Page:Onishihakushizenshu03.djvu/125

このページは校正済みです

變化を說明せむとしたるは恐らくは彼れがヘーラクライトスの學說に負へる所ならむ。エムペドクレースはパルメニデ一スの謂ふ所とヘーラクライトスのいふ所とを我が學說に攝取して前者を其の所謂スファイロスの狀態に置き後者を愛憎の相爭ふ狀態に置けりしが如し。尙ほ彼れが天文及び宗敎上の所說に於いてピタゴラス學派より幾分の影響を受けたりしは明らかなり。

エムペドクレースが物質分子の混和といふことを以て唯一の原理となしこれに依りて物理、生理、知覺上の現象を說明せむとせしは學說上頗る一貫したる所あるを示すものなれども、これと共に又矛盾の點も尠からず。第一彼れはスファイロスに於いては諸物全く混和すと說きたれどかゝる狀態にありて四元素は尙ほ其の特殊の自性を保ち得べき乎。彼れは或は四元素互に混和しながら各〻其の自性を保存すと思へしならめど一元素が自性自體を守持して少しにても他の元素と相容れざる所ある間は、そは未だ全く相混和せりとは謂ふべからず。若し全く相渾融和合せば四元素は最早各〻其の特殊の自性を保持せずして平等一如のものたらむ。かく一方には地水火風を本來有差別のものと見傲しながら又一方にはス