Page:Onishihakushizenshu04.djvu/649

このページは校正済みです

過したる全體是れ即ち絕對的理想に外ならずと。斯くして絕對的理想を成す論理的槪念の組織の成立を論ずるもの是れ即ちヘーゲルの有名なる論理學なり。但し彼れが論理學に說ける範圍に於いては、一槪念より其れと反對なる槪念に進み次いで其の一致に進み行くといふも是れ決して時間上の前後を成すといふにはあらず。論理學に於ける槪念の組織は時間上ならぬ永恒なる關係をいふものにして、唯だ吾人が其を考ふる上に於いてのみ時間の前後を爲すものなり。

論理的槪念の組織が外に出でて恰も衣を著けたるが如きものを自然界とす、而して此の自然界を論ずるもの是れヘーゲルの自然哲學なり。自然界發達の極點に至れば精神に到達し、理想は茲に自らを意識するに至る、而して此の段階に達したる理想を論ずるもの是れヘーゲルの精神哲學なり。而して此の精神は初めには主觀的のものたり、次ぎに客觀的のものとなり、更に進んで終に主觀客觀の一致したる絕對的精神の境涯に至る。此等の三段階を經て精神の發達し行く樣を說きたるが中にヘーゲルの歷史哲學、審美學及び宗敎哲學等が含まれ居るなり。

フィヒテ、シェルリング、ヘーゲルの三人相繼いで代表したる哲學思想は是れカン