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に掛けたらどうか、つてことだ、二枚のレコードを同じ速󠄁さで廻すんだ、とすれば例のカチツ、カチツが廻轉數を調整する目印になるわけで、無意味などころか、非常に重大な音󠄁であるわけだらう、デママ、さうやつて見た、ところがやつぱり想像通󠄁りぴつたり合ふと二つの蓄音󠄁器をかけながらカチツ、カチツが一つの音󠄁に聽えるんだ、そして、ボーンもぴつたり合ふ』

『ふーん、寢言は――?』

『それだよ、君。あの寢言みたいなのは、一つの言葉が二つのレコードに分割して記錄されてゐるから一枚づゝ聞いたんでは、まるで寢言なんだせママ、それを二枚一緒に、ぴつたり速󠄁さを合せてかけると、俄然二つのレコードの寢言が調和して一つ言葉になるんだ……』

『しかし……』

『本當か? といふんだらう。本當さ、現に事實なんだからね……考へやうに依つちやかう考へられるよ、つまり、シンフオニ―は各種の樂器の一大ハーモニイだらう、それを一枚のレコードではなく、例へばピアノはピアノ、ヴアイオリンはヴアイオリン、チヱロはチヱロ、といふ風に、別々にレコードして、こんどはそれを一勢に夫々蓄音󠄁器にかけて見たらどうなると思ふ――。シンフオニーのチヱロならチヱロだけのレコードを一枚だけ聞いたんなら、随分妙なもんになるだらうけど、いまいつたやうに、一齊に同じ速󠄁さでかけたら其處に叉シンフオニーが再生出來るだらうぢやないか――』

『……ふーん、さういへばさうだ、であのレコードはどんなことをいふんだ』

『それだ。あの寢言レコードを調和させて見ると』

 木村は、急󠄁に聲をひそめた。


5


 木村は仔細らしくあたりを見廻すと、

『いゝかね、これはあのレコードの言葉を何度もかけて筆記したもんだ――』

と內ポケツトから小さく疊んだ紙片を出した。擴げて見ると、

 ――命令、かねての指令にもとづき、柬京市及び大阪市に於ける赤外燈の整備を至急󠄁完了すべし。但しその各燈を結ぶ對角線の交󠄁點を目的とし誤󠄁差十米以內とす――

 とあつた。

『なんだい、これは?――』