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みにすべく嚙み碎くべからず。別言すれば道理上眞理非眞理を問ふは學問の事にして宗敎の事にあらず。斯くホッブスに於いても哲學は吾人が自然に享有せる道理心を以て自然界を硏究するに止まるものにして宗敎とは全く異なる範圍に屬するものとせられたり。

《ケムブリッヂのプラトーン學者等。》〔七〕ホッブスの學說は近世哲學史上唯物論の最も早く明瞭に發表されたるもの、彼れが思想を行るや其の唯物的論據よりして一筋に其の論理的結論へ向かひ行けり、彼れが學說は首尾よく貫徹せるものの一なり。又彼の唱へたる心理說は其の後連綿として續きたる謂はゆる英國心理學硏究の端緖を開けるもの、又特に其の國家及び道德の論は自然主義の見地と其の結論とを最も明瞭に又大膽に唱道したるものとして多くの反抗を喚び起こし爲めに英國に於ける倫理學の硏究に大刺激を與へたり、其の相繼いで現はれたる倫理學說はしばらくはホッブスに對する答辯ならぬは無き有樣なりき。

ベーコン及びホッブスによりて喚起されたる新學術思潮の外に當時英國に在りては他の流派の思想を代表せるものありてこれが當國の其の時及び其の後の精神