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ことができない。したがって、第1審原告らの本件請求権の行使に対して上告人が除斥期間の主張をすることは、信義則に反し、権利の濫用として許されないというべきである。

8 以上によれば、本件請求権が除斥期間の経過により消滅したとはいえないとした原審の判断は、結論において是認することができる。所論引用の判例(ただし、平成元年判決を除く。)は、いずれも本件に適切ではない。論旨は採用することができない。

よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。なお、裁判官三浦守、同草野耕一の各補足意見、裁判官宇賀克也の意見がある。

裁判官三浦守の補足意見は、次のとおりである。

1 判例を変更すべき範囲について補足的に意見を述べる。

(1) 本判決により変更される判例は、改正前民法724条後段の期間が除斥期間であることを理由として、上記期間の経過による請求権消滅の主張が信義則違反又は権利濫用である旨の主張は主張自体失当であると解していたが、上記期間については、最高裁平成20年(受)第804号同21年4月28日第三小法廷判決・民集63巻4号853頁の田原睦夫裁判官の意見のほか、多くの学説がこれを時効期間と解してきた。そして、平成29年法律第44号(以下「民法改正法」という。)による改正後の民法(以下「改正後民法」という。)724条も、20年の期間を時効期間と規定するに至り、平成元年判決が、改正前民法724条後段が長期の時効を規定していると解することは同条の趣旨に沿わない旨を判示していたことの合理性も問題となる。そこで、当裁判所の判例が同条後段の期間を除斥期間とする点についても、これを改めるべきか否かについて検討する。

(2) 改正前民法724条後段の期間は不法行為によって発生した損害賠償請求権の除斥期間を定めたものであり、同請求権は除斥期間の経過により法律上当然に消滅するという法理は、判例として確立したものであり、これに従って数多くの裁判