万葉集/第三巻

第三巻


[歌番号]03/0241

[題詞](長皇子遊猟路池之時柿本朝臣人麻呂作歌一首[并短歌])或本反歌一首

[原文]皇者 神尓之坐者 真木<乃>立 荒山中尓 海成可聞

[訓読]大君は神にしませば真木の立つ荒山中に海を成すかも

[仮名]おほきみは かみにしませば まきのたつ あらやまなかに うみをなすかも

[左注]なし

[校異]乃 -> 之 [類][古][紀]

[事項]雑歌 作者:柿本人麻呂 長皇子 現人神 大君讃美 猟 異伝

[訓異]おほきみは,[寛]すめろきは,

かみにしませば,[寛]かみにしませは,

まきのたつ[寛],

あらやまなかに[寛],

うみをなすかも[寛],


[歌番号]03/0251

[題詞](柿本朝臣人麻呂覊旅歌八首)

[原文]粟路之 野嶋之前乃 濱風尓 妹之結 紐吹返

[訓読]淡路の野島が崎の浜風に妹が結びし紐吹き返す

[仮名]あはぢの のしまがさきの はまかぜに いもがむすびし ひもふきかへす

[左注]なし

[校異]なし

[事項]雑歌 作者:柿本人麻呂 羈旅 望郷 兵庫 地名

[訓異]あはぢの,[寛]あはみちの,

のしまがさきの,[寛]のしまのさきの,

はまかぜに,[寛]はまかせに,

いもがむすびし,[寛]いもかむすひし,

ひもふきかへす[寛],


[歌番号]03/0261

[題詞]柿本朝臣人麻呂獻新田部皇子歌一首[并短歌]

[原文]八隅知之 吾大王 高輝 日之皇子 茂座 大殿於 久方 天傳来 <白>雪仕物 徃来乍 益及常世

[訓読]やすみしし 我が大君 高照らす 日の御子 敷きいます 大殿の上に ひさかたの 天伝ひ来る 雪じもの 行き通ひつつ いや常世まで

[仮名]やすみしし わがおほきみ たかてらす ひのみこ しきいます おほとののうへに ひさかたの あまづたひくる ゆきじもの ゆきかよひつつ いやとこよまで

[左注]なし

[校異]短歌 [西] 短謌 / 自 -> 白 [類][紀][細]

[事項]雑歌 作者:柿本人麻呂 新田部皇子 献呈歌 飛鳥 地名 枕詞

[訓異]やすみしし[寛],

わがおほきみ,[寛]わかおほきみの,

たかてらす[寛],

ひのみこ,[寛]ひのわかみこの,

しきいます,[寛]しけくます,

おほとののうへに[寛],

ひさかたの[寛],

あまづたひくる,[寛]あまつたひこし,

ゆきじもの,[寛]ゆきしもの,

ゆきかよひつつ,[寛]ゆききつつませ,

いやとこよまで,[寛]とこよなるまて,


[歌番号]03/0271

[題詞](高市連黒人覊旅歌八首)

[原文]櫻田部 鶴鳴渡 年魚市方 塩干二家良之 鶴鳴渡

[訓読]桜田へ鶴鳴き渡る年魚市潟潮干にけらし鶴鳴き渡る

[仮名]さくらだへ たづなきわたる あゆちがた しほひにけらし たづなきわたる

[左注]なし

[校異]なし

[事項]雑歌 作者:高市黒人 羈旅 名古屋 愛知 地名 動物

[訓異]さくらだへ,[寛]さくらたへ,

たづなきわたる,[寛]たつなきわたる,

あゆちがた,[寛]あゆちかた,

しほひにけらし[寛],

たづなきわたる,[寛]たつなきわたる,


[歌番号]03/0281

[題詞]黒人妻答歌一首

[原文]白菅乃 真野之榛原 徃左来左 君社見良目 真野乃榛原

[訓読]白菅の真野の榛原行くさ来さ君こそ見らめ真野の榛原

[仮名]しらすげの まののはりはら ゆくさくさ きみこそみらめ まののはりはら

[左注]なし

[校異]なし

[事項]雑歌 作者:高市黒人妻 羈旅 兵庫 地名 植物 枕詞

[訓異]しらすげの,[寛]しらすけの,

まののはりはら,[寛]まののはきはら,

ゆくさくさ[寛],

きみこそみらめ[寛],

まののはりはら,[寛]まののはきはら,


[歌番号]03/0291

[題詞]小田事勢能山歌一首

[原文]真木葉乃 之奈布勢能山 之<努>波受而 吾超去者 木葉知家武

[訓読]真木の葉のしなふ背の山偲はずて我が越え行けば木の葉知りけむ

[仮名]まきのはの しなふせのやま しのはずて わがこえゆけば このはしりけむ

[左注]なし

[校異]歌 [西] 謌 / 奴 -> 努 [類][紀]

[事項]雑歌 作者:小田事 羈旅 和歌山 地名

[訓異]まきのはの[寛],

しなふせのやま[寛],

しのはずて,[寛]しるはすて,

わがこえゆけば,[寛]わかこえゆけは,

このはしりけむ[寛],


[歌番号]03/0301

[題詞](長屋王駐馬寧樂山作歌二首)

