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而して全人類は段階を成して其が完全なる狀態に向かひて進み行くものなり。斯く全人類が完全なる狀態に向かひ段階をなして進み行くといふ思想は以て能く古來種々の國民の盛衰の歷史を說明し得べきものにして、一國民が一たび榮えて衰へたる後、他の國民が其の文化の遺物を傳へて更に一步を進め行くことを見るなりと。以上の歷史哲學的思想は是れヘルデルが其の著 "Ideen zur Philosophie der Geschichte der Menschheit"(一七八四出版)に於いて述べたる所なり。

當時廣く愛人の主義を唱へて社會を改良し敎育の進步を圖らむと力めたる者には有名なるバーゼドウ(Basedow 一七二三―一七九〇)あり。彼れが敎育上の思想はロックの影響を受けたるものにして又ルソーが其の敎育上の意見を發表したるに接しては大に之れを歡迎したりき。彼れが同志の者には盛んにルソーの說を唱道したるカムペ(Campe 一七四六―一八一八)あり、其の外普通敎育制度の改良に盡瘁して敎育歷史上不朽の名を垂れたるペスタロッツィ(Pestalozzi 一七四五―一八二七)あり。ペスタロッツィが敎育論上の根本思想は人間を一の有機體と見而して其は自然界に於ける他の有機體の發達に於けると同一の法則によりて發達