Page:Onishihakushizenshu03.djvu/152

このページは校正済みです

なる所なり。又ピタゴラス學派にては不定との對峙を說き不定を虛空と見この虛空に形を與ふるありとなし、此の二元を以て萬物生起の趣を說明せむとせしが虛空の存在及び物體の不可割なる單元を說くことの最も明らかになれるをアトム論者とす。ピタゴラス學徒もエムペドクレース、アナクサゴーラス、アトム論者等と共に多元說を唱へたるものと見らるべきが、其のエレア學說に對する關係の親密ならぬことは此等と異なり。同じくパルメニデースの根本思想を以て出立點となせる者の中にてもアトム論者は(虛空の存在と多元とを說けるに拘らず)最もエレア思想に親密なるもの又其の所說の最もよく整へるもの也。アトム論を以て希臘哲學の物界硏究時代に於ける思想發達の頂點に達したるものと見傲して可なるべし。約言すればミレートス學派に於ける一元說はエレア派に至りて其の極點に達し更に一轉して多元說を誘致し而して其の多元說の最もよく整備して一大組織を成せるものをアトム論とす。

《アトム論の創剏者ロイキッポス及び完成者デーモクリトスの生涯。》〔二〕アトム論の創剏者ロイキッポスはエムペドクレース、アナクサゴーラスと略〻其の時代を同じうせしが如し、或はアナクサゴーラスよりも少しく年少なりし