[原文]磐金之 凝敷山乎 超不勝而 哭者泣友 色尓将出八方

[訓読]岩が根のこごしき山を越えかねて音には泣くとも色に出でめやも

[仮名]いはがねの こごしきやまを こえかねて ねにはなくとも いろにいでめやも

[左注]なし

[校異]なし

[事項]雑歌 作者:長屋王 羈旅 望郷 奈良 地名

[訓異]いはがねの,[寛]いはかねの,

こごしきやまを,[寛]ここしきやまを,

こえかねて[寛],

ねにはなくとも[寛],

いろにいでめやも,[寛]いろにいてめやも,


[歌番号]03/0310

[題詞]門部王詠東市之樹作歌一首 [後賜姓大原真人氏也]

[原文]東 市之殖木乃 木足左右 不相久美 宇倍<戀>尓家利

[訓読]東の市の植木の木垂るまで逢はず久しみうべ恋ひにけり

[仮名]ひむがしの いちのうゑきの こだるまで あはずひさしみ うべこひにけり

[左注]なし

[校異]吾戀 -> 戀 [類][紀]

[事項]雑歌 作者:門部王 東市 奈良都 植物

[訓異]ひむがしの,[寛]ひむかしの,

いちのうゑきの,[寛]いちのうえきの,

こだるまで,[寛]こたるまて,

あはずひさしみ,[寛]あはぬきみうへ,

うべこひにけり,[寛]われこひにけり,


[歌番号]03/0311

[題詞]按作村主益人従豊前國上京時作歌一首

[原文]梓弓 引豊國之 鏡山 不見久有者 戀敷牟鴨

[訓読]梓弓引き豊国の鏡山見ず久ならば恋しけむかも

[仮名]あづさゆみ ひきとよくにの かがみやま みずひさならば こほしけむかも

[左注]なし

[校異]なし

[事項]雑歌 作者:按作益人 鏡山 豊前国 福岡県 羈旅 地名 枕詞

[訓異]あづさゆみ,[寛]あつさゆみ,

ひきとよくにの,[寛]ひくとよくにの,

かがみやま,[寛]かかみやま,

みずひさならば,[寛]みてひさならは,

こほしけむかも[寛],


[歌番号]03/0312

[題詞]式部卿藤原宇合卿被使改造難波堵之時作歌一首

[原文]昔者社 難波居中跡 所言奚米 今者京引 都備仁鷄里

[訓読]昔こそ難波田舎と言はれけめ今は都引き都びにけり

[仮名]むかしこそ なにはゐなかと いはれけめ いまはみやこひき みやこびにけり

[左注]なし

[校異]歌 [西] 謌

[事項]雑歌 作者:藤原宇合 難波 大阪 地名

[訓異]むかしこそ[寛],

なにはゐなかと[寛],

いはれけめ[寛],

いまはみやこひき,[寛]いまはみやひと,

みやこびにけり,[寛]そなはりにけり,


[歌番号]03/0313

[題詞]土理宣令歌一首

[原文]見吉野之 瀧乃白浪 雖不知 語之告者 古所念

[訓読]み吉野の滝の白波知らねども語りし継げばいにしへ思ほゆ

[仮名]みよしのの たきのしらなみ しらねども かたりしつげば いにしへおもほゆ

[左注]なし

[校異]なし

[事項]雑歌 作者:土理宣令 吉野 地名

[訓異]みよしのの[寛],

たきのしらなみ[寛],

しらねども,[寛]しらねとも,

かたりしつげば,[寛]かたりしつけは,

いにしへおもほゆ,[寛]むかしおもほゆ,


[歌番号]03/0314

[題詞]波多朝臣<小>足歌一首

[原文]小浪 礒越道有 能登湍河 音之清左 多藝通瀬毎尓

[訓読]さざれ波礒越道なる能登瀬川音のさやけさたぎつ瀬ごとに

[仮名]さざれなみ いそこしぢなる のとせがは おとのさやけさ たぎつせごとに

[左注]なし

[校異]少 -> 小 [類][古][温]

[事項]雑歌 作者:波多小足 能登瀬川 滋賀県 羈旅 土地讃美 地名 枕詞

[訓異]さざれなみ,[寛]さされなみ,

いそこしぢなる,[寛]いそこせちなる,

のとせがは,[寛]のとせかは,

おとのさやけさ[寛],

たぎつせごとに,[寛]たきつせことに,


[歌番号]03/0315

[題詞]暮春之月幸芳野離宮時中納言大伴卿奉勅作歌一首[并短歌] [未逕奏上歌]

[原文]見吉野之 芳野乃宮者 山可良志 貴有師 <水>可良思 清有師 天地与 長久 萬代尓 不改将有 行幸之<宮>

[訓読]み吉野の 吉野の宮は 山からし 貴くあらし 川からし さやけくあらし 天地と 長く久しく 万代に 変はらずあらむ 幸しの宮

[仮名]みよしのの よしののみやは やまからし たふとくあらし かはからし さやけくあらし あめつちと ながくひさしく よろづよに かはらずあらむ いでましのみや

[左注]なし

[校異]永 -> 水 [類] / 處 -> 宮 [類][紀]

