フランクリン・ローズヴェルトの第4回大統領就任演説

連邦最高裁長官、副大統領[1]、友人諸君よ。「この就任式は簡素に、演説は短くしたい」という私の願いを諸君は理解し、賛同してくれると思う[2]

今日、我々米国民は同盟諸国と共に、この上ない試練の時を経験している。それは我々の勇気を、我々の決意を、我々の叡智を、我々の民主主義の本質を試している。

成功裡に、そして立派に試練を克服するならば、我々は歴史的に重要な功績を残し、永久に全人類の誉れとなろう。

本日ここに立ち、同胞たる国民諸君の面前で――そして神の面前で――厳粛な就任宣誓をなす私は、試練に負けないことこそ米国の目的であると承知している。

今日、戦争における完全なる勝利のために努力し戦っているのと同様に、来たるべき日々や年月においても、我々は公正で尊い平和のため、恒久的平和のために努力する所存である。

我々はこうした平和を達成できるし、達成するであろう。

我々は、完全[3]のため努力する。すぐには達成できまい――それでも、我々は努力する。過ちを犯すかもしれない――だが、気の弱りや道義の放棄による過ちであってはならない。

私は、恩師ピーボディー博士[4]が語った言葉を思い出す。安心で穏やかに思えた日々の中で、博士はこう仰った。「人生における物事は、必ずしも順調にはゆかない。時に高みに昇るかと思えば、全てが逆転して、下降するようにも見える。だが、文明自体は永久に上昇する傾向にあるという大きな事実を忘れてはならない。何世紀にも及ぶ山と谷との中心を通る線は、常に上昇傾向にある」。

1787年の憲法は、完璧な法規ではなかった。今なお完璧ではない。だが、憲法が提供した堅固な基盤があればこそ、人種も肌の色も信条も異なるあらゆる民が、米国民主主義という確固たる構造を築き得たのである。

そして今日、戦争の年である1945年に、我々は教訓を学んだ。恐るべき代償[5]を支払ったが、きっと利益を得るであろう。

我々は、己ばかりが平和に生きる訳にはゆかないことを学んだ。己の幸福が、遠く離れた他国の幸福に懸かっているということを学んだ。現実逃避もせず、他者を害したりもせず、人間らしく生きねばならないということを学んだ[6]

我々は、世界市民となることを、人類共同体の一員となることを学んだ。

エマソンが述べたように、我々は「友を得る唯一の方法は、友になることである」という真理を学んだ。恒久的平和というものは、疑念や不信、あるいは恐怖を持ちながら求めたところで、得ることなどできない。

信念から湧き出る理解と自信と勇気を持って前進して初めて、得ることができるのである。

全能の神は、様々な方法で我が国に恵みを与え給うた。神は、自由と真理のために戦う[7]べく、勇敢な心と強き腕を国民に与え給うた。神が我が国に与え給うた信条は、苦悩する世界に住むあらゆる国々の民の希望となってきた。

故に我々は今、神に祈るのである。己の道をしかと見るために。我々自身や同胞全てをより良き生活へと導く道を見るために。そして、「地上に平和を」という神の意志を成就するために。

訳註

編集
  1. ハリー・S・トルーマン(任1945年1月 - 1945年4月)。
  2. ローズヴェルトは米国が戦時下にあることを考慮し、就任式をできるだけ簡素に行うことを表明していた。
  3. 枢軸国に対する完全勝利を指す。
  4. 「ピーボディー博士 (Dr. Peabody)」とは、マサチューセッツ州の教育者エンディコット・ピーボディー (Endicott Peabody、1857年 - 1944年) を指す。彼はマサチューセッツ州グロトン町に位置する名門学校グロトン・スクール (Groton School) の校長であった。ローズヴェルトは14歳の時にグロトン・スクールに入学し、ピーボディーの薫陶を受けた。
  5. 「恐るべき代償 (fearful cost)」とは、第二次世界大戦で米国が被った人的・物的損失を指す。
  6. 原文は「We have learned that we must live as men, not as ostriches, nor as dogs in the manger」。逐語訳をするならば、「我々は、駝鳥としてでもなく、飼葉桶の中の犬としてでもなく、人として生きねばならないということを学んだ」。
    「ostrich (駝鳥)」とは、「現実逃避者」という意味である。「駝鳥は危険を感じると、砂の中に頭を隠す」とされることから来ている。また、「dog in the manger(飼葉桶の中の犬)」は『イソップ寓話』の一篇「飼葉桶の中の犬」から来た言葉である。作中に登場する犬が飼葉桶の中に入り込んで、牛が飼葉を食べるのを邪魔したことから、「意地悪者」を意味する。
  7. 原文は「strike mighty blows」。逐語訳をするならば、「強力な一撃を加える」。
  • 底本
    • 『アメリカ大統領の英語――就任演説 第2巻 ルーズベルト』 アルク、1993年。ISBN 4872342755
  • 訳者
 

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