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風俗、感情、境遇、時代等の異なるに從ひて國家の形體にも亦自ら適不適の差別あり。實際に行はるべくしてまた最も適當なるべきものは、一に君主政體(βασιλεία)、これは一人が衆に超越して偉大なる經綸の材を有する時に形づくらるべき國體なり、二に貴族政體(ἀριστοκρατία)、これは少數の人々の一階級が他に比して最も優れたる時代に採用せらるべき國體なり、三には共和政體(πολιτεία)、これは人民一般の知識が發達して自ら支配するを得るに至れる時に適當せる國體なり。以上の三種は皆時に取りて正當なる政體なれども、其の各〻がまた腐敗して正當ならざる形となれるものあり、腐敗すれば君主政體は擅制政治(τυραννίς)となり、貴族政體は唯だ門地若しくは財產を以て政權の所在とする寡頭政治(ὀλιγαρχία)となり、共和政體は愚民政治(δημοκρατία)となる。

斯くアリストテレースは諸種の政體を列擧したるが尙ほ最良のものとして彼れが描けるは賢良なるものの全體に政權の存する政體なり。又若し以上揭げたる種々の政體に於いて通常如何なる制度が最良なるかと云はば其の政の重點が中等社會に在りてこれが國家生活の基礎を爲すやうなる組織即ちそれなりとせり。