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此等の想念によりて經驗を積み漸次に事物の槪念を形づくることとなる。以上は心の知性の作用を說けるものなり。

此の知性の働きと共に欲求(ὄρεξις)の作用あり欲求の作用は快感不快感に結ばり居るものなり。而して快感不快感は或觀念が我が目的とする所を遂ぐるに相應なるか或は不相應なるかによりて其の觀念に結ばり來たるものなり。換言すれば一觀念を吾人が目的の組織の中に入れたる結果として或は之れを肯定し或は否定するより目的に適ふものを欲し合はざるを避くる心を生ずるなり。理性の加はり來たるによりて想念が知識(ἐπιστήμη)となる如く欲求は意志(βούλησις)となる。

《理性。》〔二八〕以上は吾人の身體と相離れざる精神の作用を說けるものにして其の一部は現今の所謂生理的心理學の一模範とも見るを得べきものなり。彼れが心理論は大體に於いて一の實驗心理學の形を成せども其の一たび理性の論をなすや其の說は以上述べたる實驗心理學上の硏究の外にそが知識論及び倫理說をも入れ來たるによりて大に其の趣を異にすることとなる。彼れに從へば、理性は恰