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しホッブスの謂はゆる自然の狀態は人類の最初に在りしものにあらず、其の變遷するに從ひ漸く茲に達して始めて其の如き狀態となるに至れるなり。ホッブスの謂はゆる戰爭の狀態是れ人類原初の自然の有樣なりきとは考へられず、何となれば、一つには其の如き戰爭の起こらむには各人が多くの欲望を感ぜざるべからず、されど人類が原初の狀態に於いて其の如き多くの欲望を感じたりとは考ふべからず、二つにはホッブスの謂ふが如き戰爭の狀態の始まらむは人々相互の交通の廣くなりて後の事ならざるべからざればなり。且つ又ホッブスは人間の自然に具へたる同情の性を看過したり。されど社會は終に各人皆自利を求めて相爭ひ一人として安居すること能はざる狀態に立ち至れり。是に於いてか財產を有する者は甚だしき危險を感ずることとなり富者相計りて一の狡猾なる策を案出せり、此の世に於いて他にかばかりの奸策の人の心に浮かべるものあらざるべし。彼等富者は他に吿げて曰はく、我等が此くの如く相互に相冒して各〻不安の狀態に在らむよりも寧ろ正義と安寧とを保たむが爲めに茲に一の制度を設け而して各人が現に有し居る所を以て其が正當の所有となして復た相犯さざらむが爲めに法