シリヤの聖イサアク全書/第四十六説教

第46説教

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<< 真実しんじつなるしきこと試惑しわくことおよ陋劣ろうれつ薄弱はくじゃくにしてまなばざるひとのみならず、いちよくたまはり、そう有様ありさまおいては完全かんぜんたっして、死者ししゃごとくなれるとともに、いち浄潔じょうけつちかづきしものらも〔よくうえたかちしものこのにあるあいだはその生命せいめいよくなる肉体にくたい結合けつごうするにより、しんにより、格闘かくとううちりて肉体にくたいゆえよくより擾乱じょうらんく、ゆえに〕驕傲きょうごうおちいりてほろぶるがためあはれみによりてかれらにわくつかはさるるをかくするの緊要きんようなること。 >>


或者あるものらは日々ひびほうおか悔改かいかいもってその霊魂れいこんいやさんに、恩寵おんちょうかれらをくることただ一再いっさいのみならず、なんとなればすべ聡明そうめいなるせいにはかぎりなく変化へんかおこるありて、各人かくじんため変化へんか時々ときどきしょうずればなり。思慮しりょあるものこれさとるの機会きかいおほ発見はっけんするのみならず、かれ日々ひびみづからこころみる実験じっけんこと此事このことおいかれさん、もしかれ粛醒しゅくせいし、そのもっ自己じこ注意ちゅういするならば、意思いしはその温柔おんじゅうとその謙遜けんそんとに日々ひび如何いかなる変化へんかくると、原因げんいんけられざるあるや、にわか平安へいあんなる状態じょうたいより擾乱じょうらんいたること、ひとだいなるふべからざる危険きけん所以ゆえんとを確知かくちするをん。

せいなるマカリイだいなる先見せんけん注意ちゅういとにより、此事このこと明白めいはくにあらはして、兄弟けいてい記憶きおくせしめ、教訓きょうくんしたるは、反対はんたいなるものにへんじたるとき失望しつぼうおちいらざらんがためなり、なんとなれば浄潔じょうけつ階段かいだんものにも自己じこ怠慢たいまんあるい弛緩しかんのあらざると同時どうじに、堕落だらくつね不意ふいおこるあること、なほ空気くうき寒冷かんれいおこごとくなるべく、かえつてかれらがおのれ秩序ちつじょまもときにさへもかれ自己じこ意思いし反対はんたいなる堕落だらくかれらにしょうずるあるによる。しかして確実かくじつなる実験じっけんもっこれこころみたるふくなるマルク此事このこと証明しょうめいし、絶妙ぜつみょうなる順序じゅんじょもって、これをそのしょあらはしたるは、ひとをしてせいなるマカリイこれをそのしょべたるは、偶然ぐうぜんにして、真実しんじつ経験けいけんによりしにはあらざるごとおもはしめざらんがためにして、かくのごとき二の証明者しょうめいしゃにより、みづから必要ひつようとき慰藉いしゃまった確実かくじつけんためなり。これによりかれ如何いかふか『各人かくじん変化へんかあるは空気くうき変化へんかあるがごとし』といふ。各人かくじんといへることば理会りかいせよ、なんとなればせいいつなるによる、しかしてかれこれひしは劣弱者れつじゃくしゃ悪者あくしゃとのためにて、完全かんぜんなるものいたりては変化へんかまぬかるべく、「エウヒト」らがしょうするごとく、慾念よくねんなくしていつ階段かいだんかわらずつをんと、なんぢおもふなからんがためなり、ゆえにかれ各人かくじんひき。