[事項]雑歌 作者:大伴旅人 吉野 宮廷讃美 地名 土地讃美

[訓異]みよしのの[寛],

よしののみやは[寛],

やまからし[寛],

たふとくあらし,[寛]たふとかるらし,

かはからし,[寛]なかからし,

さやけくあらし,[寛]いさきよからし,

あめつちと[寛],

ながくひさしく,[寛]なかくひさしき,

よろづよに,[寛]よろつよに,

かはらずあらむ,[寛]かはらすあらむ,

いでましのみや,[寛]みゆきしみや


[歌番号]03/0316

[題詞](暮春之月幸芳野離宮時中納言大伴卿奉勅作歌一首并短歌 [未逕奏上歌])反歌

[原文]昔見之 象乃小河乎 今見者 弥清 成尓来鴨

[訓読]昔見し象の小川を今見ればいよよさやけくなりにけるかも

[仮名]むかしみし きさのをがはを いまみれば いよよさやけく なりにけるかも

[左注]なし

[校異]なし

[事項]雑歌 作者:大伴旅人 吉野 地名 土地讃美

[訓異]むかしみし[寛],

きさのをがはを,[寛]きさのおかはを,

いまみれば,[寛]いまみれは,

いよよさやけく,[寛]いよいよきよく,

なりにけるかも[寛],


[歌番号]03/0317

[題詞]山部宿祢赤人望不盡山歌一首[并短歌]

[原文]天地之 分時従 神左備手 高貴寸 駿河有 布士能高嶺乎 天原 振放見者 度日之 陰毛隠比 照月乃 光毛不見 白雲母 伊去波伐加利 時自久曽 雪者落家留 語告 言継将徃 不盡能高嶺者

[訓読]天地の 別れし時ゆ 神さびて 高く貴き 駿河なる 富士の高嶺を 天の原 振り放け見れば 渡る日の 影も隠らひ 照る月の 光も見えず 白雲も い行きはばかり 時じくぞ 雪は降りける 語り継ぎ 言ひ継ぎ行かむ 富士の高嶺は

[仮名]あめつちの わかれしときゆ かむさびて たかくたふとき するがなる ふじのたかねを あまのはら ふりさけみれば わたるひの かげもかくらひ てるつきの ひかりもみえず しらくもも いゆきはばかり ときじくぞ ゆきはふりける かたりつぎ いひつぎゆかむ ふじのたかねは

[左注]なし

[校異]歌 [西] 謌 / 短歌 [西] 短謌

[事項]雑歌 作者:山部赤人 富士山 静岡 地名 土地讃美 羈旅

[訓異]あめつちの[寛],

わかれしときゆ,[寛]

かむさびて,[寛]かみさひて,

たかくたふとき[寛],

するがなる,[寛]するかなる,

ふじのたかねを,[寛]ふしのたかねを,

あまのはら[寛],

ふりさけみれば,[寛]ふりさけみれは,

わたるひの[寛],

かげもかくらひ,[寛]かけもかくろひ,

てるつきの[寛],

ひかりもみえず,[寛]ひかりもみえす,

しらくもも[寛],

いゆきはばかり,[寛]いゆきははかり,

ときじくぞ,[寛]ときしくそ,

ゆきはふりける[寛],

かたりつぎ,[寛]かたりつき,

いひつぎゆかむ,[寛]いひつきゆかむ,

ふじのたかねは,[寛]ふしのたかねは,


[歌番号]03/0318

[題詞](山部宿祢赤人望不盡山歌一首[并短歌])反歌

[原文]田兒之浦従 打出而見者 真白衣 不盡能高嶺尓 雪波零家留

[訓読]田子の浦ゆうち出でて見れば真白にぞ富士の高嶺に雪は降りける

[仮名]たごのうらゆ うちいでてみれば ましろにぞ ふじのたかねに ゆきはふりける

[左注]なし

[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正右書)] 歌

[事項]雑歌 作者:山部赤人 富士山 静岡 土地讃美 国見 地名 羈旅

[訓異]たごのうらゆ,[寛]たこのうらに,

うちいでてみれば,[寛]うちいててみれは,

ましろにぞ,[寛]ましろにそ,

ふじのたかねに,[寛]ふしのたかねに,

ゆきはふりける[寛],


[歌番号]03/0319

[題詞]詠不盡山歌一首[并短歌]

[原文]奈麻余美乃 甲斐乃國 打縁流 駿河能國与 己知其智乃 國之三中従 出<立>有 不盡能高嶺者 天雲毛 伊去波伐加利 飛鳥母 翔毛不上 燎火乎 雪以滅 落雪乎 火用消通都 言不得 名不知 霊母 座神香<聞> 石花海跡 名付而有毛 彼山之 堤有海曽 不盡河跡 人乃渡毛 其山之 水乃當焉 日本之 山跡國乃 鎮十方 座祇可間 寳十方 成有山可聞 駿河有 不盡能高峯者 雖見不飽香聞

[訓読]なまよみの 甲斐の国 うち寄する 駿河の国と こちごちの 国のみ中ゆ 出で立てる 富士の高嶺は 天雲も い行きはばかり 飛ぶ鳥も 飛びも上らず 燃ゆる火を 雪もち消ち 降る雪を 火もち消ちつつ 言ひも得ず 名付けも知らず くすしくも います神かも せの海と 名付けてあるも その山の つつめる海ぞ 富士川と 人の渡るも その山の 水のたぎちぞ 日の本の 大和の国の 鎮めとも います神かも 宝とも なれる山かも 駿河なる 富士の高嶺は 見れど飽かぬかも

[仮名]なまよみの かひのくに うちよする するがのくにと こちごちの くにのみなかゆ いでたてる ふじのたかねは あまくもも いゆきはばかり とぶとりも とびものぼらず もゆるひを ゆきもちけち ふるゆきを ひもちけちつつ いひもえず なづけもしらず くすしくも いますかみかも せのうみと なづけてあるも そのやまの つつめるうみぞ ふじかはと ひとのわたるも そのやまの みづのたぎちぞ ひのもとの やまとのくにの しづめとも いますかみかも たからとも なれるやまかも するがなる ふじのたかねは みれどあかぬかも

