中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律

第一章 総則 編集

(目的)

第一条
この法律は、多様な事業の分野において特色ある事業活動を行い、多様な就業の機会を提供すること等により我が国の経済の基盤を形成している中小企業について、代表者の死亡等に起因する経営の承継がその事業活動の継続に影響を及ぼすことにかんがみ、遺留分に関し民法(明治二十九年法律第八十九号)の特例を定めるとともに、中小企業者が必要とする資金の供給の円滑化等の支援措置を講ずることにより、中小企業における経営の承継の円滑化を図り、もって中小企業の事業活動の継続に資することを目的とする。

(定義)

第二条
この法律において「中小企業者」とは、次の各号のいずれかに該当する者をいう。
一 資本金の額又は出資の総額が三億円以下の会社並びに常時使用する従業員の数が三百人以下の会社及び個人であって、製造業、建設業、運輸業その他の業種(次号から第四号までに掲げる業種及び第五号の政令で定める業種を除く。)に属する事業を主たる事業として営むもの
二 資本金の額又は出資の総額が一億円以下の会社並びに常時使用する従業員の数が百人以下の会社及び個人であって、卸売業(第五号の政令で定める業種を除く。)に属する事業を主たる事業として営むもの
三 資本金の額又は出資の総額が五千万円以下の会社並びに常時使用する従業員の数が百人以下の会社及び個人であって、サービス業(第五号の政令で定める業種を除く。)に属する事業を主たる事業として営むもの
四 資本金の額又は出資の総額が五千万円以下の会社並びに常時使用する従業員の数が五十人以下の会社及び個人であって、小売業(次号の政令で定める業種を除く。)に属する事業を主たる事業として営むもの
五 資本金の額又は出資の総額がその業種ごとに政令で定める金額以下の会社並びに常時使用する従業員の数がその業種ごとに政令で定める数以下の会社及び個人であって、その政令で定める業種に属する事業を主たる事業として営むもの

第二章 遺留分に関する民法の特例 編集

(定義)

第三条
  1. この章において「特例中小企業者」とは、中小企業者のうち、一定期間以上継続して事業を行っているものとして経済産業省令で定める要件に該当する会社(金融商品取引法(昭和二十三年法律第二十五号)第二条第十六項に規定する金融商品取引所に上場されている株式又は同法第六十七条の十一第一項の店頭売買有価証券登録原簿に登録されている株式を発行している株式会社を除く。)をいう。
  2. この章において「旧代表者」とは、特例中小企業者の代表者であった者(代表者である者を含む。)であって、その推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者のうち被相続人の兄弟姉妹及びこれらの者の子以外のものに限る。以下同じ。)のうち少なくとも一人に対して当該特例中小企業者の株式等(株式(株主総会において決議をすることができる事項の全部につき議決権を行使することができない株式を除く。)又は持分をいう。以下同じ。)の贈与をしたものをいう。
  3. この章において「後継者」とは、旧代表者の推定相続人のうち、当該旧代表者から当該特例中小企業者の株式等の贈与を受けた者又は当該贈与を受けた者から当該株式等を相続、遺贈若しくは贈与により取得した者であって、当該特例中小企業者の総株主(株主総会において決議をすることができる事項の全部につき議決権を行使することができない株主を除く。以下同じ。)又は総社員の議決権の過半数を有し、かつ、当該特例中小企業者の代表者であるものをいう。

(後継者が取得した株式等に関する遺留分の算定に係る合意等)

