一 金銀箔類御停止被㆑遊、扨又子共手遊の大人形雛の道具等、結構成物の類御停止被㆑遊候の趣、乍㆑恐御器量せまく、則押付日本衰微の元にて御座候、乍㆑恐御評議を奉㆑察候に、世上奢申故困窮仕たると被㆑爲㆓思召㆒、無益之子共手遊等に箔をつかひ候儀、金銀をついやし候も一途に御了簡被㆑遊候と奉㆑存候、ケ樣の無益の物を高直に調申者は、貧賤の者の調ものにては無㆓御座㆒候、いづれも大身か內福ものもて遊ぶ事に御座候間、溜り金銀を出させ、小身なる細工人等へ金銀をはぶき、茲を以寳の通用と罷成申候、縱ば水道をさらへるごとく、全く費の樣にて曾て費とは成不㆑申候、取も替るも、同日本の中を廻る金銀に御座候へば、更に無益にはあらず候、箔に成失せ候金銀はをしき事の樣に御座候へ共、天運は是に限らず、西へ〳〵と入月日と思へば、東に出る月日、死失る人間とおもへば、人々人を產み、夜晝つかず流すたれる川水の盡る事もなく、一秋の五穀は一年に喰仕舞ても不足もなく、餘て捨し事もなく、金銀又土へ〳〵と落すたれども、又土より出る金銀、とかく世界は車の輪のごとく、行をとゞむれば、出るかたよはし、是天道の御律儀なる御よそほひにて御座候、しかるに右の被㆓仰出㆒、諸職人諸商人何を仕候ても賣れ不㆑申、其日を過しかね申候、扨こそ內福者の金銀動不㆑申、すくみ候故、おのづから世上困窮仕候、奢と申は下を困め、上たる者の婬逸遊興を悉く仕を奢ものとは申候、金銀澤山持たるものゝ高直成る物を調へ申候を奢とは不㆑申候、貧成る者の其日を暮しかね、なげき悲むは莫大の事にて、有福なるものゝ手遊び類結構成物無㆓御座㆒候とて、困事は曾て無㆓御座㆒候、然ば何成とも珍ら敷事を仕出し、內福者のすくみ置し金銀を出させ候が、通用自在の元にて、御靜謐成る御代の美景、武門の御手柄にて御座候、世上ケ樣に次第〳〵囂成候は、全く寳のすくみに相極申候、人は小天地にて、天地全兼俱たる物にて、天地を以人の上に縱候に、毫厘も違不㆑申候、寳のすくみたるを人の上において申候時は、血氣めぐらずして滯たるに御座候、氣血めぐらざれば腫物出來候は、輕分の煩敷物に御座候、眞そのごとく世上煩敷罷成候、前方に養生御加不㆑被㆑遊候は、腫物と成候ては身の內に疵付癒兼可㆑申候、中々細成費等に御心を被㆑爲㆑附候て、天下の困窮止申者には無㆓御座㆒、却て夫に付て困窮仕候、如㆑是を武門の小乘と申候て、格の內にかゝる自由自在曾て不㆑成物にて御座候、武門の大乘ならずしては、一天掌を見るがごとくには不㆑被㆑爲㆑成候、御守行の上にて明日にも相知申事にて御座候、とかく大上の御身においては、米穀を以て世界の本門と被㆑遊、金銀を以手足と被㆑遊候へば、其末あまねふして安く可㆑有㆓御座㆒候、當時御風儀乍㆑恐奉㆑伺候に、金銀を以て本心と被㆑遊、米穀を以支體と被㆑遊候、此前後黑白して大切至極の御事に御座候、只今此前後によつて、金銀の手足餘程不㆑叶樣に相見へ申候、しか〴〵只今療治の眞最中と奉㆑存候
一 近年井澤と申者の書に、明君家訓と申して上下二卷の書御座候、世俗專ら當將軍樣御直作の書とて、或は譽め、或は譏り、其評區々にて當時はやり申候、御上覽被㆑遊候歟、愚には全井澤が自作と決定奉㆑存候譯は、井澤が書に、武士訓と申書御座候、此文と質ひとしく御座候へば、全御上作とは