[左注]?(右一首高橋連蟲麻呂之歌中出焉 以類載此)

[校異]短歌 [西] 短謌 / 之 -> 立 [古] / <> -> 聞 [西(右書)][類][古][紀]

[事項]雑歌 作者:高橋虫麻呂 富士山 静岡 枕詞 地名 土地讃美 羈旅

[訓異]なまよみの[寛],

かひのくに[寛],

うちよする[寛],

するがのくにと,[寛]するかのくにと,

こちごちの,[寛]こちこちの,

くにのみなかゆ,[寛]くにのさかひに,

いでたてる,[寛]いててしある,

ふじのたかねは,[寛]ふしのたかねは,

あまくもも[寛],

いゆきはばかり,[寛]いゆきははかり,

とぶとりも,[寛]とふとりも,

とびものぼらず,[寛]とひものほらす,

もゆるひを[寛],

ゆきもちけち,[寛]ゆきもてきやし,

ふるゆきを[寛],

ひもちけちつつ,[寛]ひもてけれつつ,

いひもえず,[寛]いひかねて,

なづけもしらず,[寛]なをもしられす,

くすしくも,[寛]あやしくも,

いますかみかも[寛],

せのうみと[寛],

なづけてあるも,[寛]なつけてあるも,

そのやまの[寛],

つつめるうみぞ,[寛]つつめるうみそ,

ふじかはと,[寛]ふしかはと,

ひとのわたるも[寛],

そのやまの[寛],

みづのたぎちぞ,[寛]みつのあたりそ,

ひのもとの[寛],

やまとのくにの[寛],

しづめとも,[寛]しつめとも,

いますかみかも[寛],

たからとも[寛],

なれるやまかも[寛],

するがなる,[寛]するかなる,

ふじのたかねは,[寛]ふしのたかねは,

みれどあかぬかも,[寛]みれとあかぬかも,


[歌番号]03/0321

[題詞]((詠不盡山歌一首[并短歌])反歌)

[原文]布士能嶺乎 高見恐見 天雲毛 伊去羽斤 田菜引物緒

[訓読]富士の嶺を高み畏み天雲もい行きはばかりたなびくものを

[仮名]ふじのねを たかみかしこみ あまくもも いゆきはばかり たなびくものを

[左注]右一首高橋連蟲麻呂之歌中出焉 以類載此

[校異]なし

[事項]雑歌 作者:高橋虫麻呂 富士山 静岡 地名 土地讃美 羈旅

[訓異]ふじのねを,[寛]ふしのねを,

たかみかしこみ[寛],

あまくもも[寛],

いゆきはばかり,[寛]いゆきははかり,

たなびくものを,[寛]たなひくものを,


[歌番号]03/0331

[題詞]帥大伴卿歌五首

[原文]吾盛 復将變八方 殆 寧樂京乎 不見歟将成

[訓読]我が盛りまたをちめやもほとほとに奈良の都を見ずかなりなむ

[仮名]わがさかり またをちめやも ほとほとに ならのみやこを みずかなりなむ

[左注]なし

[校異]なし

[事項]雑歌 作者:大伴旅人 太宰府 福岡 望郷 地名

[訓異]わがさかり,[寛]わかさかり,

またをちめやも,[寛]またかへれはも,

ほとほとに[寛],

ならのみやこを[寛],

みずかなりなむ,[寛]みすかなりなむ,


[歌番号]03/0341

[題詞](<大>宰帥大伴卿讃酒歌十三首)

[原文]賢跡 物言従者 酒飲而 酔哭為師 益有良之

[訓読]賢しみと物言ふよりは酒飲みて酔ひ泣きするしまさりたるらし

[仮名]さかしみと ものいふよりは さけのみて ゑひなきするし まさりたるらし

[左注]なし

[校異]なし

[事項]雑歌 作者:大伴旅人 讃酒 太宰府 奈良 福岡 地名

[訓異]さかしみと,[寛]かしこしと,

ものいふよりは[寛],

さけのみて[寛],

ゑひなきするし,[寛]えひなきするし,

まさりたるらし,[寛]まさりてあるらし,


[歌番号]03/0351

[題詞]沙弥満誓歌一首

[原文]世間乎 何物尓将譬 <旦>開 榜去師船之 跡無如

[訓読]世間を何に譬へむ朝開き漕ぎ去にし船の跡なきごとし

[仮名]よのなかを なににたとへむ あさびらき こぎいにしふねの あとなきごとし

[左注]なし

[校異]且 -> 旦 [古][紀][矢]

[事項]雑歌 作者:沙弥満誓 無常 太宰府 福岡 地名

[訓異]よのなかを[寛],

なににたとへむ[寛],

あさびらき,[寛]あさひらき,

こぎいにしふねの,[寛]こきいにしふねの,

あとなきごとし,[寛]あとなきかこと,


[歌番号]03/0361

[題詞](山部宿祢赤人歌六首)