第四条
  1. 旧代表者の推定相続人は、そのうちの一人が後継者である場合には、その全員の合意をもって、書面により、次に掲げる内容の定めをすることができる。ただし、当該後継者が所有する当該特例中小企業者の株式等のうち当該定めに係るものを除いたものに係る議決権の数が総株主又は総社員の議決権の百分の五十を超える数となる場合は、この限りでない。
    一 当該後継者が当該旧代表者からの贈与又は当該贈与を受けた旧代表者の推定相続人からの相続、遺贈若しくは贈与により取得した当該特例中小企業者の株式等の全部又は一部について、その価額を遺留分を算定するための財産の価額に算入しないこと。
    二 前号に規定する株式等の全部又は一部について、遺留分を算定するための財産の価額に算入すべき価額を当該合意の時における価額(弁護士、弁護士法人、公認会計士(公認会計士法(昭和二十三年法律第百三号)第十六条の二第五項に規定する外国公認会計士を含む。)、監査法人、税理士又は税理士法人がその時における相当な価額として証明をしたものに限る。)とすること。
  2. 次に掲げる者は、前項第二号に規定する証明をすることができない。
    一 旧代表者
    二 後継者
    三 業務の停止の処分を受け、その停止の期間を経過しない者
    四 弁護士法人、監査法人又は税理士法人であって、その社員の半数以上が第一号又は第二号に掲げる者のいずれかに該当するもの
  3. 旧代表者の推定相続人は、第一項の規定による合意をする際に、併せて、その全員の合意をもって、書面により、次に掲げる場合に後継者以外の推定相続人がとることができる措置に関する定めをしなければならない。
    一 当該後継者が第一項の規定による合意の対象とした株式等を処分する行為をした場合
    二 旧代表者の生存中に当該後継者が当該特例中小企業者の代表者として経営に従事しなくなった場合

(後継者が取得した株式等以外の財産に関する遺留分の算定に係る合意等)

第五条
旧代表者の推定相続人は、前条第一項の規定による合意をする際に、併せて、その全員の合意をもって、書面により、後継者が当該旧代表者からの贈与又は当該贈与を受けた旧代表者の推定相続人からの相続、遺贈若しくは贈与により取得した財産(当該特例中小企業者の株式等を除く。)の全部又は一部について、その価額を遺留分を算定するための財産の価額に算入しない旨の定めをすることができる。

第六条

  1. 旧代表者の推定相続人が、第四条第一項の規定による合意をする際に、併せて、その全員の合意をもって、当該推定相続人間の衡平を図るための措置に関する定めをする場合においては、当該定めは、書面によってしなければならない。
  2. 旧代表者の推定相続人は、前項の規定による合意として、後継者以外の推定相続人が当該旧代表者からの贈与又は当該贈与を受けた旧代表者の推定相続人からの相続、遺贈若しくは贈与により取得した財産の全部又は一部について、その価額を遺留分を算定するための財産の価額に算入しない旨の定めをすることができる。

(経済産業大臣の確認)

第七条
  1. 第四条第一項の規定による合意(前二条の規定による合意をした場合にあっては、同項及び前二条の規定による合意。以下この条において同じ。)をした後継者は、次の各号のいずれにも該当することについて、経済産業大臣の確認を受けることができる。
    一 当該合意が当該特例中小企業者の経営の承継の円滑化を図るためにされたものであること。
    二 申請をした者が当該合意をした日において後継者であったこと。
    三 当該合意をした日において、当該後継者が所有する当該特例中小企業者の株式等のうち当該合意の対象とした株式等を除いたものに係る議決権の数が総株主又は総社員の議決権の百分の五十以下の数であったこと。
    四 第四条第三項の規定による合意をしていること。
  2. 前項の確認の申請は、経済産業省令で定めるところにより、第四条第一項の規定による合意をした日から一月以内に、次に掲げる書類を添付した申請書を経済産業大臣に提出してしなければならない。
    一 当該合意の当事者の全員の署名又は記名押印のある次に掲げる書面
    イ 当該合意に関する書面
    ロ 当該合意の当事者の全員が当該特例中小企業者の経営の承継の円滑化を図るために当該合意をした旨の記載がある書面
    二 第四条第一項第二号に掲げる内容の定めをした場合においては、同号に規定する証明を記載した書面
    三 前二号に掲げるもののほか、経済産業省令で定める書類
  3. 第四条第一項の規定による合意をした後継者が死亡したときは、その相続人は、第一項の確認を受けることができない。
  4. 経済産業大臣は、第一項の確認を受けた者について、偽りその他不正の手段によりその確認を受けたことが判明したときは、その確認を取り消すことができる。

(家庭裁判所の許可)

