Page:Taketori Monogatari Nihonjidobunko.pdf/5

このページは校正済みです

「たゞのひとでないとはいひながら、今日けふまでやしなそだてたわしをおやおもつて、わしのいふことをきいてもらひたい」
 と、前置まへおきして、
「わしは七十しちじゆうさかして、もういついのちおはるかわからぬ。いまのうちによい婿むこをとつて、心殘こゝろのこりのないようにしてきたい。ひめいつしよう懸命けんめいおもつてゐるかたがこんなにたくさんあるのだから、このうちからこゝろにかなつたひとえらんではどうだらう」
 と、いひますと、ひめ案外あんがいかほをしてこたしぶつてゐましたが、おもつて、
わたしおもひどほりのふかこゝろざしせたかたでなくては、をつとさだめることは出來できません。それはたいしてむづかしいことでもありません。五人ごにん方々かたわたししいとおももの註文ちゆうもんして、それを間違まちがひなくつてくださるかたにおつかへすることにいたしませう」
 と、いひました。おきなすこ安心あんしんして、れい五人ごにんひとたちのあつまつてゐるところにつて、そのことをげますと、みな異存いぞんのあらうはずがありませんから、すぐに承知しようちしました。