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第一期 物界考究の時代

第一章 ミレートス學派

《ミレートス學派。》〔一〕希臘哲學の發端をミレートス學派とす。(ミレートス市に起こりし故しか名づく、或は之れを最初の物理學派又は最初のイオニア學派ともいふ)この學派の眼目とする所は萬物の大原たる一物素を指定して其の物素の變化と見て以て天地萬象の生起を說明せむとするにあり。されば諸現象の原理を見てそが統一的知識を得むとする哲學の大主眼は旣に業に此に現はれたりと謂ふべし。然れども先づ最初には萬物の本原たる一物素を求むるにも尙ほ未だ吾人日常の經驗に接近せる所、即ち吾人の直接に知覺し得る範圍の外に出でざりき。然るにかゝる範圍內にて如何なるものが最も萬物の物素と見做さるゝに適せるかといふに、まづ成るべく變化し易く、成るべく固定の形質なきものならむ。そは其の變化と見て以て萬象の生起を說明せむとすれば也。希臘哲學の鼻祖と稱せらるゝタレースは水を以て斯くの如き物素と見做しぬ。