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夙く中世紀哲學に影響せしは專らそれが新プラトーン學派風の形を取れるものなりき。但し希臘哲學上の著書の當時に傳はれるは基督敎會に於いて新プラトーン學派風の思想を混和して成りしもの及び後世註釋家の手に成りしもの數種の外には殆んど無く希臘哲學者みづからの著作とては唯だアリストテレースが論理學の一小部分及びプラトーンの『ティマイオス』の知られたるに過ぎざりき。新プラトーン學派に從へぱ物の實體として働き居る者は形體なきもの、卽ち精神的のもの一言にいへば理想なり。而して此等理想の根原は絕對に一なる者なり。絕對者より出でて漸くに個物界に近づき下るに從ひて物々次第に不完全となる、而して再び完全なるものとならむには其の段階を上りて絕對者に合せざるべからず。此の新プラトーン學派風の思想に影響せられて中世紀哲學の濫觴となれりしはスコートス、エリゲーナの所說なり。


スコートス、エリゲーナ(Scotus Erigena

《眞哲學は眞宗敎なり眞宗敎は眞哲學なり、エリゲーナの所謂理性の意義。》〔三〕彼れは紀元後八百年乃至八百十五年に生まれ八百七十七年には尙ほ生