Page:Third criminal judgement of Hirosaki incident.pdf/8

このページは校正済みです

特に動機の不明確を指しているものと認められる。動機の点は、成程殺人の如き事案にあつては犯罪事実の認定上必要欠くべからざるものである。しかし犯罪と被告人との結びつきを証するものが、被告人の法廷外の自白のみしかない案件では動機と認むべきものが証拠上存在しないか、或は存在すると認められても該動機と犯行とが経験則上齟齬する如き場合には、それを犯罪の証明不十分とすることも考え得るが、犯罪と被告人との結びつきを確固たらしめるに足る客観的証拠の存する案件では動機と目すべきものが一応推認され、且つその推認された動機と犯行とが経験則上齟齬しない場合に、動機の不明確の故のみを以て直ちに、これを犯罪の証明十分ならずとなすが如きは、むしろ、それこそ経験則乃至実験則に違背すべきものというべきである。」とするのである。
二、右説明によれば、原判決は、確率を以て本件を有罪とするための基礎的唯一の証拠にして重要欠くべからざるものとしたことがわかるのであるが、一方、この確率に関する鑑定は証拠調の手続を経ないものであり、その結果はこれを証拠となすことができない、勘くとも「厳格なる証明」を要する事実の証拠とすることができないのであることは前第一点論述の通りであるから、結局原判決は証拠裁判主義に反し証拠に拠らずして裁判をなしたるに帰すべく、ために判決に影響を及ぼすべき重大な事での誤認がありこれを破棄しなければ著しく正義に反するものありと信ずる所以である。

弁護人三上直吉の上告趣意

第一点 原審では第一審の裁判は重大な事実誤認ありとして右判決を破棄されたが弁護人見解に依れば本件は「被告人が美貌の松永夫人を殺害したとの案件で起訴状の冒頭「被告人は変態性慾者であるが」と記載し居り起訴事実を通読すれば本件