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アテーナイ人諸君、余の言を妨害することなくして之れを聽け。諸君は余の言を聽き了らんとの約束ありしにあらずや。思ふに余の云はんとする所は必ず諸君に善なるべし。又た尙ほ言はんとする所に就いては、諸君或は叫び出たす性質のものなりと雖、諸君願くは此くの如くあること勿れ。余が、諸君の知らんことを願ふ所は、今若し諸君にして、余の如き者を殺したればとて、之れ余を害するよりも寧ろ一層諸君を害するものたること之れなり。メレートス及びアニュトス等は余を害するものに非ず、又た害し能はざるなり――何となれば凡て物の性質として、惡人は自己を害するの外、决して善人を害し得べきものに非ざればなり。惡人或は善人を殺し、或は國外に放逐し、或は其民權を奪ふこと盖し之れあらん、之れ余の否まざる所なり。而して彼れ及び其他の人々謂へらく、能く大に彼れに害を加ふるを得たりと。然りと雖余は之れに同意するものに非ず。何となればアニュトスの爲すが如き――不正義を以つて人命を奪ふが如き――害惡は、之れ一層遙かの大惡たればなり。

アテーナイ人諸君、今余の言はんとする所は、諸君或は想像せんが如く、