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する損害賠償責任を免れることは、著しく正義・公平の理念に反し、到底容認することができないというべきである。

7(1) 以上のことを踏まえて、改正前民法724条後段に関して平成元年判決が示した法理につき、改めて検討する。

不法行為をめぐる法律関係の速やかな確定を意図する改正前民法724条の趣旨に照らせば、同条後段の規定は、不法行為によって発生した損害賠償請求権の除斥期間を定めたものであり、同請求権は、除斥期間の経過により法律上当然に消滅するものと解するのが相当である。もっとも、このことから更に進んで、裁判所は当 事者の主張がなくても除斥期間の経過により上記請求権が消滅したと判断すべきであり、除斥期間の主張が信義則違反又は権利濫用である旨の主張は主張自体失当であるという平成元年判決の示した法理を維持した場合には、不法行為をめぐる法律関係の速やかな確定という同条の上記趣旨を踏まえても、本件のような事案において、著しく正義・公平の理念に反し、到底容認することのできない結果をもたらすことになりかねない。同条の上記趣旨に照らして除斥期間の主張が信義則違反又は権利濫用とされる場合は極めて限定されると解されるものの、そのような場合があることを否定することは相当でないというべきである。

そして、このような見地に立って検討すれば、裁判所が除斥期間の経過により上記請求権が消滅したと判断するには当事者の主張がなければならないと解すべきであり、上記請求権が除斥期間の経過により消滅したものとすることが著しく正義・公平の理念に反し、到底容認することができない場合には、裁判所は、除斥期間の主張が信義則に反し又は権利の濫用として許されないと判断することができると解するのが相当である。これと異なる趣旨をいう平成元年判決その他の当裁判所の判例は、いずれも変更すべきである。

(2) 前記6のとおり、本件の事実関係の下において本件請求権が除斥期間の経過により消滅したものとすることは、著しく正義・公平の理念に反し、到底容認する