[原文]秋風乃 寒朝開乎 佐農能岡 将超公尓 衣借益矣

[訓読]秋風の寒き朝明を佐農の岡越ゆらむ君に衣貸さましを

[仮名]あきかぜの さむきあさけを さぬのをか こゆらむきみに きぬかさましを

[左注]なし

[校異]なし

[事項]雑歌 作者:山部赤人 羈旅 地名 兵庫県

[訓異]あきかぜの,[寛]あきかせの,

さむきあさけを[寛],

さぬのをか,[寛]さののをか,

こゆらむきみに[寛],

きぬかさましを[寛],


[歌番号]03/0371

[題詞]出雲守門部王思京歌一首 [後賜大原真人氏也]

[原文]飫海乃 河原之乳鳥 汝鳴者 吾佐保河乃 所念國

[訓読]意宇の海の河原の千鳥汝が鳴けば我が佐保川の思ほゆらくに

[仮名]おうのうみの かはらのちどり ながなけば わがさほかはの おもほゆらくに

[左注]なし

[校異]なし

[事項]雑歌 作者:門部王 羈旅 望郷 地名 動物

[訓異]おうのうみの[寛],

かはらのちどり,[寛]かはらのちとり,

ながなけば,[寛]なかなけは,

わがさほかはの,[寛]わかさほかはの,

おもほゆらくに[寛],


[歌番号]03/0381

[題詞]筑紫娘子贈行旅歌一首 [娘子字曰兒嶋]

