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兩樣に見るの難なくばあらず。一方には一を以て奇偶即ち定不定の對峙の分出する根源となし又一方には其の對峙の一端に位するものとなす。十種の對峙を擧ぐる所にも一を多と相對せしめて之れを定不定,奇偶、善惡等と相並ぶものとなせり。此の難を除かむには諸數の本原なる一と多に對する一とを區別するを耍す。然れどもピタゴラス學派の立脚地よりはかゝる區別を如何に說明すべき、かゝる區別を何處より來たるものとなすべき。此等の點は此の學徒の辯明せざりし所なり。
ピタゴラス派の學說にはかゝる散漫なる所又困難なる所あれど、其の數論即ち數によりて諸物は其の形を定めらると云ふ論及び定と不定との對峙を以て萬象生起の理を說明せむとせる所は優に哲學思想として一緊要地を占むべき價値あり。特に此の學派のプラトーンに及ぼしゝ影響の著明なるを見れば其の希臘哲學思想に於いて輕からざる位置を占むることは否むべからず。又殊に星學及び數學に於いては此の派は遙かに當時の他學派の上に出で其の學の進步に資せること盖し尠少にはあらざりき。