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とし、而して此等の記號を思想のイロハalphabetum cogitationum humanorum)となして恰もイロハを以て一切の言辭を造るが如く、此等思想のイロハを以て凡べて吾人の思想を形づくりて人類一般に通用するものたらしめむの企圖を胸中に懷きたりき。

《衝動、本能、意志の論、道德の根據。》〔一三〕以上は思ひ浮かぶる想念の方面より吾人の心を見たるもの、即ち其が知識の邊を說明せるものなり。ライブニッツは吾人の想念より離さずして其れの傾向、換言すれば、其が更に明瞭なるものとなり行かむとする衝動を說きたり。以爲へらく、件の衝動の明らかに意識さるゝに至りたるもの是れ卽ち吾人の意志なり、意志の活動は想念によりて決定せらるゝものにして絕對に自由に決斷するものに非ず、換言すれば、其の決斷は其が理由によりて決定さるゝものにして吾人がしかく思惟せざるは唯だそを決定する所以のものが漠然と意識さるゝこと多きが故なり。漠然たる種々の觀念に結ばりて漠然たる傾向、衝動あり、而して通常所謂意志の決定は此等に根據して爲さるゝものなれども吾人は唯だ意志の決定をのみ明らかに意識してそを然らしむる所以の心理的作用を自覺せざるが故に