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せる事ありし由、白國に於ては所謂元老の一人にして現に國務大臣の禮遇を受く、同男は獨軍の白國侵入によりて恐らく最大の災厄を蒙りし一人なるべし即ち獨軍のルーバン市を占領するや同男の邸を襲ひ男夫人の父君にして齡九旬を超ゆる老翁と夫人の令弟とを男夫妻の面前に於て無慘にも銃殺し金銀財寳を奪ひ去りしのみか學者たる男の生命とも言ふべき書籍及原稿を寸斷して泥土の中に投じたる等あらゆる亂暴狼藉を盡したりと云ふ、温厚なる男も當時を語り出でゝは切齒扼腕淚に雙頰を濕せり、尙男は最近に至りて又最愛の姪を失ひ深き憂愁に沈み居らるゝに一同は重ねの男の不幸に心からなる同情を捧げて同邸を辭し更に同男の案內にてルーバン大學の遺