第八条
  1. 第四条第一項の規定による合意(第五条又は第六条第二項の規定による合意をした場合にあっては、第四条第一項及び第五条又は第六条第二項の規定による合意)は、前条第一項の確認を受けた者が当該確認を受けた日から一月以内にした申立てにより、家庭裁判所の許可を受けたときに限り、その効力を生ずる。
  2. 家庭裁判所は、前項に規定する合意が当事者の全員の真意に出たものであるとの心証を得なければ、これを許可することができない。
  3. 前条第一項の確認を受けた者が死亡したときは、その相続人は、第一項の許可を受けることができない。

(合意の効力)

第九条
  1. 前条第一項の許可があった場合には、民法第千二十九条第一項の規定及び同法第千四十四条において準用する同法第九百三条第一項の規定にかかわらず、第四条第一項第一号に掲げる内容の定めに係る株式等並びに第五条及び第六条第二項の規定による合意に係る財産の価額を遺留分を算定するための財産の価額に算入しないものとする。
  2. 前条第一項の許可があった場合における第四条第一項第二号に掲げる内容の定めに係る株式等について遺留分を算定するための財産の価額に算入すべき価額は、当該定めをした価額とする。
  3. 前二項の規定にかかわらず、前条第一項に規定する合意は、旧代表者がした遺贈及び贈与について、当該合意の当事者(民法第八百八十七条第二項(同条第三項において準用する場合を含む。)の規定により当該旧代表者の相続人となる者(次条第四号において「代襲者」という。)を含む。次条第三号において同じ。)以外の者に対してする減殺に影響を及ぼさない。

(合意の効力の消滅)

第十条
第八条第一項に規定する合意は、次に掲げる事由が生じたときは、その効力を失う。
一 第七条第一項の確認が取り消されたこと。
二 旧代表者の生存中に後継者が死亡し、又は後見開始若しくは保佐開始の審判を受けたこと。
三 当該合意の当事者以外の者が新たに旧代表者の推定相続人となったこと。
四 当該合意の当事者の代襲者が旧代表者の養子となったこと。

(家事審判法の適用)

第十一条
第八条第一項の許可は、家事審判法(昭和二十二年法律第百五十二号)の適用については、同法第九条第一項甲類に掲げる事項とみなす。

第三章 支援措置 編集

(経済産業大臣の認定)

第十二条
  1. 次の各号に掲げる者は、当該各号に該当することについて、経済産業大臣の認定を受けることができる。
    一 会社である中小企業者(金融商品取引法第二条第十六項に規定する金融商品取引所に上場されている株式又は同法第六十七条の十一第一項の店頭売買有価証券登録原簿に登録されている株式を発行している株式会社を除く。) 当該中小企業者における代表者の死亡等に起因する経営の承継に伴い、死亡したその代表者(代表者であった者を含む。)又は退任したその代表者の資産のうち当該中小企業者の事業の実施に不可欠なものを取得するために多額の費用を要することその他経済産業省令で定める事由が生じているため、当該中小企業者の事業活動の継続に支障が生じていると認められること。
    二 個人である中小企業者 他の個人である中小企業者の死亡等に起因する当該他の個人である中小企業者が営んでいた事業の経営の承継に伴い、当該他の個人である中小企業者の資産のうち当該個人である中小企業者の事業の実施に不可欠なものを取得するために多額の費用を要することその他経済産業省令で定める事由が生じているため、当該個人である中小企業者の事業活動の継続に支障が生じていると認められること。
  2. 前項の認定に関し必要な事項は、経済産業省令で定める。

中小企業信用保険法の特例)