[原文]思家登 情進莫 風候 好為而伊麻世 荒其路

[訓読]家思ふと心進むな風まもり好くしていませ荒しその道

[仮名]いへもふと こころすすむな かぜまもり よくしていませ あらしそのみち

[左注]なし

[校異]なし

[事項]雑歌 作者:筑紫娘子 太宰府 福岡 餞別 羈旅 地名

[訓異]いへもふと,[寛]いへおもふと,

こころすすむな[寛],

かぜまもり,[寛]かせまちて,

よくしていませ[寛],

あらしそのみち,[寛]あらきそのみち,


[歌番号]03/0391

[題詞]造筑紫觀世音寺別當沙弥満誓歌一首

[原文]鳥総立 足柄山尓 船木伐 樹尓伐歸都 安多良船材乎

[訓読]鳥総立て足柄山に船木伐り木に伐り行きつあたら船木を

[仮名]とぶさたて あしがらやまに ふなぎきり きにきりゆきつ あたらふなぎを

[左注]なし

[校異]なし

[事項]譬喩歌 作者:沙弥満誓 恋愛 地名 太宰府 福岡

[訓異]とぶさたて,[寛]とふさたて,

あしがらやまに,[寛]あしからやまに,

ふなぎきり,[寛]ふなききり,

きにきりゆきつ,[寛]きにきりよせつ,

あたらふなぎを,[寛]あたらふなきそ,


[歌番号]03/0401

[題詞]大伴坂上郎女宴親族之日吟歌一首

[原文]山守之 有家留不知尓 其山尓 標結立而 結之辱為都

[訓読]山守のありける知らにその山に標結ひ立てて結ひの恥しつ

[仮名]やまもりの ありけるしらに そのやまに しめゆひたてて ゆひのはぢしつ

[左注]なし

[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌

[事項]譬喩歌 作者:坂上郎女 宴席 誦詠

[訓異]やまもりの[寛],

ありけるしらに[寛],

そのやまに[寛],

しめゆひたてて[寛],

ゆひのはぢしつ,[寛]ゆひのはちしつ,


[歌番号]03/0410

[題詞]大伴坂上郎女橘歌一首

[原文]橘乎 屋前尓殖生 立而居而 後雖悔 驗将有八方

[訓読]橘を宿に植ゑ生ほし立ちて居て後に悔ゆとも験あらめやも

[仮名]たちばなを やどにうゑおほし たちてゐて のちにくゆとも しるしあらめやも

[左注]なし

[校異]なし

[事項]譬喩歌 作者:坂上郎女 植物

[訓異]たちばなを,[寛]たちはなを,

やどにうゑおほし,[寛]やとにうゑをほし,

たちてゐて[寛],

のちにくゆとも[寛],

しるしあらめやも[寛],


[歌番号]03/0411

[題詞](大伴坂上郎女橘歌一首)和歌一首

[原文]吾妹兒之 屋前之橘 甚近 殖而師故二 不成者不止

[訓読]我妹子がやどの橘いと近く植ゑてし故にならずはやまじ

[仮名]わぎもこが やどのたちばな いとちかく うゑてしゆゑに ならずはやまじ

[左注]なし

[校異]歌 [西] 謌

[事項]譬喩歌 作者:坂上郎女 植物

[訓異]わぎもこが,[寛]わきもこか,

やどのたちばな,[寛]やとのたちはな,

いとちかく,[寛]いとちかし,

うゑてしゆゑに[寛],

ならずはやまじ,[寛]ならすはやまし,


[歌番号]03/0412

[題詞]市原王歌一首

[原文]伊奈太吉尓 伎須賣流玉者 無二 此方彼方毛 君之随意

[訓読]いなだきにきすめる玉は二つなしかにもかくにも君がまにまに

[仮名]いなだきに きすめるたまは ふたつなし かにもかくにも きみがまにまに

[左注]なし

[校異]歌 [西] 謌

[事項]譬喩歌 作者:市原王 難解

[訓異]いなだきに,[寛]いなたきに,

きすめるたまは[寛],

ふたつなし[寛],

かにもかくにも,[寛]こなたかなたも,

きみがまにまに,[寛]きみかまにまに,


[歌番号]03/0413

[題詞]大網公人主宴吟歌一首

[原文]須麻乃海人之 塩焼衣乃 藤服 間遠之有者 未著穢

[訓読]須磨の海女の塩焼き衣の藤衣間遠にしあればいまだ着なれず

[仮名]すまのあまの しほやききぬの ふぢころも まどほにしあれば いまだきなれず

[左注]なし

[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌

[事項]譬喩歌 作者:大網公人 宴席 誦詠 兵庫 地名

[訓異]すまのあまの[寛],

しほやききぬの[寛],

ふぢころも,[寛]ふちころも,

まどほにしあれば,[寛]まとほにしあれは,

いまだきなれず,[寛]いまたきなれす,


[歌番号]03/0414

[題詞]大伴宿祢家持歌一首

[原文]足日木能 石根許其思美 菅根乎 引者難三等 標耳曽結焉

[訓読]あしひきの岩根こごしみ菅の根を引かばかたみと標のみぞ結ふ

[仮名]あしひきの いはねこごしみ すがのねを ひかばかたみと しめのみぞゆふ

[左注]なし

[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌

[事項]譬喩歌 作者:大伴家持 枕詞 植物 恋愛

[訓異]あしひきの[寛],

いはねこごしみ,[寛]いはねここしみ,

すがのねを,[寛]すかのねを,

ひかばかたみと,[寛]ひかはかたみと,

しめのみぞゆふ,[寛]しめのみそゆふ,


[歌番号]03/0415

[題詞]挽歌 / 上宮聖徳皇子出遊竹原井之時見龍田山死人悲傷御作歌一首 [小墾田宮御宇天皇代墾田宮御宇者豊御食炊屋姫天皇也諱額田謚推古]

[原文]家有者 妹之手将纒 草枕 客尓臥有 此旅人A怜

[訓読]家にあらば妹が手まかむ草枕旅に臥やせるこの旅人あはれ

[仮名]いへにあらば いもがてまかむ くさまくら たびにこやせる このたびとあはれ

[左注]なし

[校異]歌 [西] 謌 / 歌 [西] 謌 / 墾田 [細] 小墾田

[事項]挽歌 作者:聖徳太子 行路死人 枕詞 奈良 地名

[訓異]いへにあらば,[寛]いへならは,

いもがてまかむ,[寛]いもかてまかむ,

くさまくら[寛],

たびにこやせる,[寛]たひにふしたる,

このたびとあはれ,[寛]このたひとあし,


[歌番号]03/0416

[題詞]大津皇子被死之時磐余池<陂>流涕御作歌一首

[原文]百傳 磐余池尓 鳴鴨乎 今日耳見哉 雲隠去牟

[訓読]百伝ふ磐余の池に鳴く鴨を今日のみ見てや雲隠りなむ

[仮名]ももづたふ いはれのいけに なくかもを けふのみみてや くもがくりなむ

[左注]右藤原宮朱鳥元年冬十月

[校異]般 -> 陂 [類][紀]

[事項]挽歌 作者:大津皇子 枕詞 動物 桜井 地名 辞世

[訓異]ももづたふ,[寛]ももつたふ,

いはれのいけに[寛],

なくかもを[寛],

けふのみみてや[寛],

くもがくりなむ,[寛]くもかくれなむ,


[歌番号]03/0417

[題詞]河内王葬豊前國鏡山之時手持女王作歌三首

[原文]王之 親魄相哉 豊國乃 鏡山乎 宮登定流

[訓読]大君の和魂あへや豊国の鏡の山を宮と定むる

[仮名]おほきみの にきたまあへや とよくにの かがみのやまを みやとさだむる

[左注]なし

[校異]歌 [西] 謌

[事項]挽歌 河内王 作者:手持女王 福岡県 地名

[訓異]おほきみの[寛],

にきたまあへや,[寛]むつたまあへや,

とよくにの[寛],

かがみのやまを,[寛]かかみのやまを,

みやとさだむる,[寛]みやとさたむる,


[歌番号]03/0418

[題詞](河内王葬豊前國鏡山之時手持女王作歌三首)

[原文]豊國乃 鏡山之 石戸立 隠尓計良思 雖待不来座

[訓読]豊国の鏡の山の岩戸立て隠りにけらし待てど来まさず

[仮名]とよくにの かがみのやまの いはとたて こもりにけらし まてどきまさず

[左注]なし

[校異]なし

[事項]挽歌 河内王 作者:手持女王 福岡県 地名

[訓異]とよくにの[寛],

かがみのやまの,[寛]かかみのやまの,

いはとたて[寛],

こもりにけらし,[寛]かくれにけらし,

まてどきまさず,[寛]まてときまさす,


[歌番号]03/0419

[題詞](河内王葬豊前國鏡山之時手持女王作歌三首)

[原文]石戸破 手力毛欲得 手弱寸 女有者 為便乃不知苦

[訓読]岩戸破る手力もがも手弱き女にしあればすべの知らなく

[仮名]いはとわる たぢからもがも たよわき をみなにしあれば すべのしらなく

[左注]なし

[校異]なし

[事項]挽歌 河内王 作者:手持女王 悲嘆

[訓異]いはとわる[寛],

たぢからもがも,[寛]たちからもかな,

たよわき,[寛]てをよはき,

をみなにしあれば,[寛]をとめにしあれは,

すべのしらなく,[寛]すへのしらなく,


[歌番号]03/0421

[題詞](石田王卒之時丹生王作歌一首[并短歌])反歌

[原文]逆言之 狂言等可聞 高山之 石穂乃上尓 君之臥有

[訓読]およづれのたはこととかも高山の巌の上に君が臥やせる

[仮名]およづれの たはこととかも たかやまの いはほのうへに きみがこやせる

[左注]なし

[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌

[事項]挽歌 石田王 作者:丹生王 哀悼 悲嘆

[訓異]およづれの,[寛]さかことの,

たはこととかも,[寛]まかこととかも,

たかやまの[寛],

いはほのうへに[寛],

きみがこやせる,[寛]きみかふしたる,


[歌番号]03/0431

[題詞]過勝鹿真間娘子墓時山部宿祢赤人作歌一首[并短歌] [東俗語云可豆思賀能麻末能弖胡]

