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いくらか
「ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、全くいい! 滅法気の利いた酒落だ! ハ、ハ、ハ、ハ、ハ――
珊作はふところから例のスペインナイフを取り出した。そうして帷の前に歩み寄ると、いきなり、自分自身の影像の心臓のあたりをめがけてズブリと刺した。みるみる帷の表面に醜い血のしぶきが広がった。
「フ、フ、フ、フ、フそれを見ろ! これが昔から仕来り通りの『影』の自殺と云うやつだ!」珊作はナイフを引き抜いた。それと同時に帷の間から、彼と全く同じ服装をした萩原の死体が倒れ落ちた。
「――だが、可哀相な道化めが! 奴は本当にこの世では青木珊作の影に過ぎなかったと云うことを、遉に気が付かなかったと見えるて! ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、……」
そうして青木珊作はなおも高らかに哄笑いつづけた。
*
画室のそとでは、この時、一人の肥った巡査が入口の扉󠄁をはげしく敲いていた。
夜明けの光が次第に白く、丘にひき懸かった深い霧の中へ流れ初めた。