第十三条
中小企業信用保険法(昭和二十五年法律第二百六十四号)第三条第一項に規定する普通保険、同法第三条の二第一項に規定する無担保保険又は同法第三条の三第一項に規定する特別小口保険の保険関係であって、経営承継関連保証(同法第三条第一項、第三条の二第一項又は第三条の三第一項に規定する債務の保証であって、前条第一項の認定を受けた中小企業者(以下「認定中小企業者」という。)の事業に必要な資金に係るものをいう。)を受けた認定中小企業者に係るものについての次の表の上欄に掲げる同法の規定の適用については、これらの規定中同表の中欄に掲げる字句は、同表の下欄に掲げる字句とする。
第三条第一項保険価額の合計額が中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律第十三条に規定する経営承継関連保証(以下「経営承継関連保証」という。)に係る保険関係の保険価額の合計額とその他の保険関係の保険価額の合計額とがそれぞれ
第三条の二第一項及び第三条の三第一項保険価額の合計額が経営承継関連保証に係る保険関係の保険価額の合計額とその他の保険関係の保険価額の合計額とがそれぞれ
第三条の二第三項当該借入金の額のうち経営承継関連保証及びその他の保証ごとに、それぞれ当該借入金の額のうち
当該債務者経営承継関連保証及びその他の保証ごとに、当該債務者
第三条の三第二項当該保証をした経営承継関連保証及びその他の保証ごとに、それぞれ当該保証をした
当該債務者経営承継関連保証及びその他の保証ごとに、当該債務者

株式会社日本政策金融公庫法及び沖縄振興開発金融公庫法の特例)

第十四条
  1. 株式会社日本政策金融公庫又は沖縄振興開発金融公庫は、株式会社日本政策金融公庫法(平成十九年法律第五十七号)第十一条又は沖縄振興開発金融公庫法(昭和四十七年法律第三十一号)第十九条の規定にかかわらず、認定中小企業者(第十二条第一項第一号に掲げる中小企業者に限る。)の代表者に対し、当該代表者が相続により承継した債務であって当該認定中小企業者の事業の実施に不可欠な資産を担保とする借入れに係るものの弁済資金その他の当該代表者が必要とする資金であって当該認定中小企業者の事業活動の継続に必要なものとして経済産業省令で定めるもののうち別表の上欄に掲げる資金を貸し付けることができる。
  2. 前項の規定による別表の上欄に掲げる資金の貸付けは、株式会社日本政策金融公庫法又は沖縄振興開発金融公庫法の適用については、それぞれ同表の下欄に掲げる業務とみなす。

(指導及び助言)

第十五条
経済産業大臣は、中小企業者であって、その代表者の死亡等に起因する経営の承継に伴い、従業員数の減少を伴う事業の規模の縮小又は信用状態の低下等によって当該中小企業者の事業活動の継続に支障が生じることを防止するために、多様な分野における事業の展開、人材の育成及び資金の確保に計画的に取り組むことが特に必要かつ適切なものとして経済産業省令で定める要件に該当するものの経営に従事する者に対して、必要な指導及び助言を行うものとする。

第四章 雑則 編集

(権限の委任)

第十六条
この法律に規定する経済産業大臣の権限は、経済産業省令で定めるところにより、経済産業局長に委任することができる。

附則 編集

附則

(施行期日)
第一条
この法律は、平成二十年十月一日から施行する。ただし、第二章の規定は、公布の日から起算して一年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。

(相続税の課税についての措置)

第二条
政府は、平成二十年度中に、中小企業における代表者の死亡等に起因する経営の承継に伴い、その事業活動の継続に支障が生じることを防止するため、相続税の課税について必要な措置を講ずるものとする。

(検討)

第三条
政府は、この法律の施行後五年を経過した場合において、この法律の施行の状況について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。

別表 編集

別表(第十四条関係)

一 小口の資金株式会社日本政策金融公庫法第十一条第一項第一号の規定による同法別表第一第一号の下欄に掲げる資金の貸付けの業務又は沖縄振興開発金融公庫法第十九条第一項の業務
二 農林漁業の持続的かつ健全な発展に資する長期かつ低利の資金株式会社日本政策金融公庫法第十一条第一項第一号の規定による同法別表第一第八号の下欄のチ、ヲ若しくはタに掲げる資金の貸付けの業務又は沖縄振興開発金融公庫法第十九条第一項の業務
三 長期の資金(前号に掲げるものを除く。)株式会社日本政策金融公庫法第十一条第一項第一号の規定による同法別表第一第十四号の下欄に掲げる資金の貸付けの業務又は沖縄振興開発金融公庫法第十九条第一項の業務

 

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