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得ざるなり。しかも差別と平等との相即不離の關係を說く所スピノーザの哲學に於いて尙ほ未だ至らざる所あり。是れ彼れが萬有神說に於ける最も困難なる點と云ふべきもの也。


第三十四章 神祕家及び懷疑家

《神祕家及び懷疑家。》〔一〕スピノーザの哲學は當時に於いて已に多少の遵奉者を得たりき。されど全體より云へば彼れが思想は當時未だ能く了解せられず、之れを無神論と視て烈しき攻擊を加へたる學者多かりき。啻だスピノーザの哲學のみならずデカルトの哲學に對してさへ神祕說の見地より攻擊を加ふる者少からざりき。

今こゝに十七世紀に於いてデカルトよりスピノーザに至れる哲學思想の大潮流の傍にありし神祕家及び懷疑家の說に就きて略述する所あるべし。但しデカルト學派の或者に於いても又特にスピノーザに於いても神祕的傾向は明らかに存在せり。こゝに謂ふ神祕家は寧ろ唯だ神祕說をのみ獨立のものとして懷き其を一の哲學的組織に編み込むよりも寧ろ之れを懷疑說に聯結せしむる傾向を有し