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きものとすることを構想しその実現を図る自由は尊重されるべきであるところ、同人が上記のコストを生涯負担し続けるとすれば、残された人生を善きものとすることを構想しその実現を図らんとする同人の自由がそれによって妨げられることは否めないところだからである。

(2) 改正前民法724条が保障せんとする第2の中核的利益は、不法行為の存否にかかわる証拠の確保が時の経過とともに困難となることを免れ得る利益(以下「証拠確保の困難性を免れ得る利益」という。)である。証拠確保の困難性を免れ得る利益は、不法行為をしたとされる者が享受し得るのみならず、裁判を受ける権利を有する国民一般の福利にも及ぶものである点において、自己実現を妨げられない利益とは性質を異にしている。けだし、劣化した証拠の下で司法が裁判を行うことを余儀なくされるとすれば、それによって生じるものは正しい裁判を受け得るという国民の期待そのものの低下に他ならないからである。

2 1項で述べたことを踏まえて改正前民法724条を国家賠償法1条に適用することにいかなる意義を見出し得るかを考えてみたい。

(1) 最初にいえることは、その職務を行うについて不法行為をしたとされる、公権力の行使に当たる公務員(以下、単に「不法行為をしたとされる公務員」という。)の自己実現を妨げられない利益を保障することにかかる意義を見出すことはできないという点である。なぜならば、国家賠償法上、不法行為をしたとされる公務員個人は原則として損害賠償責任を負わないと解されるから、同人の自己実現を妨げられない利益を国家賠償法に適用される改正前民法724条が保障する必要はないからである。

(2) そこで次に、自己実現を妨げられない利益を国家賠償法上の責任帰属主体である国又は公共団体(以下では表現を簡略化するために「国」についてのみ言及する。)に及ぼす論理について考える。この場合、自己実現を妨げられない利益は、「国が、不法行為をしたとされる公務員について不法行為があったと認定される可