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《物質界と非物質界、吾人の精神の位置。》〔七〕かくの如く幾多上下の段階を成せる萬物を大別すれば物質界と非物質界とに分かる。非物質界は純然たる靈智のもの換言すれば純然たる相の働けるもの(formae separatae)なり。物質界に於いては相は唯だ物質と相結びて自らを實現す。人間の靈魂は靈智のもの卽ち非物質のものなるが故にまた不死のものなり、然れども其は靈智者の中にては最下級に位するものなれば物質界に接觸して吾人の肉體を形づくるもの(entelechia)として見らるべき方面を具ふ。此の方面に於いては其は物質に於いて其れ自身を實現するものたる也。故に吾人の精神は二方面を具して恰も物質界と非物質界との聯關をなすが如き位置に在り。而して非物質界は物質界の冠として其を全うするものたる也。以上トマスの所說に如何にアリストテレースの哲學が其の形を更へて用ゐられたるかを看よ。
《知性と意志との關係。》〔八〕トマスの心理說に於いては吾人の知性と意志との關係を論ずる所最も注目すべきものなり。彼れはソークラテースに原由して希臘哲學一般の通說となれる吾人の知見が吾人の行爲の指導者なりといふ說を取りて曰はく、意志は吾人の知性が見て善なりと定むる所に從ひ之れを得むとするものなり、卽ち意志の