Page:Onishihakushizenshu04.djvu/321

このページは校正済みです

存在を知り得ざるや明らかなり、まして無限なる本體といふが如き者は吾人の知識の範圍內に入り得べきものに非ず、吾人は到底印象を超絕して其の以上に又其の背後に出づること能はず、物體といふも、精神といふも、畢竟印象として吾人に知覺さるゝものの外に出でず、故に印象及び其の類同と時空に於ける其が隣接の關係との外に吾人の知識の根據となるべきものなし、其れより出づること一步すれば其は最早や知識にあらずして寧ろ唯だ想像の境涯に屬するものとなる。

數學に於いては聯想律の第一規則即ち類同の關係を基礎として確實に吾人の觀念の關係を定むるこを得。數學に言ふ所は數及び量の相同じき關係を見ることの外に出でず、而して其等數學上時空の上に於いて異同の關係の認めらるゝ觀念は吾人の思ひ設けたるものなり、例へば直線といふも吾人が印象として實際知覺する一の線を眞實直線と見るにあらずして唯だ假りに直線を吾人の心に思ひ浮かぶるなり。故に數學に於いては一の線と他の線又は一の量と他の量とが全く相同じといふ關係を定むることを得るなり。若し印象として實際吾人の知覺するものに就きて云はば一の三角形と他の三角形とが其の面積に於いて全く