Page:Poetry anthology of Toru Otsuka and Aki Otsuka.pdf/8

このページはまだ校正されていません

16

北海の蟹

陽に興じては
花粉のごとく風にながれ
たそがれにおどろきては
鳥のごとく巣にかえる
あわれ友よ
今日もまた旅をゆくか

海あらき
北国の大いなる蟹を
ふるさとのわれに送りきたれり

(この蟹のかお
恐げに 醜く
毒気あり
食えばかならず死すならむ―)
おどけたる手紙をよみて
恐れを抱きしごと
わが家の妻も児どもも食わずと言う。

北海にそだちし蟹は
今宵 南海の
つれなき男に 食われいる

おどけたる友よ
毒気ある蟹は
うまし。

〈昭和四年、愛誦〉

琉球の女

杏の実の匂うたそがれ
私は 風の贈物をうけよう。

蒼白い月かげにぬれて
デイゴの樹にまつわる
夜潮のささやきを聞こう。

この春 この貧しい町におとずれて
眉のほそい 琉球の女たちは
蛇皮線を弾いて 異国の酒を売った。

鼓を打ち、笛の音にあわせて
エキゾチックな 色あざやかな歌々を
かの日の 疲れはて 青ざめた
娘子軍のかなしい踊りよ!
(そのうつろな瞳は穹を眺めて
 遠くふるさとの老母の姿が消えた)

杏の実の匂うたそがれ
私は この漂白の人達のかなしみをよせて
熱帯の強烈な酒に酔いしれよう。
私は 風の贈物をうけよう。

〈昭和四年、炬火〉

暴風

  A
かぜ
空とおく
かもめをちらし
かぜ
磯松を裂きて
われらに迫る。


  B
ああ ひょうひょうと
読経よ!
泡立つ墓地よ!
今宵 幾艘の舟を呑みて
幾多の命を埋むることか。


〈昭和四年、炬火〉

17