役せらるる者である。若し再び點檢して增入する所あらば、必ず詐ありと疑はれて禍必ず我等に及ばむと。而も予は哀求して已まざりしかば、乃ち更に大いに怒りて予を執へて外に赴かむとした。予は乃ち出でて心は益々急であつた。視れば階前に架があり架上には甕が有つて此屋を去ることが遠くなかつた。乃ち架を援て上り、手方に甕に及べば身は旣に傾き仆れた。蓋し甕は中虛であつたので、予が力を用ふることが猛烈であつた爲めであつた。仍りて急に趨つて巷門に旁ひ、兩手に錐〈尖端ある鐵〉を捧げて搖撼百度したが終に能く動く莫く、擊つに石を以てすれば則ち響が庭に達して覺られむことを恐れたので、已むを得ず復た搖撼を繰返へし、指破れ血流れて錐忽ち動きて錐は已に掌中に在つた。因りて急に門㧀〈門錠〉を掣ば㧀は木槿であつて雨に濡ひ膨脹してその堅塞錐に倍してゐた。予迫ること甚しく但だ力めて㧀を取るも之を取り除くことが出來ずして而も門樞忽ち折れ、扉傾き垣頽れ聲雷震の如くであつた。予急に身を聳やかして飛び越えたのであつたが、亦力の何邊より來りしかを知らなかつた。疾く後門を趨り