このページは校正済みです
祕密を探求する傾向を以てしたるはベーメが神祕說の特色なり。彼れはすべての神祕家の如く自己の宗敎的實驗を以て出立したり。彼れは己れの宗敎的實驗の上より考察して、自然の性と生まれ更はりたる性との相對することを發見せり。即ち彼れは其の宗敎的實驗に於いて吾人が自然の狀態より出立し而して其の中より更に生まれかはりて新しき性を現はすことに進むを見、此の自然の樣とそが更に生まれかはり行く狀態との對峙を以て人性の根柢を示すものなりと見たり、而してベーメはかく吾人の心底に於いて發見したるものを以て世界の起これる所以をも考へむとせり。彼れは萬物の暗黑なる太原を名づけて神に於ける自然の性即ち未だ生まれ出でざる神といへり。此の暗黑なる太原が其の自らを現はし自らを知らむとする衝動(Drang)によりて始めて活動する神となる。而してそが自らを知らむとするは是れ即ち其れが知るものと知らるゝものとに分裂するなり。かく神の自ら分裂することなくんば凡べての活動のあらむよしなし。かくては唯だ存在の暗黑なる太原あるのみにして未だ眞に存在物ありとはいふべからず。かくの如く凡べての活動、凡べての存在は自らが相對峙するものに分か