆ）を尋（たづね）させん爲（ため）なり此（この）すべての事（こと）を行（おこな）ふ神（かみ）これを言（いふ）と録（しる）されたるが如（ごと）し
18 神（かみ）は世（よ）の始（はじめ）より其（その）すべての所作（わざ）を知（しり）たまへり
19 是（この）故（ゆゑ）に我（われ）おもふ異邦人（いはうじん）の中（うち）より神（かみ）に歸（き）する者（もの）を擾（わづらは）すは宜（よろし）からずと
20 然（しかれ）ども書（ふみ）を彼等（かれら）に遺（おくり）て偶像（ぐうざう）に汚（けがさ）れたる物（もの）と姦淫（かんいん）と勒（くびり）殺（ころし）たる物（もの）と血（ち）とを戒（いまし）むべし
21 そは古（いにしへ）より安息日（あんそくにち）ごとに會堂（くわいだう）にてモーセの書（ふみ）を讀（よむ）が故（ゆゑ）に其（それ）を宣（のぶ）るもの各邑（まちまち）にあれば也（なり）

22 是（ここ）に於（おい）て使徒（しと）および長老（ちやうらう）たち全會（ぜんくわい）と偕（とも）に其（その）中（うち）より人（ひと）を選（えら）び之（これ）をパウロ、バルナバと共（とも）にアンテオケに遣（つかは）さん事（こと）を定（さだむ）その選（えらば）れたる人（ひと）は兄弟（きやうだい）の中（うち）の尊者（おもきもの）すなはちバルサバと稱（よば）るるユダ及（および）シラスなり
23 彼等（かれら）の手（て）に托（よせ）て遺（おくり）し書（ふみ）に云（いは）く使徒（しと）長老（ちやうらう）及（およ）び兄弟（きやうだい）アンテオケ、スリヤ、キリキヤにをる異邦人（いはうじん）の兄弟（きやうだい）に安（やすき）を問（とふ）
24 我儕（われら）が命（めい）ぜざるもの我儕（われら）の中（うち）よりいで言（ことば）をもて爾曹（なんぢら）を擾（わづらは）し爾曹（なんぢら）の心（こころ）を亂（みだし）たりと聞（きく）
25-26 之（これ）に由（より）て我儕（われら）心（こころ）を同（おなじう）し人（ひと）を選（えらび）て我儕（われら）の愛（あい）するバルナバ、パウロと偕（とも）に遣（つかは）さんと定（さだむ）この二人（ふたり）は我儕（われら）の主（しゆ）イエス・キリストの名（な）の爲（ため）に其（その）命（いのち）をも愛（をしま）ざりし者（もの）なり
27 我儕（われら）ユダとシラスを遣（つかは）し彼等（かれら）の口（くち）より此（この）事（こと）を述（のべ）しめんとす
28 蓋（そは）(※1)聖靈（せいれい）と我儕（われら）と左（さ）の肝要（かんえう）なるものの外（ほか）は何（なに）をも爾曹（なんぢら）に任（おは）せじと定（さだめ）たり
29 即（すなは）ち偶像（ぐうざう）に獻（ささげ）し物（もの）と血（ち）と勒（くびり）殺（ころし）たる物（もの）と姦淫（かんいん）とを戒（いまし）むべし若（もし）これらの事（こと）を爾曹（なんぢら）みづから愼（つつし）まば善（よし）ねがはくは爾曹（なんぢら）健剛（すこやか）なれ
30 かれら遣（つかは）されてアンテオケに至（いた）り衆人（ひとびと）を集（あつめ）て此（この）書（ふみ）を付（わた）す
31 衆人（ひとびと）これを讀（よみ）その勸（すすめ）を受（うけ）て喜（よろこ）べり
32 ユダとシラスも亦（また）預言者（よげんしや）なれば多（おほく）の言（ことば）を以（も）て兄弟（きやうだい）を勸（すす）め彼等（かれら）を堅（かたう）せり
33 斯（かく）て二人（ふたり）の者（もの）暫（しばら）く彼處（かしこ）に止（とどま）り後（のち）兄弟（きやうだい）たちに安然（あんぜん）を祝（しく）され其（その）己（おのれ）を遣（つかは）しし者（もの）の所（もと）に送（おくら）れたり
34 パウロとバルナバはアンテオケに止（とどま）り其（その）餘（ほか）の多（おほく）の人（ひと）と共（とも）に教（をしへ）をなし主（しゆ）の道（ことば）を宣傳（のべつた）ふ

35 數日（すじつ）の後（のち）パウロ、バルナバに曰（いひ）けるは我儕（われら）さきに主（しゆ）の道（ことば）を宣（のべ）し所（ところ）の諸邑（まちまち）に復（また）ゆきて兄弟（きやうだい）の光景（ありさま）を率（いざ）とふべし
36 偖（さて）バルナバはマコと名（なづく）るヨハネを伴（ともな）はんと欲（おも）へり
37 然（しかれ）どもパウロは曩（さき）にパムフリアにて己（おのれ）より離（はな）れ役事（はたらき）のため共（とも）に往（ゆか）ざりし此（この）マコを伴（ともな）ふは宜（よか）らじと意（おもひ）しに因（より）
38 遂（つひ）に二人（ふたり）の中（なか）に激論（はげしきあらそひ）おこり相（あひ）別（わかれ）てバルナバはマコを伴（ともな）ひクプロに航（わた）れり
39 パウロはシラスを選（えら）び兄弟（きやうだい）より己（おのれ）を主（しゆ）の恩（めぐみ）に托（ゆだね）られて出立（いでたち）
40 スリヤ及（およ）びキリキヤを經（へ）て諸（しよ）教會（けうくわい）を堅（かたう）せり

※1 明治14(1881)年版では「蓋（そは）」→「そは」。