Page:Onishihakushizenshu03.djvu/92

このページは校正済みです

のつひには全く火となるの期あるか否か、これに就きては、哲學史家其の見を異にす。かゝる期なしと論するものは謂へらく、萬物の全く火に歸一するの期ありと說くはこれヘーラクライトスの根本思想に反するもの也、何となれば反對の流行なくば凡べての物消え去ると云ふがその論旨なればなりと。然れども又或所傳はヘーラクライトスの斯かる說を爲しゝことを證すと考ふる史家もあり。


第五章 エレア學派

《エレア學派の根本思想は變化生滅を否むにあり。》〔一〕クセノファネースは凡べての物は一體にして一體は不動也といへり。されど其の不動なる一體と萬物の變化とは如何なる關係を有するかの問題は未だ明らかに說明せられざりき。ヘーラクライトスは此の問題を說きて曰はく萬有は一にしてしかも變化す、否變化し相反對するが故に一なるを得、一なる轉化するとは決して相乖くものにあらず、一元なる萬物が無限に變化生滅する、これ即ち世界の實相なりと。これ一なるものが變化して萬物を成すと云ふミレートス學派の思想を變化といふ事の方面に追窮したるもの也。然るに萬物の變化と其の