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ぽかんとした
空だ
のっぺらぼうの
つつぬけだ

如是我聞
のう
風よ
 無眼耳鼻舌心意
 無色声香味触法

しんじつ
無如却以来
のっぺらぼうで……
三全世界がつつぬけで……

雪片よ〈掌上に命絶えなん佳人よ〉
花粉よ〈陽に虚ろ宿酔の旅愁よ〉
夕焼よ〈あわれ髪の中の虱の卵よ〉
落葉よ〈ああ獏に喰われてしまった青春よ〉

さて のう
儂も
ぼち ぼち
のうかや 

〈昭和二一年、新涛〉

献詩

―姫路護国神社大祭に―

古巣
つばめのごとく
戦災の街をはろけく
さまよい抜けて
呆と 仰ぎし
ふるさとの古城
夢にあらじか
そをめぐる一帯の緑地
麓なる護国の宮居も焼けず

おもわざりき 今日をして
天都詔戸の布刀詔戸
薫風は朗々として言祷ぎ祭る
国難の鬼か荒御霊よ

祖国くに敗れては
玉しき宮居
詣ずる人もまばらまばら
こは まこと憤ろしけれ
喪服なる若きおみなひとり
春惜しむくさぐさの花を献げて
涙 滂沱と踞るをみれば
いまははや くれぐれも鎮り給え
永遠とわに 国護る神が和御霊よ

われも またひとり
古巣なき
つばめのごとく
飢え 疲れては
ふと啄みし すみれ一花
廻廊わたりどのの一隅に そを置きて
蒼ざめし 戦災の街に
黄昏を さまよい帰らむ

〈昭和二一年、新涛〉

父母は あやまちにして 我を産みき

我またあやまちにして妻子もちぬ

霖雨つゆ降れば あんずは紅く熟するものを

あやまちの生命いのちれて 窓に坐す