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でたる學者は彼れが學說の未だ整はざる方面を取りておの之れを開發せむと務めたり、或は彼れが辯證的論法を取り或は專ら道德倫理の說を取りておの其の方面に於いて之れを發達せしめむとせり。彼れの敎の唯だ一方面を看たる此等の學者を其の「不完全なる學徒」と名づく。ソークラテースが後世に遺しゝ問題は彼等不完全なる學徒の看取せし所よりも尙ほ一層深き處に橫はれり。明らかに知識問題を自識し來たりてプロータゴラスの懷疑說に對し知識を根本的に立し又之れに根據して道德を建設せむと志しゝはソークラテースの完全なる繼承者とも謂ふべきプラトーンなり。プラトーンは其の師の提出したりし問題の全體を看取したりし也。

プラトーンの哲學を述ぶるに先きだち右云ふソークラテースの「不完全なる學徒」に就いて記せざる可からず。そは彼等は尙ほ皆人事硏究時代に屬する者なれば也。


第十三章 ソークラテース學徒

《「不完全なるソークラテース學徒」。》〔一〕ソークラテースに接して其の學說の影響を受けたる者の中彼れが所說