Page:Third criminal judgement of Hirosaki incident.pdf/6

このページは校正済みです

を援用したのであるが証第三号シヤツに関する証拠調は適式に行われず結局証拠調の手続を経ないものであるというに帰着すべく之を証拠に供したるは違法であると信ずる。左にその理由を述べる。
証第一号シヤツに証拠力ありとするのはシヤツそのものの存在ではなく、シヤツに附着したといわるる血痕の附着状況殊に血痕の色調であつたのである。然るに被告人は捜査の始めから公判手続の終了するに至るまで之等の状況を見せて貰つたものではない。公判において展示されたものは血痕附着部分をクリ抜かれた後の(少くとも第一審鑑定人三木敏行作成鑑定書説明の「左側の襟の左寄りに豌豆大の赤褐色の色痕」は完全にクリ抜かれた後の)シヤツであって到底右附着状況を見ることのできないのであつたのである。それは鑑定上必要があつてクリ抜いたものを今更不能を強ゆる議論であるというのあらば更に一言せんに、鑑定によって消え失せることは鑑定嘱託の際わかつて居ることであるから鑑定に出す前に之を被告人に示し、一応その弁解を取つて置ことこそ被告人保護の規定に忠実であるというべきにそのことなくして最後まで之を被告人に示さなかつたことは遺憾至極である。而かも原判決の如きは第一審判決の理由において「しかるに被告人は、犯行当時アリバイを主張し(中略)血痕の附着してる筈なしと強弁するのみで云々」と説明しているのであるが、この場合何故に血痕附着のままのシヤツを被告人に示すことをしなかつたかを疑うものである。被告人は自分に人を殺したという覚えがなければこそ血がついてる理由がないと強調ができたのであると信ずる。
本件シヤツが押収されてから最初にシヤツの鑑定嘱託を受けた専門家は引田一雄医学博士である。同氏はシヤツに附着する斑痕の色調を帯灰暗色という言葉を以て表現して居るのであるが、灰色の斑痕は被告人が終戦後大湊海軍から貰い受けた後何回となく洗濯して落ちなかつたものであって、引田氏は恐らくこの斑痕を見た