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葉末がもえる
じみじみと蒸気を吐いて
葉も枝も生樹は燃えてゆく。

冬朝の
曇天に、
赫ツ!と燃えあがるいのちの焔むら。
じいんとひからびてゆくいのちの翳り。

あゝ 蒼々と骨が燃える。
あゝ 白々と骨が崩れる。

〈昭和五年、愛誦〉

死貌

寒々と蒼ざめた祖先の太陽――
椎の根をふかく沈んだ石の寝棺
母よ
私は熱に呆うけて
せんせんとあなたの子守唄をきいた。
いまだいとけなきぶらんこの唄を……
緋牡丹の花瓣をめぐる白蛾の
遠のいてゆく幽遠な羽音をきいた。

あゝ 深海の昆布のように
舌にからまる 白水の沮。

〈昭和五年、愛誦〉

亡失の詩

緋鯉は
ほとばしるフキアゲをかんじて
眞夏の太陽にジャンプした。

さんさんと五色の虹を身にあびて、
緋鯉は輝やかに昇天した。
おかあさん。
いたつきの瞳は幾年月の春を死んでいたこと
 か。

絶えいるセキズイの痛みに、めざむる
泉のかたほとり。
ろんろんとひびいてくるぶらんこの唄をきいた。

ほとばしる噴水の空に
てんてんとさんざめく金の鱗粉よ。
あゝ 失われし金の緋鯉よ。
いたずらに歳月のみながれて――。

〈昭和五年、愛誦〉

破産

いちまい
また、いちまい
壁土は剝がされてゆく。
 うずたかい
 壁土の山。

みつめているものの泪。
みて見ぬ振りするものの焦立ち。
 じっと耳をすますと
 ばらり ばらり
 壁土は落ちてゆく。

口笛鳴らすおれは空腹。
むせび泣くおっかあと妹。
あああ、この壁土の堆積。

 もがいても
 あせっても
どんなにしても落ちてゆくさだめ。
落ちてゆくべきところに堕ちてゆく。
他人事の悲劇

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