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が透けて見えてゐた。

『あの合資󠄁ワリカンつてのは、外人もはいつてゐるのか』

『いーや、資󠄁本關係はないらしいね、たゞ商賣上、顧󠄁問格といつた奴がゐる、ひどく日本語の達󠄁な奴で銀座尾張町といへばいへるくせに、わざとオワイ町なんてバスの中で呶鳴るんだ、ふざけてるよ――、こないだなんて、ナニ古本? 保町ビンボーちやうよろしい。とやつたぜ』

『へえ、――しやれたもんだね――で、どうだい就職の感想は?』

『インタービユーされてるみたいだナ。併し惡くはないね』

 新聞記者である木村はインタービユーといはれて、一寸照れたやうな顏をしたが、

『惡くなければ結構さ、だがこゝでは來客にお茶も出さん主義かい?』

 と、その木村の聲に應ずるやうにドアーをノツクし、ぴつたり身についたワンピースを粧つた、斷髮の美少女が、靜かにお茶を運󠄁んで來た。

 木村は、急󠄁いで泥靴の足を下してちよこんと揃へると、彼女が、その滑らかな指をもつた手でお茶をすゝめ、一輯して去つた後を吸はれるやうに見送󠄁つてゐたが、

『おい……』

『同僚だよ、机を並べてゐる――』

『ふーん、道󠄁理で君がこの會が氣に入つた筈だよ』

『まさに、その通󠄁り――』

『はつきりしてやがる!』

 河上と木村は、學生時代のやうに笑ひ合つた。そして、

『ぢや、時々來るぜ……』

 と、冗談をいひながら歸つた木村を、戶ロまで送󠄁つた河上は、彼女を思ひ出し、

(わざお茶をもつて來てくれたりしたんだから好意をもつてゐてくれるに違󠄁ひない)

 と、知らず知らず微笑のこみ上つて來るのを覺えた。

 ――が、部屋へ歸つて見ると、珍らしく小村美知子の席が空󠄁いてゐた。彼女が勤務時間中に席を空󠄁けるなんて、實に珍らしいことである。しかも、隨分しばらくたつてから、歸つて來た彼女の足取りは、まるで蹌踉としてゐたのである。氣のせゐか、つい先刻󠄂までは艶やかな赤味をもつてゐた兩の頰が、どうしたことか血の氣を失つてゐるばかりか、その黑い大きい瞳󠄂まで、涸れたやうに鈍い色を見せてゐた。