ふくなるものよ、なんぞや、なんぢふ、寒冷かんれいありてそののちいくばくもなくして暑熱しょねつあり、おなじくまた急霰あられありてすこしくぎて晴天せいてんあり。われらが練習れんしゅうおいてもかくごとあるいたたかいありあるい恩寵おんちょうるのたすけあり、或時あるときには霊魂れいこん動揺どうよううちにありて、激浪げきろうこれむかつておこるあれどもふたた変化へんかしょうぜん、なんとなれば恩寵おんちょうくだりて、かみよろこびと、平安へいあんと、貞潔ていけつにして安和あんわなる思念しねんとをひとこころたしむるによる。けだしかれ此處ここ貞潔ていけつ思念しねん指示さししめすはこれよりさき禽獣きんじゅうごと不潔ふけつなる思念しねんのありしを了知りょうちせしむるものにして、かれ訓諭くんゆあたへてへり、もし貞潔ていけつにして謙遜けんそんなる思念しねんのち劇変げきへんしょうずるあるも、失望しつぼう悲嘆ひたんするなかれ、また恩寵おんちょう慰藉いしゃときにもおなじくほこるなかれ、かえつてよろこびのときにはうれいつべしと。しかしてやまい発作ほっさするあるときわれらにかなしまざらんことを勧諭かんゆするはわれらはこれ引誘いんゆうせざるをようするのみならず、われらに天然てんねん固有こゆうなるもののごとく、よろこんでこれくべきをしめすなり。われらはひとごと失望しつぼうおちいらざらん、すなはち苦行くぎょうためなにするところあるごとく、完全かんぜんにしてかわらざる慰藉いしゃをさへするととも苦労くろうをも、悲哀ひあいをも反対者はんたいしゃ行動こうどうしょうずることをもゆるさずして、われらのしゅかみ此世このよおい此性このせいこれあたふるを適当てきとうのこととはおもはざるべしとひとごとくならざらん。

マカリイこの教訓きょうくんわれらにあたふるは或者あるものらが行為こういはいして、まった閑散かんさんなるものとなるをまぬかれんためなり、また此事このことおもふととも失望しつぼうにより衰弱すいじゃくして、その進行しんこう不活動ふかつどうなるものとなりおわらざらんためなり。へらく聖者せいしゃはすべてこの行為こういかたまもりしをるべし。われ此世このよあいだに、これらの労苦ろうくのちあまり慰藉いしゃわれらにひそかしょうずるあるは、けだし試惑しわくたいするたたかい苦行くぎょうとをもっわれらがかみたいするあい実験じっけん毎日毎時まいにちまいじわれらより要求ようきゅうせらるるものにして、すなはちわれらが苦行くぎょうおいかなしまざるべくうれへざるべきをしめすなり。かくのごとくなればわれらのこうさいわい進歩しんぽせんこれはんして此事このことのがれ、あるいこれとほざからんとほっするものは、おほかみ獲物えものとなるべしと。かくごと簡短かんたんげんもっこの意見いけんかため、この意見いけんきわめて合理ごうりなるをしょうして、読者どくしゃ心中しんちゅう疑団ぎだんまった消滅しょうめいしたるこの聖者せいしゃ驚嘆きょうたんするはじつ当然とうぜんなり。彼又かれまたへらく、これよりとほざかりておほかみ獲物えものとなるものは、みちらずしてかんとほっするものにして、かれはそのこころこれひてもとめんとほっするも、ちちらが布設ふせつせしにあらざるおのれ小径しょうけいかんとほっするなりと。かれまたよろこびのときかなしみをつべきことをもおしふ、恩寵おんちょうはたらきにより、にわかわれらにだいなる思想しそうおこりて、せいなるマルクひしごといと高上こうじょうなるせい心中しんちゅう直覚ちょっかく愕然がくぜんとしておどろき、諸天使しょてんしわれらにちかづきて直覚ちょっかくわれらにたしむるときは、すべて反対はんたいなるものとほざかるべくして、すべてひとかくごと状態じょうたいにあるときおいては、平和へいわふべからざる安静あんせいとはながつづきてえざらん。さりながら恩寵おんちょうなんぢおほひ、なんぢ保護ほごするせいなる天使てんしらはなんぢ近接きんせつし、且此かつこの近接きんせつによりすべての誘惑者ゆうわくしゃ退去たいきょするときなんぢ自負じふするなかれ、動揺どうようせざるみなとたっし、はらざる空気くうきて、逆風ぎゃくふううちよりまったでたれば、最早もはやてきあるなく、あくなる遇会ぐうかいもあるなしと心中しんちゅうおもなかれ、なんとなればおほくのものれを妄想もうそうしてあやうきにおちいりしこと、ふくなるニルひしごとくなればなり。あるいまたなんぢ衆人しゅうじんよりたかければかくのごと状態じょうたいにあるは適当てきとうなれども、人々ひとびとにはその品行ひんこう欠乏けつぼうゆえごう適当てきとうにあらずとおもふなかれあるいかれらは充分じゅうぶん知識ちしきゆうせざるにより、かくのごとたまものうばはるれど、なんぢ成聖せいせいと、霊的階段れいてきかいだんと、かわらざるよろこびの完全かんぜんたっしたるにより、此事このこと権利けんりゆうすとおもふなかれ。これはんして不潔ふけつなる思念しねん不適当ふてきとうなる状態じょうたいとをさらみづから省察せいさつせよ、すなはちこれよりしこしく以前いぜんなんぢ昏蒙こんもうたいしておこところおもい錯雑さくざつ無秩序むちつじょため動揺どうようするときなんぢ心中しんちゅうかためられたるものを省察せいさつすべし、またなんぢ如何いかなる速力そくりょくもっよくかたむき、こころ昏迷こんめいによりこれ談話だんわして、なんぢけたる神聖しんせいなる知識ちしきと、才能さいのうと、そのたまものとにじずおどろかざりしことをおもふべし。しかしてるべし、のすべてはわれ各人かくじんおもんばかりて、その有益ゆうえきなるものを建設けんせつたまかみ照管しょうかんわれらの謙遜けんそんためこれわれらにつかはしたるものなるを。これはんしてもしその才能さいのう自負じふするならば、なんぢてん、さればなんぢひと思念しねんためいざなはれてまった堕落だらくせん。