[原文]古昔 有家武人之 倭<文>幡乃 帶解替而 廬屋立 妻問為家武 勝壮鹿乃 真間之手兒名之 奥槨乎 此間登波聞杼 真木葉哉 茂有良武 松之根也 遠久寸 言耳毛 名耳母吾者 不<可>忘

[訓読]いにしへに ありけむ人の 倭文幡の 帯解き交へて 伏屋立て 妻問ひしけむ 勝鹿の 真間の手児名が 奥つ城を こことは聞けど 真木の葉や 茂くあるらむ 松が根や 遠く久しき 言のみも 名のみも我れは 忘らゆましじ

[仮名]いにしへに ありけむひとの しつはたの おびときかへて ふせやたて つまどひしけむ かつしかの ままのてごなが おくつきを こことはきけど まきのはや しげくあるらむ まつがねや とほくひさしき ことのみも なのみもわれは わすらゆましじ

[左注]なし

[校異]歌 [西] 謌 / 短歌 [西] 短謌 / 麻末能 [紀][類] 麻末之 / 父 -> 文 [紀][細] / 所 -> 可 [類][紀]

[事項]挽歌 作者:山部赤人 真間娘子 鎮魂 伝説 東京 地名 葛飾

[訓異]いにしへに[寛],

ありけむひとの[寛],

しつはたの[寛],

おびときかへて,[寛]おひときかへて,

ふせやたて[寛],

つまどひしけむ,[寛]つまとひしけむ,

かつしかの[寛],

ままのてごなが,[寛]ままのてこなか,

おくつきを[寛],

こことはきけど,[寛]こことはきけと,

まきのはや[寛],

しげくあるらむ,[寛]しけくあるらむ,

まつがねや,[寛]まつかねや,

とほくひさしき[寛],

ことのみも[寛],

なのみもわれは[寛],

わすらゆましじ,[寛]わすられなくに,


[歌番号]03/0441

[題詞]神龜六年己巳左大臣長屋王賜死之後倉橋部女王作歌一首

[原文]大皇之 命恐 大荒城乃 時尓波不有跡 雲隠座

[訓読]大君の命畏み大殯の時にはあらねど雲隠ります

[仮名]おほきみの みことかしこみ おほあらきの ときにはあらねど くもがくります

[左注]なし

[校異]歌 [西] 謌 / 大 [紀] 天

[事項]挽歌 作者:倉橋部女王 長屋王 神龜6年 年紀

[訓異]おほきみの,[寛]すめろきの,

みことかしこみ[寛],

おほあらきの[寛],

ときにはあらねど,[寛]ときにはあらねと,

くもがくります,[寛]くもかくれます,


[歌番号]03/0451

[題詞]還入故郷家即作歌三首

[原文]人毛奈吉 空家者 草枕 旅尓益而 辛苦有家里

[訓読]人もなき空しき家は草枕旅にまさりて苦しかりけり

[仮名]ひともなき むなしきいへは くさまくら たびにまさりて くるしかりけり

[左注]なし

[校異]歌 [西] 謌

[事項]挽歌 作者:大伴旅人 亡妻挽歌 奈良 地名 枕詞 天平2年12月 年紀

[訓異]ひともなき[寛],

むなしきいへは[寛],

くさまくら[寛],

たびにまさりて,[寛]たひにまさりて,

くるしかりけり[寛],


[歌番号]03/0461

[題詞](七年乙亥大伴坂上郎女悲嘆尼理願死去作歌一首[并短歌])反歌

[原文]留不得 壽尓之在者 敷細乃 家従者出而 雲隠去寸

[訓読]留めえぬ命にしあれば敷栲の家ゆは出でて雲隠りにき

[仮名]とどめえぬ いのちにしあれば しきたへの いへゆはいでて くもがくりにき

[左注]右新羅國尼名曰理願也 遠感王徳歸化聖 於時寄住大納言大将軍大伴卿家既 逕數紀焉 惟以天平七年乙亥忽沈運病既<趣>泉界 於是大家石川命婦 依餌藥事 徃有間温泉而不會此喪 但郎女獨留葬送屍柩既訖 仍作此歌贈入温泉

[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / <> -> 趣 [西(右書)][類][温] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌

[事項]挽歌 作者:坂上郎女 理願 枕詞 天平7年 年紀

[訓異]とどめえぬ,[寛]ととめえぬ,

いのちにしあれば,[寛]いのちにしあれは,

しきたへの[寛],

いへゆはいでて,[寛]いへをはいてて,

くもがくりにき,[寛]くもかくれにき,


[歌番号]03/0471

[題詞](悲緒未息更作歌五首)

