Page:Onishihakushizenshu03.djvu/413

このページは校正済みです

ス界の祕密を人類に傳ふる者なり。此のアイオーネス界の祕密を知る是れ即ちグノスティックの謂はゆる知識なり。

かくの如く天地の太原より階段をして勢力の發出することを說きたるグノスティックの發出論は後に希臘の哲學に於いて新プラトーン學派によりて更に哲學的表現を得たる思想なり。而して此等の思想は皆要するに墮落したる者と神聖なる太原との間に媒介を措きて彼れがこれに還るの道を說けるものに外ならず。基督敎會がイエス、クリストてふ救主の媒介に依り人類が救はれて神に歸ることを得と唱ふるも亦同一の根本思想に出でたるものなり。又グノスティックが種々の世界に種々の救主あることを說けるは頗る印度の宗敎思想に似かよへる點ありと認めらる。

《護法家ユスティノスの思想、其の二元論。》〔七〕グノスティックは基督敎會の思想より出立せりといふものから實は大に基督敎會の信仰より離れたる所あるを以て彼等は早くより異端として攻擊せられたりき。此の時に當たり一方は此等グノスティックに對し又猶太敎及び其の他の異敎徒に對して基督敎旨を維持し一方に於いては羅馬の有司が基督敎徒を迫