おわりにるべし、なんぢかたつはなんぢぞくするにあらず、またなんぢ道徳どうとくおこないによるにもあらずして、なんぢをその掌上しょうじょうする恩寵おんちょうこれし、なんぢをしておそれざらしむるを。なんぢ喜歓よろこびとき此事このときおのれ意中いちゅう収納おさめいれよ、せい神父しんぷひしごとく、思念しねんたかぶらざらんためなり、しかして放任ほうにんときには、自己じこつみおちいりしことを想起そうきしてくべく、なみだながしてふくすべし、なんぢこれもっすくいこれによりて謙遜けんそんもとめんがためなり。しかれども失望しつぼうするなかれ。おもいへりくだりて、おのれつみ垂恩すいおんによりゆるさるるべきものとすべし。

謙遜けんそん行為こういなくしてもおほくのつみゆるさるべきものとす。これはんして謙遜けんそんなくんば、行為こうい無益むえきとなるのみならず、われらがためおほくの悪事あくじそなふるにいたらん。すでべしごとく、謙遜けんそんもっなんぢ無法むほうゆるさるべきものとならしめよ。しおすべて食物しょくもつためなるごとく、謙遜けんそんすべての道徳どうとくためなり、かれおほくのつみ勢力せいりょくくじくをべし。もしかれもとるならば、われらをかみ善行ぜんこうなくしてかみまえあらはさん、けだし謙遜けんそんなくんば、われらがことごとくの行為こういすべて道徳どうとくすべて練修れんしゅう徒然とぜんなるなり。

