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を觀るに只管宗敎的眼孔を以てし此の世の成り行きを以て善と惡との常に相爭ふものとなし而して世界歷史の中心を基督の救濟に置きたり。グノスティック宗徒が歷史的に世界の成り行きを大觀して之れに通じたる永劫の眞意義を見出ださむとしたる點即ち歷史哲學風の思想を起こしたる點に於いて其の所說は在來の希臘哲學に存せざる新しき相を帶びたりと云ひ得べし。彼等はまた善と惡との爭に結び付けて神靈と物質との二元を說き而して神(即ち萬物の太原)と世界との間に猶太敎に謂ふ神即ち造物主(デミウルゴス)及び其の他幾多の鬼神をおけり。此の猶太敎の神に與ふる位置に就きてはグノスティックの派を異にするに從ひて異なり。猶太風に傾けるグノスティックはそを萬物の太原たる神とは區別すれど尙ほ之れに與ふるに高き位置を以てし、非猶太的グノスティックは之れを物質を造れるものと見て恰も天地の太原に反對するものの如く考へたり。此等のグノスティックの所說は畢竟猶太敎及び其の他の宗敎思想を網羅し盡くして基督敎理の中に收めむと試みたるものなり。
グノスティック宗徒は神靈と物質との二元を相對せしめしが彼等の或者は更に細