「らい予防法」違憲国家賠償請求事件判決文/section six

第六節 戦後、本土復帰前の沖縄について

第一 本件では、昭和三五年以降の被害を賠償の対象とするものであるが、同年から昭和四七年五月一五日の沖縄の本土復帰までの間、米国統治下の沖縄に居住し、沖縄愛楽園又は宮古南静園に入所していた経験を持つ原告 (原告二五番、同二六番、同四二番)について、以下検討する。

第二 米国統治下におけるハンセン病の法制等

 戦後、米国統治下にあった沖縄では、形式的には旧法が存続し、隔離政策が継続されたが、昭和三六年八月ニ六日、ハンセン氏病予防法が公布施行された。

 このハンセン氏病予防法は、退所又は退院 (七条) 及び在宅治療制度 (八条) の規定が設けられた以外は、新法とほぼ同内容のものであった。同法七条及び八条の規定は次のとおりである。

  (退所または退院)

七条 行政主席は、ハンセン氏病を伝染させるおそれがなくなった患者 (以下「軽快者」という。) に対し、政府立療養所または指定病院から退院することを命ずることができる。

2 政府立療養所の長 (以下「所長」という。) または指定病院の長 (以下「院長」という。) は、退所または退院に際し、前項の軽快者に対して規則で定める証明書を交付しなければならない。

3 第一項の軽快者は、規則の定めるところにより、所長または院長の定期診查を受けなければならない。

  (在宅予防措置)

八条 行政主席は、ハンセン氏病を伝染させるおそれがない患者に対し、予防上必要があると認めるときは、在宅のまま必要な措置を講ずることができる。

2 前項の措置について必要な事項は、規則で定める。

 昭和四七年五月一五日の沖縄の本土復帰により、沖縄にも、新法が適用されることになったが、沖縄振興開発特別措置法により、退所及び在宅治療制度が残された。

 第三 本土復帰前の沖縄のハンセン病政策は、本土のハンセン病政策とは異なる経過をたどってきたのであり、法制自体に共通するところが大きいとはいえ、隔離規定の運用状況や退所許可の実情等については、証拠上必ずしも明らかではなく、本土復帰前の沖縄における被害を、同時期の本土のそれと同視することができるというだけの立証が尽くされているとはいえない。

 したがって、前記第一の原告三名については、本土復帰前の被害については個別損害として本件訴訟の賠償の対象とはせず、本土復帰後の被害のみを賠償の対象とすることとした。

 そして、原告二五番、同二六番及び同四二番の損害額については、原告一一番に準じ、慰謝料を八〇〇万円とし、弁護士費用を八〇万円とする (別紙八)。

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