おわりかみ意思いし変化へんかのぞたまふ。意思いしわれらをきわめものともし、また放蕩ほうとうなるものともす。われらをかみまえ無能力むのうりょくなるものとしてたしめんには、意思いしひとつにて充分じゅうぶんなるべく、意思いしわれらにかわりてはん。なんぢ箇程かほど薄弱はくじゃくにしてかたぶやすせいけたれど、恩寵おんちょうたすけにより、ときとしていくばくたかめられ、如何いかなる才能さいのうけて、天性てんせいより一層いっそううえるを感謝かんしゃすべく、また放任ほうにんせらるるときいづまでくだりて、禽獣きんじゅうごとこころるを黙然もくねんとしてかみ告白こくはくすべし。おのれせい不幸ふこうなると、如何いかなる速力そくりょくもっ変化へんかなんぢしょうするとを記憶きおくせよ。せいなる長老ちょうろうひしごとし、いはく『なんぢ驕傲きょうごうねんしょうじ、なんぢげて、「自己じこ徳行とくこう想起そうきせよ」といふときこたえていふべし「老人ろうじん自己じこまよい一見いっけんせよ」と』。るべしまよいとは放任ほうにんときあたり、思念しねん如何いかなるこころみをけて恩寵おんちょうわれらをあるいたたかいひきあるいわれらのため有益ゆうえきなればわれらにたすけあらはしつつ、各人かくじんため建設けんせつするところのものをふなり。

よ、奇異なる長老ちょうろうこの如何いか軽快けいかい言顕いいあらはしたるか。へらく『なんぢ生涯しょうがいたかきをおも驕傲きょうごうねんなんぢしょうずるときはふべし、老人ろうじんよ、自己じこまよい一見いっけんせよ』と。長老ちょうろうこれひしはたか生命せいめいひとひしものなることこれによりて明白めいはくなり。けだし賞賛しょうさんせらるべき生涯しょうがいもったか階段かいだんものほか常人じょうじんはかくのごと思念しねんためみださるることあるあたはざるなり。此慾このよくすで徳行とくこう成就じょうじゅしたるのち、その練修れんしゅう霊魂れいこんよりうばはんがため霊底れいていおこるものなることあきらかなり。もしほっするならば、せいなるマカリイ一文書いちぶんしょにより諸聖人しょせいじん如何いかなる階段かいだんつと、諸聖人しょせいじんこころみんがためなに放任ほうにんせらるるとをまなるべし。此書このしょ大要たいようしもごとし。

アヴワマカリイはその最愛さいあいしょしょして、たたかい恩寵おんちょうたすけときかれらに如何いかなるかみ摂理せつりのあるをあきらかおしふ、なんとなれば諸聖者しょせいしゃ此世このよあいだ徳行とくこうためつみ奮戦ふんせんすることをかれらにおしふるは、かみ睿智えいちてきするものにして、いづれのときもそのかみ不断ふだんかみ注目ちゅうもくするによりて、かみせいなるあいかれらに増加ぞうかせんがためなり、かれ擾乱じょうらんけいおそれをまぬかれて、不断ふだんかみむかふときはしんぼうかみあいとに確立かくりつせん。

いまじつ此事このことぶるは、人々ひとびとともり、なんところにも出入しゅつにゅう往来おうらいして、つねづべき不潔ふけつ行為こうい思念しねんとにしたがものらにぐるにあらず、また黙想もくそうほかありて、おこないまもるも感覚かんかくため時々ときどきとりこにせられ、なんときにも堕落だらくあやうきにのぞみて、なんとなればまったかれらののぞみるにあらずして、かれらと偶会ぐうかいする緊要きんようかれらをこころならざる位置いちつるによる〉ただその思念しねんのみならず、その感覚かんかくをもまった保護ほごするあたはざるものらにぐるにもあらずして、その身体しんたい思念しねんとに注意ちゅういするをくし、擾乱じょうらん人々ひとびと交際こうさいするとよりすべてとほざかり、一切いっさいかつその生命いのちをさへてて、祈祷きとうによりその保護ほごするの便宜べんぎ発見はっけんし、黙想的もくそうてき生涯しょうがいてずして、恩寵おんちょう照管しょうかん変化へんかしゅ管轄かんかつ臂下ひかり、黙想もくそうむか精神せいしんもって、事物じぶつとほざかり、恩寵おんちょうたすけによりてひそか聡明そうめいすすところものらにぐるなり。ねがはくはこの恩寵おんちょうわれらをもこのさかいおいまもらん。「アミン」。