[原文]離家 伊麻須吾妹乎 停不得 山隠都礼 情神毛奈思

[訓読]家離りいます我妹を留めかね山隠しつれ心どもなし

[仮名]いへざかり いますわぎもを とどめかね やまかくしつれ こころどもなし

[左注]なし

[校異]なし

[事項]挽歌 作者:大伴家持 亡妻挽歌 天平11年6月 年紀 悲嘆

[訓異]いへざかり,[寛]いへさかり,

いますわぎもを,[寛]いますわきもを,

とどめかね,[寛]ととかね,

やまかくしつれ,[寛]やまかくれつれ,

こころどもなし,[寛]たましひもなし,


[歌番号]03/0481

[題詞]悲傷死妻高橋朝臣作歌一首[并短歌]

[原文]白細之 袖指可倍弖 靡寐 吾黒髪乃 真白髪尓 成極 新世尓 共将有跡 玉緒乃 不絶射妹跡 結而石 事者不果 思有之 心者不遂 白妙之 手本矣別 丹杵火尓之 家従裳出而 緑兒乃 哭乎毛置而 朝霧 髣髴為乍 山代乃 相樂山乃 山際 徃過奴礼婆 将云為便 将為便不知 吾妹子跡 左宿之妻屋尓 朝庭 出立偲 夕尓波 入居嘆<會> 腋<挾> 兒乃泣<毎> 雄自毛能 負見抱見 朝鳥之 啼耳哭管 雖戀 効矣無跡 辞不問 物尓波在跡 吾妹子之 入尓之山乎 因鹿跡叙念

[訓読]白栲の 袖さし交へて 靡き寝し 我が黒髪の ま白髪に なりなむ極み 新世に ともにあらむと 玉の緒の 絶えじい妹と 結びてし ことは果たさず 思へりし 心は遂げず 白栲の 手本を別れ にきびにし 家ゆも出でて みどり子の 泣くをも置きて 朝霧の おほになりつつ 山背の 相楽山の 山の際に 行き過ぎぬれば 言はむすべ 為むすべ知らに 我妹子と さ寝し妻屋に 朝には 出で立ち偲ひ 夕には 入り居嘆かひ 脇ばさむ 子の泣くごとに 男じもの 負ひみ抱きみ 朝鳥の 哭のみ泣きつつ 恋ふれども 験をなみと 言とはぬ ものにはあれど 我妹子が 入りにし山を よすかとぞ思ふ

[仮名]しろたへの そでさしかへて なびきねし わがくろかみの ましらかに なりなむきはみ あらたよに ともにあらむと たまのをの たえじいいもと むすびてし ことははたさず おもへりし こころはとげず しろたへの たもとをわかれ にきびにし いへゆもいでて みどりこの なくをもおきて あさぎりの おほになりつつ やましろの さがらかやまの やまのまに ゆきすぎぬれば いはむすべ せむすべしらに わぎもこと さねしつまやに あしたには いでたちしのひ ゆふへには いりゐなげかひ わきばさむ このなくごとに をとこじもの おひみむだきみ あさとりの ねのみなきつつ こふれども しるしをなみと こととはぬ ものにはあれど わぎもこが いりにしやまを よすかとぞおもふ

[左注](右三首七月廿日高橋朝臣作歌也 名字未審 但云奉膳之男子焉)

[校異]舎 -> 會 [紀] / 狭 -> 挾 [紀][京] / 母 -> 毎 [万葉考]

[事項]挽歌 作者:高橋 古老 老麻呂 亡妻挽歌 京都 枕詞 地名 天平16年7月20日 年紀

[訓異]しろたへの[寛],

そでさしかへて,[寛]そてさしかへて,

なびきねし,[寛]なひきねし,

わがくろかみの,[寛]わかくろかみの,

ましらかに[寛],

なりなむきはみ,[寛]なりきはまりて,

あらたよに[寛],

ともにあらむと[寛],

たまのをの[寛],

たえじいいもと,[寛]たえしやいもと,

むすびてし,[寛]むすひてし,

ことははたさず,[寛]ことははたさす,

おもへりし[寛],

こころはとげず,[寛]こころはとけす,

しろたへの[寛],

たもとをわかれ[寛],

にきびにし,[寛]にきひにし,

いへゆもいでて,[寛]いへしもいてて,

みどりこの,[寛]みとりこの,

なくをもおきて[寛],

あさぎりの,[寛]あさきりの,

おほになりつつ,[寛]ほのめかしつつ,

やましろの[寛],

さがらかやまの,[寛]さからのやまの,

やまのまに,[寛]やまのを,

ゆきすぎぬれば,[寛]ゆきすきぬれは,

いはむすべ,[寛]いはむすへ,

せむすべしらに,[寛]せむすへしらに,

わぎもこと,[寛]わきもこと,

さねしつまやに[寛],

あしたには[寛],

いでたちしのひ,[寛]いてたちしのひ,

ゆふへには[寛],

いりゐなげかひ,[寛]いりゐなけくや,

わきばさむ,[寛]わきはさむ,

このなくごとに,[寛]このなかしぬは,

をとこじもの,[寛]をのこしもの,

おひみむだきみ,[寛]おひみいたきみ,

あさとりの[寛],

ねのみなきつつ[寛],

こふれども,[寛]こふれとも,

しるしをなみと[寛],

こととはぬ[寛],

ものにはあれど,[寛]ものにはあれと,

わぎもこが,[寛]わきもこか,

いりにしやまを[寛],

よすかとぞおもふ,[寛]よすかとそおもふ,